ᴸᴵᴾ ᵀᴬᵀᴼᴼ ²
× Ⅱ
乾ききった髪をつまみ上げると雨の匂いがした。
どんなに高いトリートメントを丹念に塗りたくっても湿気からは逃れられない。
すれ違った自転車が危うく身体に当たりそうなところを避けたらバランスを崩してiphoneが宙に舞った。
こんな馬鹿げた今日という形は、明日になったら忘れてしまうのだろうか。
別れを告げるという概念がなかった。
それは私にも、貴方にも。
だがそれは離れないための示唆じゃない。
自然と、朝が来るように、よるが去るように、循環していく空気や時のように分岐しゆくことを理解していた。愛という概念を知らなかった。今この瞬間も分からない。でも、夢をみるより確実に欲した。手を伸ばしたら雨粒の軌跡みたいな笑窪がニクかった。
例えば、空が青いと気づいたのはいつだったか。
紫陽花に紫という文字をあてたのは、言葉という概念を人に与えたのは、youという言葉が指す意味も、loveという意味も、考える前に当然で済まされてしまうのは、当たり前の言葉がイコーリングされる当然が当前じゃないのも、多分人が落としたエゴである。
あの人を見ていると、掬われる気がした。
救われるなんてヤワなものじゃない。私の中心を、抉るように巣食う代わりに私という概念を掬った。幻なんかよりよっぽど冷静に、不可思議に。
彼が重ねる、真実の中のほんの少しの嘘さえも肯定したかった。嘘を吐くことがイケナイことだという世間の言葉の流布が思い込みにも感じた。
"愛の方程式を求めよ、"
そんな、いつか小説で見たような馬鹿げたフレーズを想起して延々答えを探し求めたけど、いざ例えるなら素数を並べて標本にしたみたいだった。
対して幾らでも掛け算し続け、いつでも割り切れるのが恋としたら近しい説明になるだろうか。
愛していた、愛している、そのベクトルとは交わらぬからエイエンという整合性がある。
交わることを知ったエイエンは生きるもの全てに存在しない。
雨が降らないから折り畳み傘を常備するし、空腹が満たされないから炭酸水を飲む。双方向を望まないから恋う。
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