第18話 素手特訓の理由
「理由を一言で言うならヌルの大鎌術が優れ過ぎているからだ」
「優れ過ぎてる?」
体術を集中的に特訓するはめになった悪いところを言われるはずなのに、なんか褒められている。
「ヌルは木刀を使っている時はそこそこ体術を使って攻撃してる」
「うん」
父さんのここで言う体術とは殴る、蹴るなどの体を使った攻撃のことだ。
「しかし、木鎌を使い出すと、それが一切無くなる。木鎌と木刀でヌルの意識は変わらないはずなのに、それがずっと変に思っていた。その理由が最近になってやっと分かった。単純に大鎌の方が早く、強く攻撃できるから体術を使う必要が無いんだ」
「あ、なるほど」
つまり、より強く戦うために体術を使う必要がなかったということか。
「普通はその辺はどんだけスキルレベルを上げようと意識しないとできないはずなんだが、これが奇才を超えるスキルか」
普通なら俺がやっていたという強く戦うために体術を使わないという選択も自分で考えてやらないといけないらしい。しかし、俺のスキルではその辺は自動で行えているそうだ。とはいえ、俺の意識が戦いに反映されていない訳でもないらしい。父さん曰く、俺がしようとする攻撃の選択肢の中で最も良いものを選択している感じなんだそう。その結果、スキルレベルの低い弱い体術は使われないのだけどな。
「大鎌術でそれだからきっと同じレベルの闇魔法も同じく何か普通とは違う何かがあるのだろう。だから母さんは最低限魔法の威力をコントロールできるようになる魔力操作を取得するまで闇魔法は使わせないんだ」
「そうだったんだ」
言われてみたら納得できる。前代未聞の奇才を超えるレベル4の闇魔法がどんな威力、効果があるのかは母さんにも分からないだろう。下手に使って怪我人がでても大変だ。だから未だに闇魔法を使う許可がでないのか。
「話がズレたな。それで俺の仮説があっているとすれば、体術のレベルが上がれば無理に木鎌で攻撃していた時に自動的に体術を選択できるようになると思うんだ。だからこれからは体術を中心に特訓しようと思うんだ」
「わかったよ」
父さんがここまで俺の事を考えて提案してくれたなら従う以外に選択肢はない。
それに、父さんは木鎌を主体に戦うことを否定しているわけではない。木刀で大刀術の特訓をしているのと同じように、色んな手段で戦えるようにってほしいのだろう。また、体術には攻撃だけでなく、身体の動かせ方何かにも効果があるらしいからそれもあると思う。
「話が長くなったな。来い!」
父さんはそう言ってニヤッと笑みを浮かべて俺を挑発するように手をクイクイっと動かした。
「はあっ!」
俺はその挑発に乗るかのように父さんに勢いよく向かって行った。
「はあ…はあ…くそー」
「やっとヌルの普通な子供らしい姿が見えたぜ。普通はすぐにそうなるのが当たり前だ」
体術だけでやってみると、俺は今までと比にならないくらいボロボロになっていた。具体的に言うと、全身土埃まみれだし、痣も倍くらいは増えただろう。また、今までと違ってこまめに5分程度の休憩を挟んでいたのに3時間ほどでもう息が上がり、横になった状態で動けなくなっている。
「普通の子供は手加減されたとはいえ、休憩なしで数時間も打ち合い続けられるのが異常なんだよ」
「それでも悔しいよ」
父さんはお互い武器を使わない体術の戦いに慣れていた雰囲気だった。これでは俺が鎌や刀で善戦できていたのは単純に父さんが俺の使う武器に慣れていないだけだったのではないかと感じてしまう。
「悔しいなら向かって来たらどうだ」
「くっ…!」
俺は痛みと疲労で震える身体を無理やり従わせて立ち上がる。
「そうだ!かかってこ…あいた!」
「何やってるのよ。そんな状態で特訓しても意味無いでしょ。休むのも特訓のうちでしょう」
テンションが高くなっている父さんの頭を叩いて窘めたのはいつの間にかやってきていた母さんだった。
「いやー、ヌルのやる気が嬉しくてついついな」
「私達の子供なので頑丈でしょうが、まだ10歳なんだから気を付けてよ。そして、昼ごはんはできてるわよ」
どうやら、母さんは昼ごはんができたからいつまで経っても帰ってこない俺達を呼びに来たようだ。
「もう昼ごはんか!今日の朝の特訓はこれで終わりだ。帰って飯を食うぞ」
「う、うん…」
俺も家に向かっていく父さんと母さんを産まれたての子鹿のような足取りでゆっくり追って家に帰る。
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