第12話 特訓初日

「よし、じゃあ特訓を始めるぞ!」


「はい!」


俺は朝から家の前で父さんと向かい合っていた。シアとルイよりも強くなるために俺はやる気十分だ。


「大鎌はちゃんと背負っているな」


「うん」


俺の背には大鎌が装備されている。ルイ父さんは鎌を背負えるような肩から腰までを巻き付けるベルトまで用意してくれていた。


「じゃあ、走るぞ」


「え?」


父さんはそう言うと、小走りで俺の横を通り過ぎて走り始めた。俺は戸惑いながらもそれを慌てて追いかける。


「この位は余裕か。ならこのくらいのスピードにしよう」


「うっ…」


少しスピードアップした父さんに離されないように着いていく。


「…それにしても初めて大鎌を装備したのによくそんな平然と走れるな。バランス崩れないのか?」


「う、うん。特に問題は無いよ」


背中に大鎌を背負っているが、特に違和感なく走れている。時々大鎌は揺れたりしているが、それでも全く問題は無い。むしろ、いつもより体が軽く感じ、走りやすいとすら感じる。


「奇才を超えるスキルなわけだな」


父さんのその一人言を最後にそれからは一言も話さず、延々と村を回る形で走り続けた。




「かひゅ…はひゅ……」


「ここまでだな」


1時間ほど走っただろうか。そのタイミングでちょうど家の前を通り、やっと終わりを告げられた。その時には俺は過呼吸となっていた。


「よく止めと言われるまで着いてきたな」


「はひゅ…」


父さんからの褒め言葉も頷くことでしか応対できない。


「とりあえず、水を飲んで1時間休め。それから木武器を使って打ち合いをするぞ」


「かひゅ……」


それから1時間休憩が与えられた。その休憩時間はずっと大の字で身体を休めることに当てた。それにより、何とか動き回れるくらいの体力は回復できた。



「まずは木刀だ。来い」


「はあっ!」


休憩が終わったので、俺は木刀を持って剣の鞘を持った父さんに向かって行った。


「はあっ!ふっ!」


「……」


当たり前だが、いくら木刀を振ろうと、父さんに掠りすらしない。


「動きはいいが…」


「かほっ…」


俺は父さんに腹を蹴られて地面に蹲る。


「木刀と鞘に意識が向きすぎだ。もっと広くとらえろ。攻撃手段は武器だけではないぞ」


「は、はい…」


俺は木刀を杖代わりに腹を押えながら立ち上がり、再び父さんに向かっていった。



「まあ、木刀はこんなもんだろ。昼飯を食ったら次は木鎌だ」


「…はい」


1時間弱ほど父さんに蹴られ、殴られしたせいで身体のあちこちが痛い。

ここでお昼ご飯を食べて次は木鎌の番がやってきた。



「来い」


「はっ!」


俺は木鎌を横凪に振った。それを父さんが鞘で受け止める。そこで咄嗟に鞘の先を鎌の柄で上を抑え、鞘の握っている部分を鎌の曲がっている部分で下を抑えることで鞘を挟んだ。


「ふっ!」


「っ!?」


そして、俺は鎌の先を持ち上げようと力を入れる。すると、父さんは俺の弱い力でも一瞬鞘を手放しそうになった。このままいけると思った時だった。


「え?」


急に俺は父さんを上から見下ろしていた。つまり、体が宙に浮いた。


「あだっ!」


そのまま俺は落下して背中を地面に打った。


「びっくりしたぞ。まさか、俺が一瞬でも武器を奪われそうになるとはな。ただ、最後まで油断はするなよ。まあ、投げられても武器を離さなかったのは良かったぞ」


「うう…」


俺が鎌で鞘を抑えて持ち上げられたということは、力さえあれば逆に鞘で鎌を持ち上げることもできたわけだ。ただ、俺は軽かったから鎌ごと持ち上げられたけど。


「次行くぞ」


「はい!」


それからも鎌で父さんと打ち合う。そして、木刀同様に身体に痣を数カ所作ることになった。

それからも木刀と木鎌をそれぞれ二刀流で使ったり、または木刀と木鎌を同時に使ったりして父さんと打ち合い続けた。



「よし、今日はこれで終了だ。お疲れさん」


「お疲れ様」


「ありがと……」


夕方前に特訓は終わったが、俺はヘトヘトに疲れ切っていた。


「今日でヌルの体力と耐久と実力がある程度わかったから明日からはそのギリギリを攻めてもっと厳しくいくぞ」


「へえ!?」


まさか、今日よりもきつくなるとは思っていなかった。


「嫌か?なら優しくしてもいいんだぞ」


「…厳しくていいよ」


その言い方はずるい。そう言われると、断れなくなる。


「明日からは魔法の特訓も初めるけど、それも厳しくていいわよね?厳しいのはかなりキツイけど」


「厳しくていいよ!」


もうヤケになって魔法の特訓も厳しくしてもらった。その様子に両親は笑っていた。

しかし、俺はまだ厳しい特訓を舐めていたのだ。次の日からの厳しい特訓は今日とは比べ物にならないほど体力的にも精神的にもきついものになるとは夢にも思っていなかった。

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