第11話 別れ
「おっと、ヌルに驚いていて本題を忘れていたな」
ルイ父さんはそう言うと、テーブルをドンッと力強く手のひらで叩く。
「この武器らに使われている素材はシアの親父が買ってくるか取ってきてくれたものだ。そして、その素材を使って俺がこの5日間丹精込めて作れ上げた。そんな武器をヌルに渡したいと思っている」
「いいの!?」
正直、ここまで俺専用のような武器を作ってくれていたからプレゼントされるのかもしれないと思っていた。しかし、それを言葉で実際に聞くとかなりの嬉しさがある。
「ただし、それには2つ条件がある」
「…条件?」
父さんが武器はとても高いと言っていた。それをタダで貰えるというのは確かに普通はありえないだろう。
「まずは、お前の親父とお袋に鍛えてもらって強くなれ。そして、冒険者になってからも弛まず、驕らず、研鑽を重ねてどんどん強くなろうとしろ。特訓から逃げ出すようだったら、この武器達は取り上げてもらうからな」
「うん」
ルイ父さんが俺に目を合わせ、真剣な様子で言ってくる。俺もそれに目を逸らさずにしっかり頷く。
「そして、最後に…」
ルイ父さんがそう言うと、あれほど力強かった目が柔らかくなった。
「これからルイとシアはその職業故に困ること、大変なことがたくさんできるだろう。その時に2人がヌルに助けを求めたら自分の損得を考えずに2人を助けてやってほしい」
「そんなの当たり前だよ!」
2人が困っていたら助けるに決まっている。そんなのはルイ父さんに頼まれるまでもない。
「そうか…そうか!!」
「わわ…!」
ルイ父さんは俺の頭を大きな手で乱暴に撫でる。
「それならこの武器達をヌルにあげよう。次に会う時にはこれを使いこなせるようになっていろよ」
「うん!」
こうして、俺は普通ではありえないほど緩い条件で大鎌と木でできた大鎌と大刀をもらった。
それらを父さんと一緒に家に持ち帰ると、ちょうど神官さん達の馬車が複数台村にやってきて、2人が王都に行く時間になった。俺と両親は2人を見送るために馬車の元へ向かった。
「シア、ルイ!」
「ヌル…」
「ヌル」
少し遅れたのか、俺達が馬車の元に着いた時にはもう荷物を全て馬車に入れ終わり、2人が馬車に乗る時だった。
「2人とも、王都に行っても元気でやれよ」
「ヌ、ヌルこそ、元気でいなさいよ」
「…元気でね」
2人はそう言うと目を袖で押えて馬車に乗り込む。
俺達が言葉を交わしている間に話していた2人の両親もシアとルイに続いて馬車に乗り込んだ。
「では、出発します」
御者がそう言うと、馬車がゆっくりスピードを出して行った。
「約束!忘れるなよ!必ず、俺の方が強くなるんだからな!」
俺は走り去っていく馬車に向かって叫ぶようにそう言う。
「そっちこそ、忘れるんじゃないわよ!」
「今から、言うこと聞く準備しといて!」
すると、2人も馬車の小窓から顔を出して俺に叫ぶようにそう言った。俺はそんな2人に大きく手を振った。すると、すぐに馬車は見えなくなった。
「うぐっ…ぐす…」
「よく、耐えたな」
目を袖で何度も拭きながら嗚咽する俺の頭を父さんと母さんが優しく撫でた。2人が俺と別れる時に泣いているのは見えた。でも、どれだけ寂しくても2人の誘い断った側の俺が2人の前で泣いてはいけないと我慢していた。しかし、馬車が見えなくなって我慢が途切れてしまった。
「今日はもうゆっくり休めよ。明日からは強くなるための特訓を始めるからな。2人よりも強くなるんだろ」
「うん…!」
それから俺は1人でシアとルイとよく遊んでいた場所を転々と回った。そして、最後に静かになった2人の家を見て、2人はもうここにはいないと実感した。
そして、2人の誘いを断ってまで冒険者になると決めたんだから絶対に強い冒険者になると誓った。
明日からは楽しみにしていた特訓があるということで今日は早めに寝ることにした。
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