唇紋に燃え殻

星雫々

ᴸᴵᴾ ᵀᴬᵀᴼᴼ ¹

Ⅰ ( prologue )





唇紋は、小さな針を巡らせるようにして夏を狂わせた。


規則的にまわりゆく秒針に時が溶けるよりも、

不規則な雨の落下音に耳を傾けたほうが

面白いとさえ思えるのは人間の愚かさであり、

俯瞰を夢見た主観である。




崩れる予感だけが迫り来る午後、遂に降り出した時には雲が開けていた。


涙を落としていない時には暗雲で、やがて溢れ切った水分を追い出して裂ける。





通り雨ほど明確な輪郭を帯びた世界があるだろうか。スクランブルスクエアに向かうコンクリートを埋める雨粒のはからいにより、間伐入れず白昼の闇へと化していく。


ごった返すコンビニから、滴る勇者たちが武器を手にして押し出されてきた頃、彼らは白日に照らされていた。




氷が滑りゆく不完全なスピードよりも、もっともっとメロウな夢を見るみたいに、その視線だけを結合できたらそれでいい。


欠乏感を拭えるのはたった一つの方法であり、妥協点なのだ。



その広げた羽を溶かすことが出来るのはおそらく、燃え殻みたいなその紫陽花だけだった。








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