第35話 ソロ冒険者

「魔法の上手い使い方教えてよ」


「んーと…」


俺は魔法の特訓の時間に母さんにそう頼んだ。俺は魔法の使い方が下手くそな自覚はあるからな。

母さんは少し悩むような仕草をしてから話し出す。


「無理ね」


「え?!」


何を教えようか悩んでいるのかと思ったのだが、母さんの口から出たのはまさかの教えることを拒否する言葉だった。


「まず、ヌルには普通の魔法使いのような魔法の使い方は似合わない。もちろん、普通の物理職のような武器での攻撃も似合わないのだけども」


俺はなぜ?という疑問を抱いていると、母さんはちゃんとその理由についても話してくれた。


「普通の魔法使いの戦い方は前衛の物理職が攻撃して敵を引き付けている間に後衛の魔法職が魔法の詠唱を済ませる。魔法の詠唱が済んだことを悟った前衛が魔法の射線を空けたところに魔法をぶつける。そして、魔法を食らって弱ったところをまた前衛がまた攻撃を仕掛ける。それと同時に後衛が魔法の準備をする。また魔法の詠唱を終えたら前衛が射線を空ける。敵が倒れるまで基本的にはこれの繰り返しね」


魔物相手の戦闘だけでなく、人間相手の戦闘でも似たようなものらしい。


「だけど、ヌルの場合は自分で前衛ができるのだから誰かに時間を稼いでもらう必要は無いわ。だから前衛に居ながら魔法を使えることになる。根本から違うから私の魔法の使い方は参考にならないわ」


「なるほど…」


確かに母さんのように時間を稼いでもらうという工程が無いから母さんとは魔法の使い方は変わるな。



「…気になったことがあるんだけど、俺って誰かとパーティを組む場合はどうすればいいの?」


今の理屈だと、冒険者でのパーティだと俺の役割が微妙な感じになる気がする。もちろん、前衛と後衛で俺が役割を分ければ問題ないのだが、それでは俺のステータスの半分が無駄になる。

とはいえ、前衛で魔法を使おうとするとそんなことに慣れていないパーティメンバーが大変だろう。なぜなら、俺が魔法使うために前衛が少し俺から離れなければならないし、後衛は俺が魔法を放つまで詠唱をゆっくりにして待たなければならない。まあ、俺が魔法を使うのを待つのでもいいけど。



「…今のうちに言っておくわ。ヌルは1人で冒険者をやった方がいいと思うわ」


「え!?」


少なからず父さん達のような頼れる仲間を作ることに憧れていた俺はこの母さんの話にはびっくりした。また、冒険者をする以上、夜営はすることになるが、1人で大丈夫なのだろうか?


「ヌルの懸念はわかっているつもりよ。言葉が足りなかったわね。同じ冒険者同士での仲間は作らない方がいいわ」


詳しく聞くと、俺という特異な存在を少しでも表に出さないために冒険者のパーティを組んだとしたら物理職と魔法職の2つを出すべきでは無いそうだ。物理職と魔法職の両方を持っていると世間にバレたら冒険者をしている場合ではなく、貴族や犯罪者グループなども含めて様々なところから手に入れようとする動きがあるそうだ。

だから基本的には1人で冒険者をしていた方が良いらしい。



「とはいえ、1人ではいつかは行き詰まってしまうと思うから奴隷を買うことを進めるわ」


「あ、奴隷か」


戦闘奴隷や性奴隷や家事奴隷など様々な種類の奴隷が居るらしいが、今回の本題はそこではない。

本題は奴隷は主人である者から禁止された行動や発言はできないことになる。つまり、一緒に冒険者としての活動をしても俺の秘密を奴隷から誰かにバラすというのは不可能なのだ。


「ただ、ヌルと一緒に戦えるスペックを持った奴隷は高価だと思うから当分は買えないわね」


「そっか」


奴隷を使い捨ての駒のように扱うことはできないので、それなりに強い奴隷を買う必要がある。強い奴隷というのはそれこそ高いのである程度稼いでからでないと買えないな。



「まあ、そんなことよりも魔法を使ってみなさい。どうやればもっと威力を出せるか教えてあげるわ」


「ありがと!」


こうして、母さんとの特訓では魔法の威力の出し方を教わり、父さんとの特訓では接近戦と魔法の両立を俺なりの方法で試して行った。



俺がようやく接近戦と魔法の両立が形になってきた頃には後1週間で13歳になるところだった。試行錯誤が案外苦戦し、半年以上費やしてしまった。

そして、ちょうどそのタイミングで俺の特訓が2日間丸々休みとなった。こんなことは特訓を始めて初めてのことである。特訓が休止になったのは俺達家族3人にとって特別なイベントがあるからである。そのイベントは休止3日目の昼前にやってきた。

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