第43話 1人の狩り

「今日はこっちにしよう」


俺はそう独り言をし、茂みを進んで行く。毎日同じ場所を行くと、だんだん数が減ってくるのだ。だから毎回道を変えて森を歩く。



「おっ、今日は幸先がいいぞ」


小声で呟いた俺の先には4体のボア群れが居た。こんなに群れているボアに遭遇するのはそれなりに珍しい。


「闇れ、轟け…」


俺はストックしていた3本の闇の矢を自身の周りに漂わせながら詠唱する。そして、それと同時にボアに向かってできるだけ静かに走り出す。


「サンダーアロー!」


「「「「ブホォ?!」」」」


魔物達が俺に気が付いた時には魔法の詠唱が終わったところだった。闇の矢が3本、雷の矢が1本、合わせて4本の矢がそれぞれボアに向かっていく。その矢は全てのボアの頭に命中する。


「2本余分だったかな」


外れた時のことを考慮して2本の矢は手元に残していたが、要らなかったようだ。このまま漂わせても魔力を無駄に使うだけなので、適当な木に放っておく。

ちなみに、最近は魔物を魔法で倒すようにしている。やっぱり魔法のスキルレベルを早く上げたい。


「さて、解体するか!」


俺はマジックポーチからナイフを取り出して解体を始めた。

今までは大鎌で解体をしていたのだが、どれだけ経っても解体のスキルが取得できなかった。その理由を考えたら、もしかすると大鎌での解体のスキル経験の大半は大鎌術に吸われているのではないかという結論に至った。だから最近はナイフで解体するようにしている。やはり、ナイフは大鎌に比べて手際は悪いが、仕方がない。



「ん?」


4匹目のボアを解体していたのだが、急にナイフの切れ味が増したように感じる。心做しか捌けばいい場所が感覚的にわかる感じがある。


「ステータス…やっぱり!」


ステータスを確認すると、そこには新たに解体が追加されていた。いや、本当に今日は幸先が良い。



「よし、行くか」


解体も終わり、再びダークアローをストックして俺はまた森を進み出した。やはり、アロー系の魔法は威力は低いが、手数が多く消費魔力もそこまで多くないのでお気に入りだ。



「ん?今度はゴブリンか」


次は5体のゴブリンが居た。今日は数が多くていいな。


「凍てつけ!アイスフィールド」


俺は目の前の地面に薄く氷を張った。


「斬れ!」


「「「グギャギャ!」」」


俺が大声でそう言うと、ゴブリン達が気味悪い声を上げながらこちらに向かってくる。それを見て俺は腰を低くして構え、大鎌を横に振りかぶる。


「「「ギャッ?!」」」


「スラッシュ!」


ゴブリン達が転倒したのを確認してから大鎌を振って無属性魔法の斬撃を低く放つ。

その斬撃は無様に転んでいた全てのゴブリンをバラバラにした。


「ふぅ」


ボアと違い、ゴブリンは食用にはならないので遠慮なくバラバラにできるので楽だな。意外と綺麗に倒すというのは難しい。

ただ、冒険者としての依頼となると、討伐証明の耳を渡したり、その魔物自体をギルドに売るためなどでボアと同じようにできるだけ傷を付けないようにしないといけない。ここまでバラバラにしてしまうと耳を取るのも難しいからな。



「よし、次を探そう」


俺は地面の氷魔法を解除し、ゴブリンを放置して歩き出した。ゴブリンは解体をしなくていいから早く済んでいいな。

ちなみに、この程度の魔法なら時間経過で消えるのだが、もし誰かいた時に俺が魔法を使ったと悟られないように毎回消している。




「い、居なかった」


結局、この日に出会った魔物は最初のボアとゴブリンだけだった。調子がいいのは最初だけだったみたい。


「まあ…下手に多過ぎるよりはいいんだけどさ」


要因は様々あるらしいが、魔物が急激に増えて村や街を襲うスタンピードというものがあるそうだ。急に魔物が増えたらそれを警戒しなければならない。だから魔物が多くないのはいいことなんだけど、どうせなら多くの魔物を倒して強くなりたい。


「これは本格的に父さんに頼んで奥に行かせてもらうしかないかもな」


1ヶ月くらいして1人の狩りに慣れたら父さんに頼んで一緒に奥の方に行ってもらおう。それで実力が保証されたら1人でも行けってもいいという許可をもらおう。

なんて考えていたのだが、2週間後に俺の冒険者人生を大きく変える出来事が起こる。

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