第39話 初めての魔物

「あいつらは強かったか?」


「そりゃあ強かったよ。特にシア母さんには何もさせてもらえなかったし」


俺は父さんと狩りに行く準備をしながら昨日までのことを話していた。

また、3日も経つと、父さんへの恐怖心はすっかり消え、元のように話せるようになっていた。


「今のヌルは弓使いとは相性が悪いかもな」


シア母さんは弓を使ってきたのだが、近寄ろうてしても一定の距離を保ったまま弓で射られた。だからと言って魔法を使おうと詠唱をすると、詠唱を妨害するかのように弓を射られる。本当に何もさせてもらえなかった。どうな状況でも冷静に詠唱する能力が足りないと実感した。



「ルイ父さんも戦いやすくはあったけど…」


「何も効いてなかったな」


ルイ父さんはハンマーを使っていたが、動きが速い訳では無いから攻撃を当てることはできた。しかし、防御が父さんよりも高いのか何も効いていなかった。どれだけ威力を上げようと何も効かないのだからさすがに参った。だからといってムキになって攻め過ぎると一撃必殺のようなハンマーに当たりそうになる。

俺の感覚的にはシア父さんがスピードタイプで、ルイ父さんがパワータイプで、俺の父さんがバランスタイプといった感じだ。本当にバランスが取れたパーティだよな。



「えっと…これでいい?」


「おう。バッチリだな」


俺は話しながら装着していた防具を父さんに見せたてチェックしてもらった。

この防具はルイ父さんからまた貰ったものだ。首下から足まで全身が動きやすいように革でできた鎧だ。とは言っても、いつもの服装に比べたら重く、硬いから動きにくい。また、胸には金属の少し厚いプレートが付いている。


「じゃあ、いくぞ」


「う、うん」


「行ってらっしゃい」


俺は大鎌を背負って少し緊張しながら父さんに着いて行って森の中に入っていく。



「森の中は意外と静かだね」


「まだ浅い場所だしな」


初めて入った森の中は俺の想像よりも静かだった。また、木々の隙間もある程度空いていて、木の合間を縫うことなく真っ直ぐ山を昇っていける。



「ヌル、見ろ」


「これは…足跡?」


30分程森を歩いていると、父さんから地面を指さされた。その地面には不自然に少し細長い線が2つくっ付いているような跡が一定の感覚でついていた。


「そうだ。この足跡があるということは近くにいる可能性が高い。この足跡を追っていくぞ。ここから先はいつ出くわすか分からないから警戒しておけよ」


「う、うん」


俺は緊張しながら足音を抑えながら歩いていく父さんについて行った。



「居たぞ。ボアだ」


「あれが…」


足跡を見つけてから1時間ほど森を進むと、少し先の茂みの先に2m弱ほどのボアという猪のような魔物が居た。このボアという魔物はE+ランクだ。

ちなみに、魔物は身近にいるような弱い魔物のE-ランクから伝説で最強とされるような魔物SSS+までがランク付けされている。つまり、ボアは魔物の中でもかなり弱い部類だ。



「知っていると思うが、あの牙に気を付けろよ」


「うん…」


そのボアには口から左右合わせて2本の尖った鋭い牙が生えている。ボアの突進でその2本の牙がまともに当たると、俺の革装備も余裕で貫くことができるらしい。弱い部類とは言ってもレベル1の俺からしたら十分脅威となる魔物である。


「どうする?1体だが、最初は俺がやるか?」


「いや、俺がやる」


父さんが見本を見せてくれようとしたが、俺はそれを断った。この先、冒険者になったら初めての魔物に会う機会がごまんとあるのだ。その都度誰かが倒し方の見本を見せてくれる訳では無い。だからここは父さんの狩り方を見る前に自分なりに戦ってみたい。


「わかった。油断するなよ」


「うん」


俺はゆっくりとボアに近寄ろうとしたが、それはやめて身体強化と氷身体強化をした。そして、ボアに見つからないように屈むのもやめ、大鎌を抜いて近くにある石を大鎌で叩いた。


カンッ!


「ヌ、ヌル?!」


「ブオッ!?」


俺の行動に父さんが驚いているが、今はそれどころではない。石を叩いた音に反応してボアが俺達に気付いた。ボアは武器を握って先頭に立っている俺に注目すると、勢いよく突進してきた。

その突進を見た感想は思っていたよりも遅いということだった。これなら素早さで俺を翻弄して遊んでいたシア父さんの方が何倍も速い。また、父さんの時のような身体が震えて詠唱ができない程の恐怖もない。だから俺はストックしていた闇魔法を使うのを止める。



「はっ!」


俺はボアの突進を余裕を持って横に避けると、俺のさっきまで居た場所を通り過ぎようとしているボアに大鎌を振る。俺の大鎌はボアの耳の後ろ辺りに当たると、そのままボアの首を落とした。

こうして、初の魔物との相対は案外簡単に早く終わってしまった。

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