第27話 作戦の結果
「はあっ!」
「お、どうした?今日はいつにも増してやる気だな」
父さんにはニヤニヤしながらそう言ってきた。多分、父さんは母さんとの約束を知っているのだろう。今日はすぐ近くで母さんも見ているしな。そして、俺がいつもよりも身体強化を強くかけているからニヤついているのだろう。
「ヌルのステータスから考えると…今日はレベル2くらいか?」
父さんが俺の身体強化の強さを分析する。確かに俺は大まかに身体強化の強さをスキルレベルと同じ3つに分けている。そして、今は父さんの言う通り、真ん中の2段階目だ。
「どうした?そんなんじゃまだ捕まえられないぞ」
「ちっ…」
最初はいつもよりも強い強化の速度に慣れていなく、少し惜しい時もあった。しかし、それはほんとに最初だけで、もう俺の速さに慣れている。
「いつもより身体強化が強いからそう時間は残っていないぞ」
それは1番俺がよく分かっている。いつもよりも早いスピードで闘力が無くなっているのを感じる。だが、準備は整った。
「ふっ…!」
「お、おお…?!」
俺が父さんに近付く瞬間の1、2秒だけ、身体強化を1段階目まで下げた。急に遅くなったことで父さんは先にもう回避行動を取っている。
「はあ!」
俺はすぐに身体強化を2段階目に戻し、父さんに手を伸ばしながら迫る。この切り替えを瞬時に行うのと、切り替えた後に変わらず動くことに慣れるのが大変でここまで時間がかかったのだ。
父さんはもう横に半身になってずれ、さらに仰け反っているので、ここからさらに回避行動は取れない。仰け反ってはいるが、まだ完全では無いので俺の手は触れられる。また、投げようとしてきたら捨て身で触れるつもりだ。
「惜しかったな!」
父さんはそう言うと、大きく俺から逃げるように斜め上に飛んだ。
俺は父さんならこれも無理やりどうにかして躱すというのは考えていた。
「ふっ…!」
俺は身体強化を3段階目、つまり全力で行った。そして、父さんの落下地点へと向かう。動きからして父さんはジャンプする前に仰け反っているから空中でバク宙のような形で一回転して着地するようだ。つまり、回っている最中は俺に背中を向けているので、俺の姿は見えない。
「捕まえた!」
「なっ!?」
そして、俺は父さんがまだ空中に浮かんでいる時に足を掴むことに成功した。ちょうど俺の方を向いたくらいのタイミングだったので、回避のしようがなかったのだろう。
これで鬼ごっこは俺の勝ちだ!しかし、俺はこれで終わらせる気は無い。
「はあっ!」
「うおっ?!」
もう終わりだと油断仕切っている父さんのもう片足も手で掴むと、3段階目の身体強化のまま腕を振り下ろした。
「くおっ?!」
掴まれていた父さんも俺の腕と連動して地面に勢いよく向かっていき、背中から地面に叩き付けられた。今の俺のステータスだと普段ではこんなできないが、身体強化を行っているから父さんくらいの巨体でも振り下ろして叩き付けるくらいはできた。
「はあ…はあ…最後まで油断するなっていつも言ってたよね?」
「こいつ…」
「ふっ…ふふっ……」
俺は闘力が切れそうだったので、もう身体強化を切り、手を離して父さんに話しかける。父さんは悔しそうに拳を握って少し震えているが、何も言い返せはしないようだ。魔物がまだ生きていたり、まだ敵が残っている可能性があるから冒険者は常に油断するなといつも俺に教えてくれていたことだからな。
そして、少し遠くで母さんが笑いをこらえている声が聞こえてくる。
「そうだな…まだ油断したらダメだよな!」
父さんはそう言いながら起き上がって俺に向かってこようとする。しかし、その行動は既に俺の予測済みだ。
「もう身体強化を切ったから鬼ごっこは終わりだよ」
「あっ!」
鬼ごっこは俺が身体強化中でしか行われない。つまり、身体強化を切った今、もう鬼ごっこは終わりという判定になっている。それは鬼ごっこのクリア条件が身体強化中に手で触れるということからもわかるだろう。
「あははっ!今日は諦めなさい。ヌルは今日のためにずっと考えてきたんだよ。あなたの負けよ」
「はあ…ヌルにしてやられたな」
「少しはいつものやり返しできたかな」
笑いながら近付いてきた母さんの言葉を受け入れ、父さんは立ち上がる。俺はいつもいいように転がされているので、父さんにも同じような目に合わせられて良かった。
しかし、全力で叩き付けたのに、父さんは全く痛くもなかったようだ。
「悔しいが、これで鬼ごっこは終わりだ。そして、身体強化も充分使いこなせているから身体強化の特訓も終わりだな」
「よっしゃ!」
こうして、俺は鬼ごっこ基、身体強化の特訓をクリアした。そして、午後からは約束通り身体属性強化の特訓だ!
「…だが、もっと早くから身体強化の強さの切り替えをできると見せてくれていたら俺の判断で鬼ごっこは終わりにしてたぞ」
「え?…はあ!?」
どうやら、父さんの中での鬼ごっこの終わり条件は身体強化の強さの切り替えをある程度の速さでできることだったらしい。つまり、本当だったら数週間早く鬼ごっこは終われていたのか…。
だが、父さんを捕まえ、倒すための策を考えて、実際に成功したのだからその数週間は無駄では無かった…はずだ。少なくても、俺の気分は最高に良いからいいはずだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます