第53話 制限
「ふふっ…ヌルが降参したからあなたの勝ちね」
「はあ!?これで終わりかよ!」
母さんが笑いながら戦いの終わりを宣言すると、父さんは顔の前にクロスしていた腕を下ろして抗議をする。
「ここで終わったら、俺がヌルに翻弄されただけじゃないか!」
「そうね。でも、あなたも油断し過ぎよ。狩りをしなくなって鈍ったんじゃないの?」
「うぐっ…」
母さんの鋭いツッコミに父さんは自覚があったのか、母さんから顔を背ける。
「はあ…ヌルにいいようにやられたな」
父さんはそう言うと、俺に近付いてきた。
「見ろ、全身傷だらけだ」
俺に近付いてきた父さんが俺に両腕を広げて身体を見せてくる。
防具を装備していない父さんの身体には浅い切り傷が大量に付いていた。そんな中、大鎌で斬った他よりも大きく浅くもない左腕の傷が目立っている。
「あんな魔法を食らったのは初めてだ。中は小さい刃が四方八方無数に襲ってくるんだぞ」
父さんが居たダークバーンの中では小さな刃が無数に飛び交っていたらしい。
「それにしても、ヌルは強くなったな。これなら冒険者としても十分やっていけるぞ」
「……ありがとう」
父さんは俺の頭を撫でながらそう言ってきた。
冒険者としてやっていけると太鼓判を押されたのはこれが初めてだ。つい、嬉しくて涙が出てきそうになる。
「ヌル、俺よりも強くなったと思ったら1度ここに戻ってこい。そして、戦って今度は俺が勝ってやる」
「いや、一応今回も父さんの勝ちなんだけどね」
ただ、俺の涙は父さんのそのセリフで引っ込んだ
どうやら、父さんは今回の戦いを勝ったと思っていないようだ。まあ、父さんからしたら攻撃をされ続け、反撃しようとしたら勝手に終わったのだ。やるせない気持ちはあるだろう。
「うん。分かったよ。今度は父さんを一方的に倒すから覚悟しててね」
「俺も狩りを再開して強くなっておくからな」
父さんと俺は再戦の約束をして握手をかわした。
「はいはい。とりあえず、終わったのだから家に帰るわよ。昨日からご馳走を仕込んでいたんだから」
「そうだったな。ヌル、いっぱい食えよ」
「父さんの分までいっぱい食べるよ!」
それからは家に帰って3人でご飯を食べながら思い出話やこれからの注意点などを話していた。
ただ、注意点で特に気になったのがある。
「冒険者の中にも魔力を感知する人が時々いるのよ。だから人目が無くても魔法はあまり使わない方がいいわ」
それは母さんのこの発言だ。どうやら、魔力感知というスキルがあり、このスキルは魔力を使うと、どのような魔法として使われたということまで分かるらしい。これは隠蔽で隠すことは無理なんだそうだ。
ただ、感知範囲はそこまで広くなく、魔力を使うまで感知などはできないから魔法を使わなければ全く問題は無いらしい。
「だから、使うスキルに優先順位を決めなさい」
「分かった」
いざとなった時にどこまでスキルを使おうか迷わないように今から優先順位を決めた方が良いらしい。
どうしようか悩んだが、母さんのアドバイスを元にすれば意外と早く決まった。
まず、通常では無属性魔法と魔法スキル全てを使わない。
それだと危ないと判断したら、即座に無属性魔法と身体属性強化と付与魔法と闇魔法のストックまでを使う。無属性魔法は魔法のような見た目だが、魔力は使ってない。また、身体属性強化と付与魔法は魔力を使うが、見た目が魔法ぽくは無い。さらに、闇魔法のストックを使う分には魔力は消費しない。これらなら見られたとしても少し怪しまれはするが、何らかのスキルや魔導具と言っても誤魔化せるだろう。
そして、最後にそれでも危険があると判断したら全てのスキルをフルで使う。ここまで使うと確実に魔法まで使えるとバレが、死ぬよりはマシだ。
これらの制限は基本的に緩く定めるつもりだ。何度も注意されているように、力を隠して死んだらただの馬鹿だからな。
「ヌル、朝だぞ」
「ヌル、起きなさい」
「…ん?あれ?」
俺は顔を上げて周りをきょろきょろ見渡す。ここはいつものリビングだ。どうやら、話しながら俺はここで眠ってしまったらしい。
「「誕生日おめでとう」」
「うん、ありがとう」
俺は15歳の誕生日を迎えた。つまり、今日でこの村を出て冒険者になるのだ。
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