第46話 一難去ってまた…
「おいっ!静かになったぞ!どうなったんだ?」
「それを今から見に行くんだろ!まだアレが生きてるかもしれないから静かにしろ」
「っ!」
俺が木に寄りかかって休んでいると、誰かの声が聞こえてきた。俺は切ろうとしていた身体強化と闇身体強化を切らずにかなり弱めにする。これで強化をしているということは視認できなくなった。
「お、おい!やったぜ!相討ちだ!」
「ガキだけが死んだかと思ったが、あのガキは意外と頑張ったみたいだな」
「……」
目を閉じたままの俺のそばに2人の声と気配がやってきて騒いでいる。会話からあの時、俺に黒ボアを押し付けて逃げたヤツらだろう。
「ブラックボアの方はこの傷だと完全に死んでそうだが、ガキの方は目立った外傷が無いから生きてるかもしれないな」
俺の傍にやってきた1人がそんなことを言う。どうやら、俺が狸寝入りしているのには気がついていないようだ。
そして、俺が殺った黒ボアはブラックボアという名前のようだ。
「どうする?」
「ガキの方は念の為槍でも刺してちゃんと殺すだろ。もし、生きてて俺達のやったことを伝えられたら俺達は犯罪者だ」
(っ!?)
俺は心臓が大きく鼓動したのを感じた。
確かに村に魔物を連れて行こうとしたり、魔物を他人に押し付けたばかりか、背中を押して囮にしようとしたのだ。露見すれば犯罪者となるのは確実だろう。また、都市には言っていることが本当か嘘かを判断できる魔導具があるらしいので、言い逃れもできない。
だからってこうも平然と殺すという選択肢を取るとは思わなかった。
「村の奴らも槍ならブラックボアに刺されたって思うだろうな」
「むしろ村のガキの仇を取ってくれたって喜んで褒賞をくれるかもしれないぜ」
2人は俺に聞かれているとは知らずに会話しながらゲラゲラと笑っている。それを聞いて俺は怒りを通り越して逆に冷静になってきた。
「傷もあんまりないからこのブラックボアは大銀貨何枚にもなるだろうぜ」
「ブラックボアにちょっかいかけた時は思ってたよりも強くて焦ったが、いい儲けになったな。どうする?またこれをやるか?」
「何度もやったらさすがに疑われるぞ。だからちょうどいい魔物をたまたま見つけた時だけにしようぜ」
「そうだな」
こいつらが悠長に会話をしてくれたお掛けでその間に俺の作戦は立て終わった。
しかし、こいつらは俺と同じような被害者をまだまだ増やす気のようだ。どこまでもクズなんだな。たまたまあった冒険者がこれなのだから、父さんの言う通りこんな冒険者の数は多いのだろう。
「じゃあ、そろそろ殺すか」
「起きても面倒だしな」
長い会話も終わり、とうとう俺を殺す気になったようだ。シュッ!という槍を抜く音が聞こえてくる。俺は気付かれないように薄目を開ける。
「あばよ!俺達の為にわざわざありがとうな!」
槍を大きく振りかぶったタイミングで俺は弱くした身体強化と闇身体強化を全力にした。そして、そのまま手元の大鎌を握り、勢いよく起き上がった。
「しっ!」
「なっ!」
起き上がった俺は油断し切っていた槍を振りかぶっている男の首を落とした。突然のことにもう1人の男が呆然としている。呆然としている暇はあるのか?
「ま、待っ…!」
「はあっ!」
何かを言いながら後退ろうとしていたもう1人の男の肩から斜めに大鎌を振り抜く。
「…防具はやっぱり硬いんだな」
安っぽく少しボロい皮の装備だったが、男の身体を両断することはできず、大鎌は胸を少し過ぎたところで止まった。とはいえ、即死だろう。
「…なんか疲れたな」
黒ボアに続き、初めて人間まで殺したのだ。肉体的にも精神的にもかなり疲れた。
「今日は帰ろう」
まだ狩りを始めて1、2時間しか経ってないが、獲物は黒ボアがいるので十分だろう。
俺は解体をしていない黒ボアをマジックポーチにしまった。そして、少し悩んだが、2人の冒険者の死体も容量には余裕があったのでマジックポーチにしまうことにした。これをどうするかは父さんと母さんに聞こう。
「あーあ、血だらけだ」
今の俺は顔から体までかなり返り血で汚れている。いつもなら返り血を浴びないように戦っていたが、今日の2戦にはそんなことを考える余裕はなかったからな。
「帰ったら真っ先に母さんに綺麗にしてもらお」
母さんなら生活魔法でこの血を綺麗にできる。まず真っ先に母さんに会おう。俺はそう決めてとぼとぼと家に向かった。
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