第15話 両親の昔話

「あれはまだ父さんと母さんが駆け出しの頃で他の人とパーティを組んでいた昔の出来事だ。まだ若く、冒険者になりたてでEランクだったが、全員が天才スキルを持ったパーティだったこともあり、すぐにでもDランクに昇格でき、このままだったらCランクもそう遠くないとギルド員から言われるほど強かった。……ただ、それ故に調子に乗っていた」


父さんは少し上を向いて思い出すようにそう前置きをする。そして、少し暗い顔をして話を続ける。


「そんな時にあるベテラン冒険者パーティから、一気にCランクに上がれる程の功績が得れる場所があると言われた。そんなありもしない罠に俺達は引っかかった」


「罠?」


「罠よ。言われた場所に行くと、そこにはおびただしい程の魔物がいたわ」


「え!?」


ベテラン冒険者に言われた森の奥の秘境のような場所に行くと、低ランクではあるものの、数十もの魔物が待ち構えていたらしい。



「俺達はそれを傷を負いながら何とか全て倒しきった」


「すごっ!」


なんと、父さん達はその魔物達を全て倒したそうだ。


「ちょうど倒し終えてへとへとになって休憩していたところにその情報を教えたベテラン冒険者がやってきたわ。もちろん、話が違うと私達の仲間の1人がそのパーティに突っかかったわ。そしたら、突っかかった私達の仲間はそのパーティに刺されたわ」


「え!?」


いつもなら不意をつかれてもそれくらい反応して防ぐことができたらしいが、多くの魔物と戦ったせいで集中も切れていたから防げなかったそうだ。

ちなみに、ベテラン冒険者達は父さん達を影から見ていたが、魔物で死ななかったから冒険者ギルドに変なことを言われる前に殺しにやってきたらしい。



「それからはそのベテラン冒険者達は私達を皆殺しにしようと向かってきたわ。私達も負け時と応戦したわ。だけど、疲れている上に、まだ人を殺したことの無い私達では実力が下でも完璧に対処できなかった」


刺された者を抜いても父さん達は5人、ベテラン冒険者は4人で数的有利は取れていたが、それだけではどうにもならなかったらしい。



「それで、どうなったの?」


「…最終的に人を殺す覚悟ができた俺と母さんの2人と生け捕りにしたベテラン冒険者の1人だけが生き残った」


「え!?」


その場の生き残りは父さんと母さんしかいなかったらしい。


「生け捕りから聞いた俺達を罠にかけて襲った理由は長く冒険者をやってやっとCランクになれたのに、こんな若い奴らに追い付かれたくないというくだらない感情だった」


「そんなことで…」


「私達にしたらそんなことでも、そいつらにとっては重要な事だったそうよ」


「……」


なんか、やるせない話だ。

ちなみに、生け捕りにした冒険者の財は全て父さん達が得て、さらにその冒険者も犯罪奴隷てして売ったそうだ。


「他にも、騙されて奴隷として売られる者、装備を剥ぎ取られて魔物のいる森に置き去りにされる者、シンプルに後ろから襲われて装備を奪われる者…冒険者をやっていてそんな話はよく聞くぞ」


「そんなに多く…」


冒険者による犯罪はそれほど身近なんだそうだ。特に強くなり始めた時に多いらしい。


「冒険者になるの怖くなったかしら?」


「確かに怖くはなったよ。でも、それでも冒険者になりたい!」


冒険者の現実を知って少し怖くはなった。しかし、それでも両親達から聞いた冒険の内容にわくわくする。


「まあ、ヌルが強くなったらそんな犯罪者は奴隷として売れるから金ズルにしか見えなくなるぞ。現に俺達も最後の方はそう思っていたからな」


「そう思う頃には犯罪者も返り討ちにあって奴隷として売られることが分かるから襲ってこなくなるけどね」


父さん達のように犯罪者を捕まえると、捕まえた者の装備やお金を得るだけでなく、奴隷として売ってお金を得ることが可能らしい。



「とにかく、ヌルも気を付けろよ。そして、悪い人を殺すことに躊躇いを覚えるな」


「わかった!」


この時、俺はわかった気になっていた。やはり、実際に体験した話を聞いても、わが身に降りかかっていないから本当の意味でわかっていなかった。それを身をもって痛感するのはそう遠い話ではない。

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