第52話 最後の父さんとの戦い 2

「ふっ!」


俺は勢いよく走り出し、父さんに向かって行く。


「斬れ!」


「ん?」


俺は無属性魔法の詠唱をしながら父さんに斬りかかった。

今までは大鎌を大きく振る都合上、少し離れて斬撃を放っていた。しかし、今は詠唱中なのに近くで斬りかかっていることに父さんは少し不思議そうにしている。


「スラッシュ!」


「っ!」


父さんの鉄剣の攻撃を大鎌で迎え打つ少し前に俺は大鎌から斬撃を放つ。すると、まず斬撃で父さんの鉄剣の勢いが止まり、その直後に元から振っていた大鎌が鉄剣に当たる。その結果、いつもは良くて鉄剣を止めることができるくらいなのに、今回は大きく父さんの鉄剣を弾くことに成功する。

別に斬撃は大鎌を大きく振って放つ必要が無いのだ。


「闇れ!」


「っ!!」


父さんと何度も戦ったが、初めて現れた大きな隙を見逃す俺ではない。俺はストックしていた闇魔法を使う。…と思ったのだろう父さんは大きく飛び退いた。しかし、俺は闇れ!と言っただけでストックした闇魔法は使っていない。



「はあっ!」


俺は父さんの鉄剣が弾かれた右側ではなく、左側から大鎌を斜めに振り下ろす。

本来、予想外に鉄剣を弾かれたからといっても、振り直した俺の大鎌くらいなら父さんはガードできるだろう。ただ、それは父さんが真っ先に鉄剣を戻していたらの話だ。

今回、父さんは何よりも先に飛び退いたのでまだ鉄剣は後ろにある。また、飛び退いたことで父さんからの俺にパンチやキックなどの攻撃は届かない。さらに、足が地面に着いていないので新たに回避行動もできない。

そして、俺の大鎌は長いので遠くまで届くのだ。


「ぐっ…!」


つまり、父さんは俺が振った大鎌に対してできることが腕を上げてガードすることくらいしかないのだ。

そのため、父さんは俺の大鎌を上げた左腕で受け、地面に叩き付けられた。


「……」


「守れ!」


父さんは地面で俺から離れるように転がり、すぐに鉄剣を構えて立ち上がる。

父さんの大鎌をガードした左腕には深くは無いが、決して浅くもない傷が付いていた。

今日の最低目標は達成したことになるが、俺はそこで油断はしない。なぜなら、父さんはさっきまでよりも鋭い目で俺を睨んでいるからだ。油断しようものならこの戦いは父さんの俺の意識を刈りとる一撃で終わってしまう予感がするからだ。

だから俺は父さんに向かって詠唱しながら走り出す。



「シールド!」


父さんの元までたどり着く前に無属性魔法が完成し、俺の周りに2枚の縦横10cm程度の小さい半透明の盾が浮いている。


「ふんっ!」


俺の大鎌の攻撃範囲に入る瞬間に父さんが速く、大きな1歩を踏み出し、俺の懐に入ってくる。


「ふっ!」


「くっ!」


大鎌だけでは防ぎきれないと思い、シールド1枚を犠牲にし、勢いを落としてから大鎌をガードした。しかし、それで父さんの攻撃が終わる訳もなく、再び鉄剣を振ってくる。


「よっ!」


俺は横に振られた鉄剣を高く垂直跳びして避ける。だが、ただ上に飛んだだけなので、父さんは下で待ち構える。咄嗟に飛んだのであまり高く飛べている訳では無い。数秒で父さんが振った鉄剣を俺は受けてしまうだろう。

俺が何もしなければ。


「闇れ」


「なっ!」


俺は父さんの真上でストックしていた闇魔法の広範囲に影響があるダークバーンを使う。

この広範囲に影響があるというのが鬼門で、後方にいる普通の魔法職なら問題ないが、敵の近くで戦っている俺は使い時が難しい。

なぜなら、下手に使うと俺まで自分の闇魔法を食らってしまうことになってしまう。だからといって離れても避けられる。

だから父さんは俺が真上で広範囲魔法を使ったことに驚いたのだ。

もちろん、俺は自爆するつもりでこの闇魔法を使った訳では無い。


「よっ!」


俺は自分で作ったもう1枚のシールドを蹴ってさらに空中に飛び上がった。そして、それと同時に父さんは闇に包まれた。さすがの父さんも広範囲魔法は避けられない。

もちろん、俺はその闇魔法は食らわずに済んでいた。



「ギブアップ」


闇魔法が終わり、消えた闇から両腕をクロスして顔を守りながら普通に立っている父さんが見えたので俺は迷わず降参をする。

もう俺は闘力も魔力もほとんど残っていない。父さんには悪いけど、ここで勝ち逃げさせてもらう。

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