第3話 授かった職業は…

「ヌルは物理職と魔法職のどちらを授かるかな?」


「私としては魔法を教えてあげたいから魔法職の方が嬉しいわ」


「いや!あんなに特訓したんだから物理職のはずだ!」


神官が村にやってくる当日の朝食では、俺は家族でどの職業を授かるかという話している。


「ヌルは何になりたいの?」


「とりあえず戦える職業で、強いのなら何でもいいかな」


「ヌルはだいぶ大雑把だな。だが、強い職業に就くのはかなり重要だぞ」


俺は例え、物語で国を救った主人公と同じ職業の勇者になっても、商人になったとしても冒険者をやるつもりだ。だから俺は戦える職業なら良いというだけで、特にこれといってなりたい職業はなかった。しかし、両親が言うのには強い職業の方が自由に冒険者をやる上でかなり重要らしい。



「じゃあ行ってきます!」


「行ってらっしゃい」


「頑張れよ」


そして朝食を食べ終わると、俺は神官が職業を授けてくれる村の広場のような所へ向かった。父さん達は着いていこうか?と言ってくれたが、すぐ近くなので1人で行く事にした。



「あれ?みんな早いね」


俺が広場に行くと、もうここから近い村で俺と同い年の子供はみんな揃っていた。一応集合は昼前なので、俺でもだいぶ早いはずだ。



「今日で人生が左右されるかもと思ったら早く来たくもなるわよ」


俺の問い掛けに答えたのはシアだ。俺と同い年の子供は7人いる。シアとルイ以外の4人は知らないので、近くの村の子供だろう。ちなみに、7人のうちの4人が寝不足なのか、半目でうつらうつらしている。もちろん、寝不足なのは俺とシアとルイ以外だ。俺達は冒険者の両親に似たのか精神が図太いのだろうか。



「シアは弓士で、ルイは司書になりたいんだっけ?」


「そうよ」


「ん」


特に寝不足ではない俺達は時間を潰すために話し始めた。シアは自分の母に憧れて弓士に、ルイは本を沢山読みたいからという理由で司書になりたいそうだ。ただ、2人もどうしてもその職業になりたいという訳ではないそうだ。それになれたら良いなっという程度だと言っていた。だから緊張で寝不足になる事も無かったのだろう。



「ヌルは相変わらずなの?」


「俺はちゃんと戦える職業なら何でもいいかな。欲を言えば強いのがいいかな?」


「相変わらず大雑把」


2人も俺が冒険者を目指していることを知っているので、この希望の職業については特に追求されることは無かった。




「ん?あれの中に神官が居るのかな?」


「え?どれどれ!」


時間潰しの為の無駄話を1時間弱ほどしていた時に、俺は遠くから馬車がやってきているのが見えた。時間的に多分あれが神官を連れている馬車だろう。

そして俺の予想は当たっていて、馬車の周りには白い鎧を着た騎士が居た。そして、馬車が俺たちの近くに止まると、白いローブを纏った30過ぎの女性が女騎士?のような人と共に下りてきた。



「皆さん、おはようございます」


「「「おはようございます」」」


神官さんは俺達の前に来ると、優しそうな笑顔で挨拶をしてきた。



「神官様、この度は誠にありがとうございます。馬車での長距離でお疲れでしょう。少し休んでからにしますか?」


「お気遣いありがとうございます。ですが、この後にも予定がありますので、今からやらせていただきます」


「分かりました。お願いします」


「はい。では皆さん、1列に並んでください」


村長さんが神官さんと話した。そして神官さんの言う通りに俺達は1列に並んだ。さっき眠そうにしていたやつも我先にと急いで並んでいた。神官さんはその様子を微笑みながら見ていた。



「では、始めます」


並んだ順番で授けてくれるようだ。俺は周りの動きの速さに少し呆然としてしまっていたので、順番は最後だ。シアとルイは俺の前に並んでいるので、5番目と6番目で後ろの方だ。

神官さんは片膝を着いて頭を下げている少年の真ん前で手を組んで祈り始めた。ちなみに片膝を着く動作は前からこの日のために教わっていたことだ。

そしてその少年の周りに光のようなものが現れた。それは少年に吸収されるように消えていった。



「親父と同じく斧士だ!」


そう少年が叫ぶのと、神官さんが組んでいた手を解くのはほぼ同じタイミングだった。ちなみに職業は親と同じになりやすいという話もあるが、実際にどうなのかは分かっていないらしい。


「では、この宝玉に手を置いてください」


「あ、はい」


神官さんに言われて斧士を授かったという少年は神官さんの横にある薄い青色の透き通っている水晶のような物に手を置いた。


「斧士ですね。おめでとうございます」


「ありがとうございます!」


どうやら、その水晶のような物に手を置くと、神官さん達も職業が分かるようだ。


「では、次のお方」


「は、はい!」


そして1人ずつ神様から職業を授かっていった。

特に珍しい職業は現れなかったが、授かった職業に一喜一憂している姿を見ると、俺も少し緊張してくる。



「では、次のお方」


「はひ!」


そしてとうとうシアの番になった。シアでも、授かる瞬間は緊張するようだ。返事の声が裏返っていた。そして今までと同じように膝を着いて祈ってから職業を授かった。



「剣聖?」


「え!今、剣聖と言いましたか!?」


「は、はい…」


シアがぼそっとそう呟くと、神官もその護衛達も慌ただしくなった。神官さんの言葉の勢いにシアも少し引き気味だ。


「こ、ここに手を!」


「あ、はい…」


シアは戸惑いながら神官さんに言われた通り水晶に手を置いた。



「本当に剣聖…しかも奇才のスキルがこんなにも!あ、ごめんなさいね。んっ!次のお方」


「ん」


神官さんはシアに一言謝ってから咳払いをした。そして、引き続き職業を授けてくれようとしている。でも、後ろの護衛?達はまだどこかそわそわしている。ちなみに次の番なのはルイだ。

ルイは他の人達と違い、職業が授かり終わった後も何も言わずにすっと立ち上がった。その反応に神官さんは少し戸惑いながらも水晶に手を置くように促した。



「賢者!?また奇才のスキルがこんなに…!」


神官さんがそう言うと、周りはまた少し慌ただしくなった。



「やはり、勇者が現れたから…んんっ!で、では次の方」


「はい」


神官さんは何か言っていたが、途中で止めて、最後の俺の番となった。俺もみんなと同じように片膝を着いて頭を下げた。そして目を閉じてじっとしていた。



『【職業】不遇魔法剣士』


「おっ」


すると、突然頭の中で片言のような声が聞こえてきた。その声は何て言っていた?不遇魔法剣士?魔法剣士?魔法と剣士?もしかしてこの職業は魔法も剣も両方使えるのか!?

俺はいてもたってもいられずに、家に向かって走り出した。



「あっ!ちょっと待って!あなたの職業は!」


後ろで神官さんが何か言っていたが、それは俺の耳には届かなかった。

俺は両親の片方からしか戦い方を教われないと思っていた。その事に両親は今朝も争っていたし、どこか少し寂しそうにしているのを見たこともあった。

でも、もしかしたら俺は父さんと母さんの2人から戦い方を教えて貰えるかもしれない。俺はその可能性がある職業を誰より先に両親に伝えたかった。

俺は家の床が土で汚れること何て考えていなく、靴も拭かずに両親が居るリビングに入った。

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