第33話 全部あり

「だいぶ慣れてきたな!」


「これだけ経てばね!」


俺は身体強化をしているのに片手で鉄剣を握った父さんに攻撃を食らわせられないのは変わらない。だが、俺が攻撃を食らう回数も4ヶ月経った今ではかなり減っている。それにはちゃんと理由がある。



「ヌルの歳でレベル5のスキルが2つもあるやつなんてどこを探しても居ないぞ」


「それは嬉しいね!」


父さんの言った通り、俺のあるスキルがレベルアップしてレベル5となった。隠蔽に続く形でレベル5となったスキルは大鎌術だ。ついに大鎌術においては名人と呼ばれる領域まできたのだ。大鎌術Lv.5になってから大鎌を振るキレはさらに増し、防御にも余裕が少し出て父さんの攻撃を食らわなくなった。もちろん、それは父さんが俺に大怪我をさせない速度まで加減して鉄剣を振っているからだけど。



「よし、今日から普通の魔法も使っていいぞ」


「え?いいの?」


父さんの突然の提案に俺は驚く。そんなこと今まで言われたことがなかったからだ。


「ああ、構わないぞ」


「そっか」


唐突に父さんとの接近戦に魔法がありになった。一旦距離を取ってどうすれば父さんに一撃食らわせられるかを考える。父さんの防御力なら俺程度の魔法なら手加減しなくていいだろう。


「そろそろいいか?」


「……うん。いいよ」


俺は作戦を考えながら闇魔法を1つストックする。ちょうどストックを終えたタイミング父さんが催促の言葉をかけてきた。


「それじゃあ、始め!」


「轟け…」


俺は始めの合図と共に父さんへ走り出し、同時に魔法を唱え始める。


「サンダーボール!」


そして、父さんが大鎌の間合いの僅か外のところで魔法が完成したので魔法を放つ。もちろん、父さんはそれを避けようとするが、そんなことはさせない。


ぐられ」


俺のその言葉でストックしていた闇魔法が発動する。ストックした魔法は本来言葉に出さなくても使えるのだが、決まった短い言葉を合図に使うと定めた方が接近戦中にも咄嗟に使うことができる。


「うおっ!」


父さんの足元から闇の手が伸びてきて、父さんの足を巻き付くように掴む。これはダークバインドという魔法だ。父さんと言えどこれで数瞬は動けない。さて、目の前に迫った雷魔法、そのすぐ後ろに控える俺、父さんはどちらを対処する?


「ふんっ!」


父さんは大きく振りかぶると、腕を伸ばしながら振り下ろす。どうやら、魔法と同時に俺まで叩き潰すつもりだろう。そして、このままだとそれは成功してしまう。ステータスが圧倒的に負けている以上、そんな理不尽な力技がまかり通ってしまう。俺は父さんの攻撃を避けるために横に飛び退く。そして、すぐに詠唱を始める。


「凍てつけ!アイスバインド!」


「またか!」


ちょうど父さんがダークバインドを突破したところで今度は氷の手が父さんの足に巻き付き、掴む。


「暗がれ!ダークアロー!」


「っ!」


そして、俺は再び父さんの間合いに入るべく進みながら闇魔法を使う…振りをしてストックする。

父さんは足の氷をどうにかするよりも先に闇魔法の対処をしようとしていた。しかし、その闇魔法はやってこない。父さんは鉄剣を振り上げたまま固まっている。


「斬れ!スラッシュ!」


俺は固まっている父さんに向かって大鎌を振りながら詠唱をする。そして、詠唱を終えたタイミングで振っていた大鎌から斬撃が放たれる。


「闇れ」


そして、それとほぼ同時に闇の矢が3本放たれる。これは先の反省を活かして、直線で父さんには向かっていかず、楕円のように緩やかに曲がってから父さんに向かう。これで先のように同時に複数を対処するのは不可能だ。


「さすがだ!」


父さんはそう言うと、鉄剣を振り下ろして斬撃を切り消す。そして、腹と両脇くらいに向かってきている魔法は左拳で振り払った。


「そ、そんなのありかよ…」


そんなことが可能になるのなら俺は父さんに魔法ではダメージが与えられないと言われているようなもんだ。


「はあ…いや、ちゃんと食らってるぞ」


そう言って父さんは手の甲を見せてくる。その手の甲にはうっすらと皮が三本線で切れている。もちろん、血は一滴も出ていない。


「ヌルの勝ちだぞ」


「腑に落ちねぇ…」


矢の魔法を見てから手の甲で払われ、さらにそれでも手の薄皮が切れた程度。これで勝ちだと言われて誰が納得できるのだ。

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