第48話 夢と目標
「ふう…」
「おつかれ」
父さんと協力して何とか黒ボア改め、半黒化ビックボアの解体を終えて家に帰ってきた。いつもよりも身体が大きく、かつ半黒化ということで固くていつもより解体は大変だった。結局4分の3ほどは父さんがやってくれた。
「…ヌルは今日の1件で冒険者になるのをやめたいと思ったりしないのか?」
「え?」
家のリビングに座りながら母さんの料理を待っていたら父さんが少し言いづらそうに俯きながら言ってきた。
「もし、ヌルが冒険者になるのはやめたというのならシアやルイと同じように学校に行くという選択肢もある。ヌル1人を学校に入れるくらいの金はあるぞ」
父さんは顔を上げて目を合わせてそう言ってきた。ここで俺はやっと父さんが何でそんなことを言ってきたのを察することができた。
父さんは冒険者に魔物を押し付けられただけでなく、殺されそうになったことで冒険者になんかなりたくないと俺が思っているのかもと想像しているのだろう。
「心配してくれてありがとう。でも、俺が冒険者になるっていう夢は変わってないよ」
俺の事を心配してくれる父さんに嬉しく思いながらも、俺は自分の思っていることを伝えた。さらに、続けて俺は本音を言う。
「確かに今日で冒険者のイメージは多少変わった。ただ、結局変わったイメージは始めから父さんと母さんに言われていた通りで、俺の自覚が足りなかっただけだから」
両親は今日のようなことを想定してか、俺に気を付けろと何度も言っていた。それなのに実感できていなく、勝手に軽く考えていたのは俺だ。今にして思えば、冒険者になってから痛い目を見るよりもこうして早くから痛い目を見て現実を知れてよかったかもしれない。
「別に元々俺は自由に何でもできる冒険者ってものに憧れてたんだよ。だから別に魔物を倒す冒険者に憧れてた訳じゃないから、魔物を押し付けられたのもやりやがったなって程度なんだよ。
ただ、冒険者になるってことだけじゃ俺の夢は叶わないっていうのは実感した」
自由に生きるのは冒険者になるだけでは訪れないというのは今日で分かった。
「だから俺は冒険者になって今よりもさらに強くなる。それは父さんに魔法を使わず勝てるくらいに。そして、冒険者のランクを上げて誰にも負けないようになるよ」
結局のところ、俺が今日命の危険があったのは弱かったからだ。魔物を押し付けられてもその魔物を楽に殺れる力があれば危険でもない。また、誰かに襲わてもその襲ってきた者よりも遥かに強かったら全く問題ないのだ。
「まあ、口で言うのは簡単だけど、実際に目標を達成するのは難しいと思うけどね」
強くなるのはそう簡単に短時間にできるものでは無い。人前で魔法を気軽に使えないから尚更だ。
「目標を見つけたのはいいことだ。ただ、目標が高く難しいからって簡単に諦めるなよ」
「うん。難しいのは自覚してるから無理せずに頑張るよ」
正直、冒険者になってからどうしようという気持ちはこれまでも漠然とあった。しかし、冒険者になってからの目標が決まった。
「おまたせ。半黒化ビックボアのステーキよ」
「「美味そう!」」
俺と父さんの会話が終わったところで母さんの料理も完成したようだ。テーブルの上に置かれた大きいステーキに俺は目が釘付けになった。
「いつものボアよりも何倍も美味しいと思うわよ」
「「いただきます!」」
俺と父さんはステーキにかぶりついた。
「「うまっ!」」
そして、いつものボアよりもかなり美味しいことに驚いた。これを食べた後では普通のボアが獣臭く感じてしまいそうなほど、このステーキには獣臭さは無い。また、あんなに硬かったはずなのに普通のボアよりも柔らかく、筋っぽさ全くない。そして、噛めば噛むほど肉汁と共に旨味が溢れてくる。
「食べられる魔物はランクが上がれば上がるほど美味しいとされてるわよ。もちろん、料理の腕によっても変わるだろうけどね」
「うぐんぐ…」
俺は母さんの話に返事もしないでステーキを貪り食った。
そして、俺は冒険者になったら強くなってどんどん食べられる高ランクの魔物を倒してその味を楽しむと決めた。また1つ夢ができた。
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