第31話 いらない心配

「ふっ!はっ!」


俺は今日も変わらず木鎌を振っていた。最近は木刀よりも大鎌を振る時間の方が長くなっている気がする。やはり木刀よりも扱いやすい木鎌をつい使ってしまう。


「毎日毎日、精が出るな。こんなに真面目に努力している冒険者志望はヌルだけだと思うぞ」


父さんが素振りをしている俺を見てそう言ってきた。普通は特になる時に試験の要らない冒険者の志望者がこんなにほぼ毎日休まず強くなるために特訓をすることは無いそうだ。

ただ、俺はより誰にも縛られない自由な冒険者になるためには両親が強くなった方が良いと言うから努力しているだけなんだけどな。まあ、他の理由の1つにシアとルイとの勝負があるからというのもあるけど。2人には絶対に負けたくない。



「もうだいぶ使えるようになったか?」


「うん。もうかなり使いこなせるよ」


お試しで身体属性強化などを使ってからもう半年弱が過ぎた。半年弱の特訓のおかげで今では身体属性強化、付与魔法、無属性魔法は使いこなせていると思う。

ただ、身体強化と身体属性強化を同時に使うことはできるが、その両方を同時に全力で使うことはまだできていない。父曰く、これは俺のレベルが低いのが原因の1つらしい。まだ低いステータスなので、高い強化に身体が追い付いていないそうだ。だからもしかすると、レベルアップでその問題は解決するかもしれない。

また、闇の付与についてはまだその特性がわかっていない。



「なら12歳になったら木鎌を卒業して本物の大鎌で戦うか」


「え?!ほんと!?」


俺はまだあの本物の大鎌を使ったことがほとんどない。それは使い方を誤れば俺自身が怪我してしまうからだ。しかし、今ではもう全てのスキルの扱いに慣れて間抜けな自傷する心配がほとんどないから許可しているのだろう。

そして、あと1ヶ月もしないうちに俺はもう12歳となる。



「えっと…大丈夫?」


「何がだ?」


俺が心配する言葉を言ったが、言葉足らずで伝わっていなかった。だから俺は足らなかった言葉を付け足すように言う。


「本物の大鎌で打ち合ったら父さんが危ないんじゃ…あだだだっ!!」


まだ話している途中なのに父さんは俺の左右のこめかみを指でぐっと押してきた。そして、それを止めるとダメ押しとばかりにおでこにデコピンをしてくる。


「まだ俺に武器で1発も攻撃できてない奴が俺の心配をするのか」


「………」


俺はまだ鬼ごっこ中の叩き落とした時しか父さんにまともに攻撃できていない。確かにそんな状況で父さんの心配なんていらないだろう。


「でも、もし何かあったら…」


だが、それでも心配してしまう。もし仮に父さんに俺の振る大鎌が当たってもステータス差がかなりあるのでそんな大怪我はしないだろう。良くて少しの切り傷ができるだけだと思う。だけど、刃が付いた武器を扱う以上、何が起こるかわからない。


「全部分かってて心配しているようだが、それはいらない心配だ。冒険者は慎重になり過ぎてちょうどいいくらいだが、今回それはいらない。今回心配するべきは…ちょっ待ってろ」


父さんはそこまで言うとニヤッと笑って家に帰る。どうしたのかと思ったら戻ってきた父さんの手には剣が握られていた。


「心配するのは俺でなくてヌルの方だ」


父さんはそう言うと、持っていた剣を俺に差し出してきた。


「ヌルが大鎌を使う以上、大鎌と打ち合えるように俺もそれなりに頑丈な武器を使う必要がある。これは刃は潰してあるが、金属でできた本物の剣だ。俺はこれでヌルと打ち合う。つまり、ヌルが油断すると、これで身体を攻撃されるぞ」


「あっ…」


今まで俺は鞘で攻撃されていた。それでも当たりどころが悪かったり、強化が甘かったら膝を着いて悶絶するくらい痛かった。しかし、俺が大鎌を使うようになったら父さんも金属の剣を使う。今度は油断すると骨が折れる可能性がある。


「いらない俺の心配をするよりも、自分の心配をした方がいいってわかったか?」


「うん…」


俺に父さんの心配をする余裕はなかったようだ。少し緊張感が高まりはしたが、本物の大鎌を使うのは楽しみである。

そんな気持ちで日々を過ごしてたらすぐに12歳の誕生日を迎える。

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