第37話 死の恐怖
「だから油断するなと言っただろ」
「あれは俺に言ってたのかよ!だったらもっと先にそう伝えろって!」
父さんとシア父さんが笑い合いながら揉めていた。俺はその間にあの一瞬で何が起こったかを母さん達に聞いた。
あの時、シア父さんは深くしゃがんで雷魔法を避けると、一気に飛び上がるように立ちながら俺の大鎌をナイフで弾く。そして、弾くと同時に俺の喉をナイフを手放した手で掴んで俺を持ち上げたそうだ。
それがなぜ俺の目に見えなかったかというと、単純に速すぎて捉えられなかっただけらしい。
「いや、ほんとごめんな。まさかあんなに危機察知が反応するとはねー。つい反射的に動いちゃったよ」
どうやら、危険を察知することができるスキルが反応してしまい、その危険を排除しようと動いてしまったそうだ。
「それにしても魔法と大鎌、どちらの攻撃も上手くできてたよ」
「ありがと!」
この半年間苦労したところなので、褒められると素直に嬉しい。
俺は魔法も1つの攻撃手段に過ぎないから避けられるのも問題無いと考えを改めた。俺はいちいち大鎌を防がれたからって何か思ったりしない。その考えを魔法にも当て嵌めたのだ。その考えがなかったから最初の時は気持ちが荒ぶっていたのだ。
また、大鎌を振るのに強弱を付けるように魔法にも威力の強弱をつけたのだ。毎回当たるか分からない魔法を全力で放つ必要も無い。
これらの事を念頭に置きながら俺は魔法と大鎌を駆使して攻撃を仕掛けていた。
「次は俺とやるぞ」
「え?もうかなり疲れてるし、闘力と魔力も残り少ないよ」
シア父さんとの戦いでほぼ全てを出し切った。だからすぐ後にまた戦うことは想定していない。
「尚更好都合だな」
「えー…」
有無を言わさぬ父さんの態度に俺は諦めるしか無かった。普段とは違う父さんに少し寒気を覚える。怖くてこれ以上の文句は言えなかった。父さんとの戦いは残り少ない闘力と魔力でどうにかするしかないようだ。
「もしあれだったら代わるぞ」
「…いや、これは俺がやる…やるべきだ」
「?」
ルイ父さんと父さんが小さい声で会話をしたが、俺にはその内容までは聞こえてこなかった。
「……それでは始め!」
「身体強化」
始まると、いつも通りまずは身体強化を行う。ただ、闘力の残りが少ないから1段階の強さだ。
「…いくぞ」
「うん」
父さんはそう宣言すると、向かってくる。父さんから向かってくるのは珍しいな。
「…!」
「ぇっ?!」
父さんが振った鉄剣を大鎌で迎え打ったのだが、いつもよりも強い力に押されて俺はバンザイするような体勢になった。
「ふっ!」
「あがっ…?!」
それでも父さんは止まらず、上に伸びている俺の左腕に鉄剣を振ってきた。俺はそれを避けることができなく、その衝撃と痛みで大鎌を落としてしまった。
「あ、あれ?」
落とした大鎌を拾おうとしたが、左腕が思うように動かない。俺は恐る恐る左腕を見る。
「あ…あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
俺の左腕は肘先から曲がるはずのない方向に曲がっていた。今まで痛みをあまり自覚していなかったが、それを見てから凄く左腕が痛んできた。生きていて1番の痛みに俺は膝をついて左腕を押えながら大声で叫ぶ。
「隙だらけだぞ」
「がぼっ…!」
しかし、そんな俺に父さんの蹴りが顔にやってきた。受け身も防御もできなかった俺は地面を何回も転がる。
「な、なんで?!なんでこんなことするの!」
俺は鼻血と涙を出しながら父さんにそう言う。しかし、父さんは何も言わずに大鎌を俺に投げてきた。
「まだ終わってないぞ」
「ひっ…!」
睨みながらこちらに歩いて向かってくる父さんの顔に俺は初めて恐怖を覚えた。今までの優しい笑顔が記憶から霞むほど今の父さんの顔は怖い。
「し、死ぬ…!た、助け……」
俺は縋るように母さん達がいるところを見た。しかし、そこに居たのは我関せずといったふうにこちらをただ見つめているだけの5人だった。
「ふっ!」
「ひぃっ!」
いつの間にか近くまで来ていた父さんは鉄剣を上から振り下ろす。俺は死の恐怖で反射的に大鎌を右手で握り、上にかざすことでそれを防ぐ。
「そうだ、それでいい」
「はあ…はあ…!」
俺は恐怖から過呼吸になりながらも死にたくない一心で何とか立ち上がり、右手だけで握った大鎌で父さんの攻撃を何とか防ぐ。本当なら魔法も使うべきなのだろうが、歯ががくがくいって詠唱はできない。
闘力が無くなりかけたら魔力で氷身体強化を使い、魔力も無くなりかけたら素の状態で父さんの攻撃を防いだ。とは言っても何度か防ぐことができず体に当たり、激しい痛みが走る。
「あっ…」
もう全身の激しい痛みすら薄れてきたところで父さんが鉄剣をゆっくり振り上げた。その時、胴が無防備に空いた。
「は、はあぁぁぁ!!」
俺は死にたくないという一心で残る力を振り絞って父さんの胸に大鎌の先を突き付けた。しかし、強化無しのそれでは父さんに傷一つ付けられず、服を切っただけだった。
「死の恐怖に負けずによく頑張ったな」
「ぇ?」
「癒せ!ハイヒール!」
父さんのいつもの優しい笑顔でそう言うと、鉄剣を手放した。急に戻った父さんに気を取られていたらルイ母さんがいつの間にか横にいた。そして、全身が暖かく感じた。後に知ったが、これは回復魔法を使われている時の感覚のようだ。
「は、はは…」
助かった。この時俺の頭にあるのはこれだけだった。
張り詰めていた糸が切れたのか、俺はそこで意識を失った。
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