第44話 事件
「じゃあ、行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
俺はいつも通り家事をしている母さんに挨拶をし、狩りへと出かけた。
ちなみに、この時父さんは庭で薪を割っていた。
「さて、今日はこっちにしよう」
1人の狩りを始めて2週間が経ったが、もう既に慣れている。と言うよりも父さんとの狩りも数ヶ月経ってからは父さんは何もせず、ほぼ1人でやっていたようなものだった。だからあまり変わった様子は無い。
「ん?」
森に入って数十分経ったくらいだった。俺は異変に気が付いた。まだ魔物に遭遇していないが、それは珍しいことでもない。運が悪いと半日くらいは平気で遭遇しないこともある。俺が感じた異変は別にある。
「何だこの音は?」
何か騒いでいるような音と、メキメキメキという木が大きくしなるような音がある。それは森の奥から聞こえているようだ。俺は身体強化と氷身体強化を全力でかけて警戒した。
メキメキッ!ドンッ!
「ボアか!?いや!違う!」
倒れた木と共に大きな猪のような魔物とそれから逃げる2人の青年が現れた。最初はその魔物は普通のボアかと錯覚した。しかし、遠くから見てもいつものボアと違うのはすぐにわかった。それはその大きさと感じるプレッシャーが違く、さらには色が普通の茶色ではなく、黒っぽかったからだ。また、そのボアは普通のボアよりも体が3、4周り以上も大きく、その牙もそれに比例して大きくなっている。
恐らく、あれはボアの上位種というボアから進化したとされている魔物だろう。つまり、普通のボアよりも高ランクで強いということだ。この魔物の名称までは知らないので、仮に黒ボアとしておこう。
「おい!こっちに来るな!逃げるなら別の方向に逃げろ!この先には村があるんだぞ!」
俺は森に入ってそんなに時間が経っていない。つまり、このままこの先に逃げれば村に入ってしまう。父さんなら倒せるだろうが、それまでにこの黒ボアは村人を襲うだろう。
「聞いてないのか、聞こえてないのか、分かっててやってくるのか…」
俺が大声で叫んでもそいつらの行動は変わらなかった。まだ距離があって反応が見れなかったのは残念だ。
「ちっ…俺も手伝うから3人でこいつを殺るぞ!」
俺は舌打ちをしてからそう提案し、大鎌を抜いた。このまま村に行かれたら黒ボアによって死人が出てしまうかもしれない。なら俺達で殺るしかない。
……こくっ
目の前の逃げている青年は2人で何かを話すと、俺の顔を見て頷いた。俺は大鎌を構えて黒ボアが来るのを待った。
「ん?」
そこで異変に気がついた。2人は近付いてきても全くスピードを緩めない。
「あっ!てめぇら!」
俺がそう思った時には遅かった。2人はそのまま俺の左右を通り過ぎた。こいつらは俺に黒ボアを押し付けやがった。いや…押し付けただけなら良かった。
気を取り直して黒ボアに集中した俺の背中にドンッ!と思わず体勢を崩してしまう程の衝撃が走った。
「てめぇ…」
反射で後ろを向くと、俺の背の方に手を伸ばしている2人の姿が見えた。しかし、俺はそいつらに目線を移したのは一瞬だった。なぜならもうすぐ目の前に黒ボアが迫っているのだ。
「くっ…!」
体勢を崩したので俺はもう回避は無理と判断し、全力の強化のまま大鎌で突進をガードした。
「うぐっ!」
前のめりになった体勢では踏ん張りが効かず、俺はスピードに乗った黒ボアの突進に勢いよく吹っ飛ばされた。
「かはっ!」
吹っ飛ばされた勢いもすぐ木にぶつかって止まることになった。しかし、どうやら斜めに吹っ飛ばされたせいで青年達とは違う方向に行き、目の前で魔物と睨み合うことになった。どうせならあいつらの方に吹っ飛ばしてくれればよかったのにな。
黒ボアは完全に俺を狙うつもりのようだ。もう逃げることは不可能に近いだろう。
「やるしかないか…」
幸い、木に激突した背中は痛むが、立てたので骨が折れたということは無いだろう。ぶつかった木がメシっと音が鳴ってたくらい勢いよくぶつかっていたが、全力強化のおかげだろうな。
近くにまだあのゴミ共が居るかもしれないが、構う余裕はない。下手に躊躇すると死ぬことになる。
「轟け!」
俺は詠唱を始めながら俺を睨んで警戒している魔物に向かって行った。
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