第5話 神官の思惑
「あの鑑定玉が高性能じゃなくてよかったな。隠蔽の効果がちゃんとあった」
「こんなところまで持ち運べるものはその程度の性能でしょう」
「ん?」
2人が難しい話をしていて、よく内容が分からない。だけど、隠蔽が上手くいってよかったと話しているのは分かる。
「あっヌル、お前の職業のことはアメシアちゃんとルイスちゃんにも秘密にしないといけないからな」
「え?言ったらだめなの?」
「ああ。言ったら冒険者になれないかもしれないぞ」
俺は2人には本当の職業を言うつもりだった。でも、冒険者になれないのは困るから黙っていると決めた。
「まだやることはあるからさっきの広場に戻りなさい」
「わかった」
俺は母さんの言葉に従い、家を出てさっきの広場に戻る。
「神から授かった職業に幸あらんことを…」
広場に戻り、俺が来たことを神官さんが確認してから神官さんは両手を組んで祈りながらそう言う。言い終えると、白い鎧の騎士達が広場の片付けを始めた。
「急に走り出したけど、どうしたの?」
「何の職業だった?」
神官さんが片付けを始めると、シアとルイが俺に話しかけてきた。
「不遇剣士ってやつ」
「何それ?聞いたことないんだけど?」
確かに不遇という言葉の付く職業は俺も聞いたことがなかった。
「それって戦えるの?」
「俺もそれが心配で慌てて父さんと母さんに聞きに行ったんだけど、全然戦えるっぽいよ」
すごく自然な嘘の言葉が出てきたが、これは聞かれると思って広場に向かっている途中に考えていたのだ。我ながら完璧な嘘だと思う。
「アメシア様、ルイス様、少し時間よろしいでしょうか?ご両親はどこにいるか分かりますか?」
「家にいますけど…?」
「家にいる」
話していた俺達…いや、シアとルイに神官さんが話しかけてきた。
「もしかして、3人は親御さん同士で付き合いがあるの?」
「そうです」
シアは神官さんの質問に素直にそう答える。
「ならお二人共、両親を呼んできてもらえるかしら?」
「あ、はい…」
「ん…」
2人は神官さんの言葉を聞きながら、俺の方をチラチラと見ていた。それを見てさすがに2人がどう思ってるかくらいは察せる。
「俺は関係ないよね?だったら家に帰っても大丈夫だよね?」
「ええ。大丈夫ですよ」
「じゃあ、2人ともまた後で!」
俺は少し気を使い、神官さんに許可をとってから2人に一方的に別れを告げて家のほうに戻っていった。
「ただいまー」
「おかえり」
「おかえりなさい」
俺が家に帰ってくると、両親が出迎えてくれた。今度はちゃんと靴を生活魔法で綺麗にしてもらってから家に上がる。
「ヌル、少し難しい話をするぞ。神官がこんな田舎に無条件に職業を授けに来てくれると思うか?」
父さんがイスに座った俺の方を向いて真剣な表情でそう言ってきた。
「え?違うの?」
特に目的なんかなくこの周辺の村で1番10歳の子供が多い村に神官は毎年来てくれるのが当たり前だと思っていた。
「神官はこの国の王都から片道20日以上かけてやって来ている。その神官の目的は優れた職業を授かった子供を王都にある学校に招待することだ。もちろん、その事が悪いことでは無い。それは強制でも何でもなく、ちゃんとしたところでお金も免除されて教育を受けられるのだから」
確かに少し年上の友達の中にも学校に行ってみたいと言っていた子はいた。でも家にはそんなお金が無いから無理だなとも言っていた。
「そしてヌルにとってはそれに誘われることが良いことで無いというくらいわかるな?」
「うん」
俺は冒険者になりたいのに、わざわざ学校に誘われたくない。
「少し優秀くらいな職業なら本人と家族が断ったら神官達も素直に諦めるだろう。だが、ヌルの職業は前代未聞だ。さらに、Lv.4のスキルが3つもある。多少の条件を変えたりと無理をしてでも王都の学校に連れて行きたいだろう。きっと断ってもしつこく誘われるな。最終的に断ることはできなくはないかもしれんが、その頃にはヌルのステータスの情報は世に出回ってる。冒険者にとってステータスが暴かれることは致命的だ。まだ何を言っているかよく分からないだろうからその辺は後で詳しく話す」
とりあえず父さんが言いたいのは、あの場で本当の職業を言っていたら冒険者になれなかったのかもしれないってことか。危なかったな…。
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