第34話 無様

「くそっ…はあ!」


父さんに向かって走り出した俺は魔法を使いながら同時に大鎌を振って攻撃する。

このような攻撃は無傷な父さんから俺の勝ちを宣言されてからずっと続けている。


「ふんっ!」


「かほっ…!」


しかし、今日でその戦法にはだいぶ慣れてきたのか父さんは魔法を避けると、俺の大鎌を鉄剣で弾く。大鎌が弾かれたことで俺に隙ができたのを父さんは見逃さず、俺に前蹴りを入れてくる。


「まだ…まだまだ!」


俺は痛む腹を堪えて無理やり立ち上がる。そして、性懲りも無く特に策も無いのに再び父さんへ向かって行く。その結果、また父さんからの攻撃を食らってしまう。

あの無意味な勝ち以降、今日の特訓ではそれの繰り返しだった。



「はあ…はあ……」


「今日はここまでだな」


膝を着いた状態から何とか起き上がろうとする俺に向かって父さんはそう言った。まだ夕暮れまで時間はあるが、今日の俺は父さんの攻撃をいつも以上に食らってもう疲労困憊なので確かにそろそろやめどきだろう。



「あー!くそ!」


俺はイライラしているの隠そうとせず、大の字で横になると、地面を殴って八つ当たりをする。


「おうおう、随分荒れてるな」


「そりゃあね…」


俺は別に父さんに大して怒っている訳では無い。特に誰かに向けたイライラでは無いが、強いて言えば不甲斐ない自分への怒りだろう。



「今日はダメダメだった」


自己評価では今日の特訓の内容は最悪だった。手の甲で魔法を払われてから俺はどうにか父さんにダメージを与えようと奮起するのはいいが、それに力が入り過ぎて空回りしていた。それにより行動が極端に攻撃寄りになりすぎ、父さんの鉄剣を何度もまとも食らう始末だった。


「どこを反省すればいいかわかるか?」


「…冷静さをかいたこと」


父さんは頷くことで俺の答えがあっていると伝えてくる。

無意識ではあったが、俺は物理職と魔法職のステータスを持つことで調子に乗っていたのだ。具体的に言うと、魔法を駆使していいのなら手加減をしている父さんとはいえ、善戦できると勘違いしていた。その勘違いの結果があの魔法でのダメージなしだったので、俺の内心は荒れてしまったのだろう。



「大人でも調子に乗ることはよくある。そういう者の大抵はそれに気付き、反省する前に死んでいる。ヌルは気付けただけでまだ優秀だ」


「…」


冒険者は調子に乗った結果、分不相応の魔物と戦って死ぬことはそれなりにあるそうだ。ただ、俺が今回死ななかったのは相手が俺を殺す気のない父さんだったからだ。今日のような気の持ちようなら俺もすぐに死ぬに違いない。


「俺は弱いな」


自分に言い聞かせるようにそう呟く。物理職と魔法職の両方のステータスを持っていることは特別ではあるだろう。しかし、特別というだけで俺はレベル1の雑魚だ。それなのに、少し特別と言うだけで手加減しているとはいえ元Bランク冒険者の父さんに善戦できる訳がない。ここ最近は成長を自覚しているのもあって図に乗っていた。


「落ち着いたか」


「うん」


俺は少し開き直るような感じではあるが、冷静になる事ができた。今日のミスはもう取り返せないので仕方がない。次はこうしたことの無いようにしよう。



「それじゃあ、家に帰るぞ」


「うん」


もう日が暮れ始めているので、俺は起き上がって父さんと一緒に家に帰った。



「母さん、今の俺でも魔法で父さんにちゃんとダメージ与えることって可能なの?」


俺は夕食時に母さんにそう質問した。

今日の悲惨な結果の理由は魔法を人に対して使ったことがなかったからというのもある。俺は実際に魔法を使ってその威力の無さに少なからず失望に近い感情があったのだろう。それを誤魔化すために父さんに魔法を使ってダメージを与えようと躍起になっていたのかもしれない。


「可能よ」


母さんは当たり前のようにそう言った。


「え?でも…」


そこで俺は今日の特訓での様子を1から最後まで話す。みっともない話ではあるが、それを話さなければ俺の言い分は伝わらないだろう。


「まず、ヌル」


「うん…あだ」


俺は母さんに頭を殴られた。


「レベルが離れ過ぎているのだからそもそも勝てる前提なのはおかしいわよ」


俺が反省したことではあるから母さんからの説教はしっかりと受け止めた。


「それに、魔法は万能ではないのよ。そこまで警戒されている中でダメージを与えるのは不可能に近いわよ。ただ、今のヌルでも父さんの不意をついて防御をされなければ血が滲む程度のダメージなら与えられるわ」


あの時の父さんは俺の魔法を殴り消す気満々だったから手にも力が入っていたからあの結果だったらしい。しかし、完全に不意をついて魔法を食らわせられれば父さんとはいえど、少しのダメージは負うそうだ。


「ありがとう。それが分かれば後は頑張って考える」


「頑張りなさい」


「よく考えたら俺にダメージを与えるための相談を妻と息子が食事中に俺の前でしてるんだよな…物騒だぜ」


魔法ではダメージを与えられないのなら魔法は父さんの妨害に使う予定だったが、ダメージを与えられるというのは母さんからのお墨付きがあった。

なら俺のやるべきことはまずはそれぞれの魔法にどのような効果があるのかを調べることだ。

そして、最終目標は物理攻撃でも魔法攻撃でも父さんにダメージを入れて勝つことだ。もう今日のような失態はしないと心に誓う。

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