アルバム

雪桜

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大人になってしまった貴方へ。


貴方は今、昔のアルバムに目を通して、何を思ったのでしょう。


哀しいかな。貴方はもう、大人になってしまったのです。

あの時のことを思い出しては、太陽よりも美しかった世界に心の拠り所を求めていることでしょう。


貴方の歴史は、たしかに美しかった。

未来のことを考えれば、キラキラとした光景が浮かび、五百円をその小さな掌に握れば、この世のもの全て買えるのではないかと胸を躍らせていました。


本当に本当に愛する人だってまだいなくて、そんな感情をわかった気になって、でもまだ分からなくて、だからこそ傷つくこともせず、ただ、無知ゆえに何も怖いものなんてありませんでした。


毎朝、起きるのが楽しみで、心が痛む夜さえあれど、それは月が見えなくなる頃には朝焼けとともに消えてしまった。


いつからか、嗚呼、いまとなってはわからないのです。貴方は汚い世界を知って、人の心の底に落ちれば汚い思考で肺がただれて、居酒屋の便所の吐瀉物に塗れていましたね。


本当に愛する人ができて、初めて貴方は貴方自身の性別を、容姿を意識するようになって、理想と現実、その成れの果てで鏡に拳を突き立てては嗚咽を洩らすのです。浅ましい獣の様に。


人を本気で愛したと思ったら、人を本気で恨んだ。

憎んで、憎んで、その気持ちが気付けば自分に向いていました。憐れな子。


大人になってしまった貴方へ。


貴方は、汚いのです。

目も当てられないくらい。

あのアルバムに載ってはいけないくらい。


貴方が必死に生きてきた人生の歴史は美しくとも、今の貴方は汚いのですから、全部全部汚いのです。


大人になってしまった貴方へ。


大人は汚いのです。

あの時の私よ。

大人は汚いのです。

いいえ、大人になってしまった貴方が汚いのです。

たとえ世界の全てが挑んでも負けてしまうくらい。

貴方がそうなったのですから、しょうがないのです。


ですから、その灰色にくすんでしまった心はもう、捨てるべきなのです。

なんて、そんな、哀しいこと言わないでください。

哀しいかな。私は私を嫌いになってしまった。

ですから、嫌いなまま生き抜いてください。

死が、私と私を分かつまで、貴方は吐瀉物まみれの両手で「大人」にしがみつくのです。

哀しいかな。私は私を許せないのです。

ですから、許せないまま生き抜いてください。


死が、いつか私と私を自由にしてくれるのです。


あと少しで自由になれるのです。

大人の貴方は、美しい記憶の幼子を大事に抱き抱えて、何よりも強く、抱いて、決して離さないでください。


それだけが、貴方の幸福なのです。


いずれ私は死を迎えるにあたって、美しい記憶となるのです。


貴方はまだ気づいていない。


貴方はまだ、酔いつぶれて居酒屋の便所に張ってある薄っぺらいポエムを笑っています。

傍らには幼い私がそれを興味深く覗き込んでいるのです。


貴方はまだ気づいていない。


大人になってしまった貴方へ。









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アルバム 雪桜 @sakura_____yu

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