第54話 旅立ち

「忘れ物は無いね?」


「うん。マジックポーチに大体入ってるよ」


今からこの村を離れるが、だからと言って特にやることは無い。普通にただ出ていくだけだ。

一応、昨日までに村の人には軽く挨拶はしたが、こんな村では若い人が出ていくのはよくある事だ。

ちなみに、ここから冒険者ギルドがある程の都市までは歩いて2日、3日かかるので、朝早くに村から出る。



「じゃあ、行ってくる!」


「おう、頑張れよ!次は負けねーからな!」


「行ってらっしゃい。王都に行ったらみんなによろしくね」


俺は見送ってくれる両親に別れを告げて村から出て歩き出す。






~~〜~~~〜~~



「行ったな」


「そうね」


俺達は出ていったヌルが見えなくなったところでそう呟く。


「今のヌルはどのくらいの強さだと思う?」


「冒険者ランクで言うと、魔法スキル無しでDランク、魔法スキルありだとCランクの強さはあるな」


普通は冒険者になりたてではレベル5ならいいほうだ。だってヌル程本気で特訓している者なんかは居ないからな。とはいえ、人数はそのまま力に即決するので、ソロのヌルだとまだその程度の力しかないだろう。


「力を隠す関係上、しばらくはソロで活動することになるから冒険者のランクを上げるのは大変だとは思うが、その分強くなるのは早いと思うぞ」


魔物を殺す時、大勢で協力するよりも、1人で殺す方が経験値は多く手に入る。ソロで活動するヌルは他よりも遥かに多くの経験値を手に入れられるだろう。


「あら、あなたよりも強くなるのも時間の問題かしら」


「そう簡単には抜かれるつもりは無いぞ。俺は今から狩りに行ってくる」


「あらあら」


俺はヌルの行った方に背中を向けて歩き出す。ヌルが居ない間に少しでも強くなっておかないと父親としての面子がないからな。俺も頑張るからヌルも頑張れよ。





~~〜~~~〜~~



「暇だな」


俺は冒険者になるために村から出たが、暇に襲われていた。これから2日、3日は道なりに沿ってただ歩くだけだ。一応道なので魔物をほとんど出てこない。林の中に入れば出てくると思うが、遠回りになってしまう。



「…走るか」


俺は暇に耐えかねて走ることにした。ただ、緊急事態を想定して闘力の温存のために身体強化は使わない。



「今日はここまでか」


休憩を何度か挟みつつ、走っていると日が暮れてきた。途中で誰かに会うことも無かった。進むのはここまでにしてここで夜営をする。

魔物が匂いにつられてこないように料理はせずに干し肉を食べ、木に寄りかかって目を閉じる。



「こういう時、1人は辛いな」


普通は誰かと夜営することになるので、誰かが起きていればテントで眠ることができるらしい。ただ、俺は1人なので、テントの中に入ったら即座に対応できなくなる。だから木に寄りかかるしかない。


「しかも熟睡はできないんだよな」


熟睡してしまっても魔物に対応できない。だから体を休められる程度の浅い眠りで夜を過ごすしかない。物音ですぐに起きれるようにする訓練は父さんと行った。その訓練の一環で家などでも眠っていると等々に石を投げられることがあったな。また、森の中で夜営でも似たようなことをされた。




「よし、朝か」


慣れというのはすごく、熟睡しなくても一日中走ったくらいの疲労は完全に回復した。


「よし、また走るか」


俺は干し肉を噛み、マジックポーチに入れている水を飲んでまた村に向けて走り出す。



「このペースだと微妙だな」


大体の都市の方角が描いてある地図を見ると、このペースだと都市に着くのが夕方くらいになってしまうと思う。どうせ着くならもっと早く着きたい。


「身体強化」


そのために俺は身体強化を行ってスピードを上げる。これで昼過ぎには都市に着くだろう。



「おお!」


そして、予定通りの昼過ぎくらいに俺の目に巨大な石の壁が見えてきた。これは魔物から都市を守るためにあるのだろう。俺の村の木の柵とは訳が違う。



「ここがイスブルクか!」


俺は都市イスブルクに到着した。

ここから俺の冒険者としての旅が始まる。

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