第114話 魔女の怒り 

「・・・何?…この茶番は・・・ふざけるな!!」


 魔女マリアがわなわなと震え、叫んだ。

 全ての戦いをモニターで見た魔女は怒りに震えていた。


 光は既に汚染も無くなり、姫乃達と和気あいあいとしており、充も折角苦労して順応させた核が破壊され、もう自爆させることすら出来ない。

 渋谷もティアも汚染からは脱し、一つの命すら失わずこちらに戻ろうとしている。


「目論見が全て外れたな魔女。今の気分はどうだ?」

「やかましい!実験動物の小娘風情がこのわたくしに向かって!!」


 ホッとした表情を消えさせ、魔女に問いかけるアンジェリカに対し、睨みつけるようにそう発するマリア。

 その目は憎悪に溢れていた。


「そう思っていたのはお前だけだったという事だ。」

「黙れ!」

「人の心はお前にはどうしようも出来ないという事だな。」

「黙れ黙れ!!」

「後はお前を退場させるだけだ。」

「黙れっ!!!!」


 そんな中続々と全員が戻ってくる。

 マリアはそんな面々を憎々しげに睨んだ。


「姐さん!充をなんとか出来ないか!?」


 健流を覗く全員がマリアを睨む中、健流だけは空気を読まず充を背負って桜花に走りよる。


「・・・取り敢えず、回復させるわ。『パーフェクトヒール』」


 桜花は充の状態を診て、一目で危険な状態である事を看破し、回復魔法を使用した。


「一先ずこれで命には関わらない筈よ。但し、根本的にどうにかしようと思ったら、龍馬に診せた方が良いわね。」

「姐さん!あざっす!!」

「ありがとうございます・・・」

「いいえ、どういたしまして。それと、健流は姐さんって言うな。」

「あ、あの!お父さ・・・渋谷さんとクリミアさん、レーアさんも治して頂けないでしょうか!?」

「・・・そうね。命に関わりそうだわ。こちらに来て。」

「悪いな綺麗な嬢ちゃん・・・」

「すみません桜花さん・・・」


 マリアは桜花の魔法を見て驚愕した。

 失伝している魔法を、魔女である自分よりも使いこなし、ましてや大した疲労を見せていない。

 

「(流石はイレギュラーの関係者という事ね・・・戦闘に介入されたら、わたくしではおそらく勝てない。・・・忌々しい!!それよりも・・・)」


 そう言って健流達を見る。


「充!」

「光か・・・元に戻ったようだな。良かった・・・。」

「うん!充が今まで支えてくれたおかげだよ!ありがとう!!」

「ああ、良かった・・・如月さんも灯里さんもありがとう。」

「良いのよ。それに、あなたも姫乃と呼びなさい。私も充くんと呼ぶから。」

「わかった。そう呼ばせて貰うよ。」


 そう言って笑顔を見せる面々。

 マリアはギリッと歯噛みする。


「(光ちゃんももうこれ以上は無理ね・・・小僧も駄目。『剣豪』もティアちゃんももう駄目・・・ああ!どうしてこうも上手く行かない!!それもこれもイレギュラーが干渉したから!!)」


