第38話 恐怖の意味
「んー…」
俺の視界には青空が広がっている。雲一つない晴天である。あれ?俺は寝ていたのか?寝る前は何をして…
「はっ!」
俺は記憶を思い出すとともに寒気に襲われて体を勢いよく起こした。さっきまで何があったのか完全に思い出した。
「ヌル、起きたか」
「っ!!」
俺はその声を聞いた瞬間に反射的にその声の方向とは逆の方向に飛び退いた。そして、咄嗟に大鎌を探したが、手元には大鎌は無かった。
「その反応は警戒心が増したと喜んでいいのか、ショックを受ければいいのか分からないな」
「あ、父さん…」
今の行動で目が完全に覚めて、少し冷静になった。そのおかげで目の前に居る父さんの事を見ることができた。父さんは頬を引きつらせながら少し微笑むというよく分からない顔をしている。
「まずはヌルには怖い思いをさせて悪かった」
父さんはそう言うと、その場で深く頭を下げる。
「…怖いなんて生易しいもんじゃなかったよ」
「あははっ…。あの時は本気で殺すって意志を込めていたからな」
つい憎まれ口を叩いてしまったが、言っていることは事実だ。あの時は本気で死ぬかと思った。
「…でも、あれは何らかの意味があったんだよね?」
しかし、今冷静に考えると、いつもあんなに俺の事を思ってくれている父さんが急に俺を殺そうとするはずがない。つまり、あの行為には何らかの意味があるのだと思う。
「ああ、冒険者になる…いや、この世界で1人で生きていく以上、死ぬかもしれないという場面は必ずやってくる。その時にその恐怖に脅えて何もできなくなってほしくなかったんだ。だから俺が擬似的にその恐怖を与えて鍛えた」
父さんのあれは俺が死の恐怖に立ち向かえるようにしようとしての行為だったそうだ。
「それと、これはある試験も兼ねていた」
「試験?」
試験されることがあったか考えてみたが、特に何も思い浮かばない。
「ヌルが恐怖に立ち向かえると分かったから、次に狩りへ行く時はヌルも連れて行こうと思う」
「え!?ほんと!」
俺はそれだけでさっきのやつを許してもいいかもと思った。
「ああ。ただ、しっかり森に入って魔物を狩る以上、何が起こるか分からないから当分の間は俺の指示に従ってもらうぞ」
「うん!」
俺は今から魔物を狩るのが楽しみになってきた。魔物を狩ると言うことは経験を得れるということだ。
レベルは何かを殺すことによって得れる経験値が一定以上溜まると上がるとされている。つまり、魔物を狩り続ければレベルも上げられる。
「まあ、とは言っても次の狩りはあいつらが帰ることになる3日後だからな」
「わかった」
俺は今からその3日後が待ち遠しく思う。あ、でもシア、ヌルの両親が早く帰ればいいとは思ってない。
「ほらっ」
「っ!」
「あっ…」
近寄ってきた父さんが俺を立ち上がらせようと手を差し伸べてきた。しかし、俺はそれを警戒してしまって少し後ずさってしまう。その反応を見て父さんは悲しそうな顔をした。
「ほら、一生目を合わせることも口をきくことすらできないのも覚悟してやったくせにそんなことでいちいち落ち込んでじゃないわよ。覚悟は決めたんでしょ?」
「あ、ああ」
そんな顔の父さんを見ていた母さんがやってきて父さんにそう言った。
「っ!」
「あっ」
俺は母さんの言葉を聞いて手を引っ込めようとした父さんの手を掴んで立ち上がった。
「さすがに今すぐにいつも通りって訳にはいかないけど、別に父さんを恨んでる訳でもないからすぐに元に戻るよ」
「…ありがとな」
俺の怪我が全く無いのもわざわざ父さんも回復魔法が使えるルイ母さんがやってきた時を狙ってあれを行ったからだ。できるだけ俺に安全のことも考慮して行ってくれたんだからそれをいつまでもうじうじ言うのはかっこ悪い。
「何湿っぽくなってんだよ!試験に合格しました!やったぜ!でいいじゃねーか」
シア父さんは俺と父さんの間にやってきた肩を組んでそう言う。
「そうだな。明日は俺とも戦うわけだしな。いつまでもうじうじしてられないぞ」
「私ともやってもらいたいわね」
「うぇ!?」
さらに、ルイ父さんとシア母さんまでやって来てそう言った。
そして、言葉通り次の日から4人が帰るまで俺はほぼ休みなく戦い続けることになった。もちろん、誰にも一撃すら当てることができなかった。
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