第115話 シリアスブレイカー
「・・・すげぇ・・・」
健流が呟く。
「桜花ちゃん・・・こんなに強かったの?」
「訓練の時にはかなり手加減してたのね・・・」
灯里と姫乃が驚いていた。
「・・・なんだありゃ・・・」
「あれが・・・長の言っていた・・・」
「凄いですね・・・」
渋谷、ティア、セルシアが愕然としている。
「・・・本当に敵対しなくて良かった・・・」
「強いとは聞いていたけど・・・」
「桜花さんもこれほどの・・・私も努力しなくては!」
クリミアは安堵し、レーアは困惑し、アンジェリカは気合を新たにしていた。
健流達の目の前には、ドラゴンを圧倒する桜花の姿があった。
振る刀は強靭な鱗を難なく切り裂き、放つ魔法はその肉を焼く。
それを見ているマリアの表情も引きつっていた。
「な・・・これほどとは・・・」
「まぁ、勇者であるからな。さて、他の魔物をけしかけても消耗するだけであろう。そろそろ我が介入しよう。」
桜花がドラゴンの首を切り飛ばした所で、ケントゥムがそう切り出した。
そして、力を開放する。
桜花がパッと振り向いた。
そして、刀を構える。
「あら、次はあなたが相手かしら。」
「ふん、矮小なるものよ。神の御前であるぞ?控えよ。」
「っ!!」
「ぐっ!?」
「あ・・・あ・・・」
「そんな・・・」
ケントゥムの発する凄まじい威圧感に、桜花を除く面々は身体の底から来る震えに動けなくなっていた。
桜花が表情を変える。
それでも、他の面々のように震えるような事は無い。
「あはははははは!ケントゥム様のお力の前にはお前たちなぞ虫も同然!イレギュラーの片割れでも無理でしょうね!あははははははは!!」
マリアは嘲笑う。
しかし、そんなマリアを前に、桜花は眉をぴくりと動かし、構えを解いた。
「あら?諦めちゃったのかしら?」
「・・・そうね。私がどうこうするのは諦めたわ。だって、その必要が無くなったもの。」
「は?」
「・・・何?」
桜花の言葉に眉を潜めたマリアとケントゥム。
その時だった。
ビシビシッ
という音が室内に響き渡る。
「な、何かしら!?」
「・・・マリア、我のそばを離れるな。」
ビシビシッ!
尚も音は響き渡る。
全員が固唾を飲む。
桜花を除いては。
ビシィッ!!
一際大きな音が響き渡った時だった。
_____み〜つけた!_____
室内に声も響き渡った。
「この声!?」
「まさか!?」
「嘘っ!?」
アンジェリカと健流と灯里が叫ぶ。
ガシッ
「うお!?」
「ケントゥム様!?ひっ!?」
ケントゥムの背後の空間が割れ、そこから手が伸びている。
そして、その手はケントゥムの頭を鷲掴みにしている。
______僕龍馬くん。今あなたの後ろにいるの_________
そして、手の生えている空間が完全に割れて、誰の手なのかが明らかになった。
「なんちゃって。」
「兄貴!!」
「龍馬さん!!」
「三上さん!!」
それは封印されていた三上龍馬だった。
その姿は、何か装甲のような物で覆われていて、額にはサークレットのような物も見える。
どれほどの力で捕まれているのかわからないが、ケントゥムはただ苦しみもがいていた。
「な、何故!?お前はケントゥム様のお力で封印されていた筈!!」
マリアが狼狽してそう問いただす。
すると、龍馬は事も無く、
「え?こんなの大した封印じゃないし、普通に破ってきたよ?」
「そんな・・・」
愕然とするマリア。
彼女にはわからない。
神と類する力を持つケントゥムの力が破られるとは夢にも思っていなかったのだ。
「だって、僕の持っている神力は『空間』だよ?空間のエキスパートな力に封印なんていう空間制御の最たるものが通じる訳が無いじゃないか。」
「はじめから・・・わかって・・・」
「うん。この協力者が中々尻尾を表に出さなかったからね。当初の予定とは違ったけれど、チャンスだと思って素直に封印されたんだ。みんなならこの状況がどうとでもなると思ってね。桜花も居たし。」
マリアはショックで言葉を発せなかった。
そして、龍馬は頭を鷲掴みにしているケントゥムを見て、
「さて、確保した事だし、僕達は違う場所でやり合おうか。悪いけど、君の処分はもう許可貰ってるからね。本気でやらせてもらうよ。」
「ぐおおおおおおおお!?離せ!離せ〜!!!」
「聞いてたよ?何が神だよまったく。君はただの補助者じゃないか。シータさん怒ってたよ?まぁ、もう恐れることはなくなるけどね。」
龍馬はそう言って少し表情を変えた。
「・・・悪いけど僕も怒ってるんだ。僕の可愛い後輩達をよくもまぁ傷つけてくれたもんだよまったく。悪いけど責任取って貰うからね。」
そう睨みつけた時に発した殺気は、その場にいる人間を固まらせるに足るモノだった。
そんな様子を見て、桜花は呆れたように、
「もう・・・演出が凝りすぎよ。それと殺気漏れすぎ。みんなが怖がっているでしょ?」
「あっ!ごめん!!」
「まったく・・・」
呆れた桜花に苦笑する龍馬。
そんな時、龍馬はふと、何かに気が付いた。
「そういえば・・・桜花は僕が封印された時に焦らなかったの?」
そう問いかけると、桜花は更に呆れる素振りを見せた。
「あなたがどうにかなると思えないもの。あなた前より更に強くなってるでしょ?管理者じゃもう届かないってセレスが言ってたわよ?」
「あはは・・・いや、神力を解析してたら更に鍛える余地があったからさ。どうせならって思ってね。もうそろそろジードに届くかな?」
「さて、どうかしらね?あなたの師匠の力の底は私ではわからないもの。」
「だよね〜!さて、それじゃちょっと行ってくるよ。桜花、こっちは任せても良いかな?」
「ええ、と言っても、私は魔女とは戦わない、で良いのよね?」
「うん。それはみんなの戦いでしょ?僕達は、あくまでも反則を潰すだけ。」
「わかったわ。」
「よし、それじゃ僕は行くよ。アンジェリカちゃん、健流くん、灯里ちゃん、それにみんなも頑張ってね〜?」
こうして龍馬は転移し消えた。
「・・・あいつ、思いっきりシリアスな空気をぶっ壊していったわね・・・」
桜花はため息をつくのだった。
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