 マリアは親指の爪を強く噛む。

 そして、必死に頭を回転させた。


「(わたくしに残る手は2つ・・・イレギュラーさえいないのであれば!!)」


 そう結論付けた時だった。


「さて、全員戻ったようだし、そろそろ始めようか。」


 アンジェリカがそうマリアに問いかける。

 マリアはアンジェリカを見て睨みつけた後に、表情を緩ませた。


「やれやれ・・・お仲間がそろったからって粋がっちゃったのかしら?小娘・・・わたくしにまだ手が無いと本気で思っているのかしらね。」

「なんだと?」


 アンジェリカが訝しげにすると、マリアは両手を広げた。


「わたくしには素晴らしい方がついているのよ!!さあ、ケントゥム様!!準備は整いましたわ!!」


 そう叫んだ瞬間、その空間・・・マリアの背後に凄まじい存在感を放つ何かが現れた。


「・・・管理者!!」


 桜花が初めて構えを見せるのを見て、全員に緊張が走る。


「マリア、首尾よくイレギュラーを排除出来たようだな。」

「ええ、ええ!ケントゥム様!そこに片割れは居ますが、それでもあなたの方が上でしょう?」

「勇者か・・・そのようだな。あの者もかなり強いが、管理者には届かない。我なら排除可能だろう。」

「で、あれば安心ですわ!ここいる者さえ排除できれば、今後わたくし達の遊び場で邪魔する者はいなくなる!!楽しい楽しい虐殺の時間が始まりますわ!!」

「ふむ・・・マリアがそれを望むのであれば、我はいくらでも手を貸すとしよう。」


 そんな会話を続けるマリア達を見て、アンジェリカは額から汗を落としながら、桜花に問う。


「桜花さん・・・」

「・・・残念だけど、魔女の言う通りね。私ではまだ神殺しには至れない。」

「そんな・・・でも、諦めません!」


 アンジェリカが一瞬絶望しかけるも、それでも前を向いた。


「ああ、長の言うとおりだ。折角家族になれたんだからな。死んでたまるかよ。」

「その通りですね十三。今こそ我々全員で向かい打つべき時でしょう。セルシア、気合を入れなさい!」

「わかってるわ、お母さん!」


 一つの家族もまた魔女に向き直った。


「レーア・・・調子はどうですか?」

「そうね・・・体力だけは戻して貰ったって感じかな・・・異能のダメージはまた別みたい。まだ、能力は使えないわ。」

「そうですか・・・ですが泣き言はまだ早いです。頑張りましょう。」

「ええ、私も格好良い彼氏を作ってラブラブしたいもの。大和くんも良いけど、姫乃ちゃん達がいるからね。良い人見つけないと!!」


 親友二人も気合を入れ直した。

 そして・・・


「さて、今から一番悪い奴をぶっ倒さなきゃなんだが・・・こりゃきついぜ・・・」

「そうね・・・でも、なんとかするわよ!灯里も光もいいわね?ここを乗り切らないとあの作戦は出来ないんだから!」

「勿論よ!こんなのさっさと終わらせて、あっちにもとどめをさすわ!!」

「うん!もう私だって戦えるもん!魔女さんには悪いけど、悪いことしてるなら止めなきゃね!!それに私達の真の敵を倒さなきゃ!!」

「真の敵?なんだそりゃ?」

「健流は関係・・・無くも無いけど楽しみにしていなさい。」

「そうそう、姫乃の言うとおりよ!あんたは首を洗って待ってなさい!」

「はっ?真の敵って俺なの!?俺なんかしたか!?」


 驚愕している健流を見て、充は笑いながら光を見た。


「光・・・もう完全に大丈夫そうだね。さて、俺も親友の力になるかな!健流!悪いが、多分さっきまでの強さは俺には無い!だけど、必死に食らいついてでも、三人を守るから安心しろ!」


 充がそう言うと、健流は表情を戻し、獰猛に笑う。


「おう!任せたぜ親友!俺はあのムカつく女に一撃食らわせてくるからよ!!」


 健流達も気合充分だ。


 アンジェリカはマリアを睨みながらも口元を綻ばせる。

 

「(状況は最悪だ・・・けど、みんなが心強い!なんとかしてみせる!!)」


 そんなアンジェリカを見て、桜花は笑顔で頷いた。


「うん、良い組織を作ったわねアンジェリカさん。私も微力ながら手助けするわ。」

「はい!自慢の仲間です!!」

「もう茶番は良いかしら?」


 マリアがそんなアンジェリカ達を見下し、蔑むに言った。


「さて、1つ目の絶望はケントゥム様、続いて2つ目をプレゼントしましょう。」


 そう言って手を高々と挙げる。

 すると、床に巨大な魔法陣が現れた。


「下がって!!」


 桜花が叫ぶと、全員が反応して、部屋の一番手前まで下がる。


 魔法陣は大きく発光し、そこから巨大な何かを含め、多数の生き物が現れた。


「ド、ドラゴン・・・だと?」


 巨大な何かは空想上の生き物とされるドラゴンであった。

 そして、部屋を埋め尽くすようにいる他の生き物も、空想上の生き物とされている、俗に言う魔物というモノだった。


「あはははははは!これぞケントゥム様のお力の一旦よ!!他の世界から生き物をわたくしの為に捕獲し、使い魔としたの!!どうする!?どうするのかしら!?あはははははは!!」


 マリアは嘲笑った。

 健流達の方は冷や汗を流しながら焦ったままだった。

 しかし、


「何かと思えば・・・こんなものが切り札なのかしら?」


 桜花が構わず歩きだす。


「っ!?その女を消し炭にしなさい!ドラゴン!!」


 マリアがドラゴンにそう指示を出すと、ドラゴンが口を開けてブレスを放とうと大口を開ける。


「姐さん!!」

「桜花ちゃん!!」

「「桜花さん!!」」


 健流、灯里、姫乃にアンジェリカと、桜花と面識のある面々が叫ぶ。


「来なさい。雪!」

『はい、桜花。』


 桜花がそう呟くと、桜花の隣に可愛らしい少女が姿を表した。


「魔女。これはルール違反では無いから悪しからず。」

「・・・なんですって?」

「私達は、この場にいる人やあなたと戦わないと言ったけど、それ以外とは戦わないとは言っていないもの。」

「屁理屈を!まぁ良いでしょう。どうせドラゴンに食い殺されるのですものね。武器も持たずに戦場にいる間抜けさを呪いなさい!」

「はぁ・・・」


 桜花はため息をついた。

 マリアが額に血管を浮き立たせて苛つく。


「たかだかトカゲ一匹でどうこうなるほど私は弱くないわ。元勇者を舐めない事ね・・・あ、そんな風に言ったらあの子達に怒られちゃうわね。失言だったわ。」

「姐さん!?それどころじゃ・・・」


 ブレスは今にも吐き出されそうだ。

 健流は焦って叫んだ。


「雪。」『はい。存分に。』


 桜花が少女に手を伸ばすと、少女の身体は光の粒子になって桜花の手に集まる。

 そして、光が無くなった頃、桜花の手には刀が握られていた。


「聖剣『雪月花』よ。さて、元勇者、廻里桜花。参る!」


 桜花はドラゴンから放たれるブレスを一刀に切り裂いた。

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