第14話 特訓2日目 2

「魔力が0になると、そんな感じになるから気を付けなさい。ちなみに、0を下回る魔法を使おうとしても使えないからね」


「うぅ…」


頭を抱えてのたうち回りたいほど気持ち悪いが、気持ち悪いが故にのたうち回ることすらできない。この苦しみは蹲って耐えるしかないのか…。



「もちろん、魔力が0になった時の体験をしてもらう意味もあるけど、今回はそのためにしたわけじゃないわ。頭以外の違和感のある気持ち悪い場所を探しなさい。それが分かれば少しは楽になるわ」


「おえっ…」


俺はまた吐いたが、それと同時に縋るように母さんの言うことを聞いて頭以外の気持ち悪いところを探す。それで少しでも気が楽になればと思って。



「う…ん?」


目を閉じて集中して探すと、胸の奥に何か空間があり、そこは違和感があり、少し気持ちが悪い…と言うよりも不快感があるのに気が付いた。まあ、頭の気持ち悪さに比べたら微々たるものだけど。


「そこに何かが溜まっていくのは分かる?」


「…うん」


空っぽの空間に少しずつ液体が溜まっていくのを感じる。


「そこまで分かれば十分ね。後はそこに意識を向けながら休んでればいつか治まるよ」


「え?ちっとも楽になってないんだけど…」


母さんはもう1つの気持ち悪い部分を探せば少しは楽になると言っていた。しかし、全く楽にならないどころか、新たに気持ち悪い部分が現れて悪化してさえいる。


「あれは嘘よ。ああ言えば集中して探そうとするでしょ?」


「なっ!?」


あれは嘘だったのか。母さんが平然と嘘をつくとは思っていなかった。



「まあ、魔力が回復していく度に症状も軽くなるわ。そうね…半分も回復したらほとんど症状は無くなるわよ」


母さんはそう言いながら動けない俺を持ち上げると、家まで連れて帰る。そして、俺をベットに寝かせる。


「騙された気分だよ…」


「冒険者が簡単に人を信用したらいけないのよ。その辺は夜にしっかり教えてあげる」


母さんはそう言うと、部屋から出て行った。

取り残された俺は目を閉じて楽になろうとしていたら、いつの間にか眠った。さっき軽く昼寝もしたのにまた眠れるのは午前の特訓でそれほど疲れていたからだろうか。




「お、起きたか」


「ご飯できてるわよ」


「おはよう」


俺が起きて居間に行くと、父さんも帰ってきていて、テーブルには料理が並んでいた。


「気分はどう?」


「もうほとんど大丈夫」


魔力ももう3分の2が回復している。だからか、さっきの気持ち悪さはほとんどない。



「じゃあ、ご飯を食べたら夜は冒険者についての話をしましょうか」


「?」


冒険者の話とはどういう意味かわからないが、とりあえずテーブルにあるご飯を食べた。




「それじゃあ、話していきましょうか」


ご飯を食べ終え、テーブルを片付けると、母さんがそう切り出した。


「まず、質問だが、犯罪を犯す者のうち、冒険者はどのくらいの割合だと思う?」


「え?うーん…3割くらい?」


冒険者はそれなりの数はいるが、人口で考えると3割から4割程度と母さんが前に言っていたと思う。だから犯罪者のうち、冒険者なのもその程度だろう。


「正解は8割だ。犯罪者のうち、冒険者は8割もいる」


「え!?」


正確には犯罪者のうち、冒険者として登録していた者の割合らしい。とはいえ、犯罪者の大部分が冒険者なのは変わらないそうだ。



「冒険者が犯罪を犯す理由は様々だが、それは別にいい。問題はヌルが犯罪に巻き込まれないかだ」


これは被害者だけではなく、加害者になる心配でもあるそうだ。騙されたせいで加害者になったからと言って許してもらえるほど甘くはない。


「そのために冒険者で1番大切なことを教えよう。絶対に他人を信頼するな。そして、それは仲間であってもだ。もちろん、仲間はある程度信頼するべきだが、それは軽くだ。仲間は過ごした時間と経験で信用していけ」


「う、うん」


父さんの言っていること、言いたいことはわかったが、いまいち納得ができない。


「とは言っても、急にそんな考えにはならないと思うから、私達がそれを実感することになった体験を話すわ」


母さんはそう言うと、実際に2人が経験したことを話し出した。

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