第113話 親子の戦い(3)

 渋谷は半狂乱になっているティアに近づいて行く。

 

「ああああああああ!!」


 渋谷に魔法が何度か直撃する。


「お父さん!?」

「セルシア!集中しろ!!チャンスは一度だ!!」

「っ!!はい!!」


 渋谷は意識が朦朧としていた。

 ティアは魔法を無差別に放っている。

 だから、渋谷にも、近づくチャンスがあった。


「(・・・もう少し・・・あと少し・・・ティア・・・)」


 その時だった。

 ティアの放った爆発の魔法が渋谷を包む。


「お父さん!!」

「ぐがっ・・・ぐ!!ティア!!」


 渋谷はティアを倒れ込みながら、覆いかぶさるように抱きしめる。


「・・・十・・・三?」

「ああ・・・俺だ・・・ティア・・・もう帰ろうぜ?家族の・・・俺たちの・・・所によ?」

「・・・だが・・・私は・・・母上の・・・私には・・・もう家族は・・・私が・・・私が殺し・・・」

「ティア!!」

「ぐむっ・・・」


 渋谷がティアの唇を口づけで塞ぐ。

 そして、唇を離した渋谷は叫んだ。

 

「戻ってこい!お前の家族は俺たちだ!そこに可愛い娘もいる!血は繋がってなくても俺たちは家族だ!だから戻ってこい!!」

「十三・・・あああああああああ!十三!!助けて!?私を・・・助けて!!」


 ティアの身体から黒いオーラが立ち上る!


「セルシア!今だ!!」

「お母さん!!正気に戻って!!」


 セルシアは『渦』をティアの頭に押し当てる。

 

「(お母さんの中に巣食う黒いオーラだけ吸い取る!!お母さんを苦しめるものなんて全部無くなれ!!お母さん!戻ってきて!!)」

 

 セルシアの額からは汗が滴り落ちている。

 凄まじい集中力だった。

 

 ティアを傷つけず、黒いオーラだけ吸い取るのは、神がかった異能コントロールが必要だったのだ。


 そして・・・


 ティアは崩れ落ちた。

 渋谷も共に倒れ込む。


「お父さん!お母さん!!」


 セルシアが2人を抱きとめる。

 そしてティアが顔をあげた。


「セルシア・・・私の・・・私の家族になってくれる?十三と一緒に・・・私の手は血で汚れている、親を殺し、友人を殺し、知り合いを殺し・・・幼馴染を殺した・・・こんな私だけど・・・何度も魔女に操られた、情けない女だけど・・・」


 セルシアはそっとティアを抱きしめた。


「・・・ううん。そんな事無いよ?ずっとずっと辛かったね?だから・・・私のお母さんになって。一緒に幸せになろう?お父さんと一緒に・・・お母さん・・・ううう・・・お母さん!ずっと、ずっとそう呼びたかった!!お母さん!!」

「セルシア・・・ごめんね気づいてあげられなくて・・・本当にごめん・・・私も、ずっとそう呼んであげたかった・・・でも、こんな私だから、幸せにしてあげられないと思ってたから・・・ごめんね・・・」



 号泣するセルシアを涙を流しながら抱きしめるティア。

 渋谷はそんな2人を同じ様に抱きしめて包んだ。


「ティア、セルシア、これからは俺達は家族だ。言いたいことはきちんと言いあって生きていこう。ティア・・・よく無事で戻ってくれた・・・」

「十三・・・ごめんなさい・・・私は・・・あなたを無理やり・・・」

「馬鹿ティア・・・良いんだ。俺だってずっと我慢してたんだ。お前に迷惑かかるかもしれないと思って、今まで言わなかったんだ。そもそも、俺がずっと独り身で居たのはなんの為だと思ってんだ。だから、俺から言わせてくれ。ティア。」

「・・・はい。」

「今まで、師として、姉として、母として一緒に居てくれてありがとう。これからは、妻として一緒に居てほしい。」

「十三・・・ええ、ええ!あなたの妻にさせて。愛してるわ。」

「ああ、俺も愛している。」


 三人はお互いに抱きしめ合う。

 そこには一つの家族があった。


 少しの間そうやっていた三人は、顔をあげた。

 渋谷がおもむろに口を開いた。


「おい、お前ら、趣味が悪いぞ。」


 それは意識を取り戻したレーアと、介抱していたクリミアに当てたものだった。


「何言ってるのよ渋谷さん。こんな人前でプロポーズする方が悪いのよ。」

「まったくです。独り身の私達に対する嫌がらせですか?」


 ニヤニヤしながらそう言う2人。

 ティアとセルシアは恥ずかしそうにしていた。


「まぁ、それはそれとして・・・」

「ええ、そうねレーア。十三も動ける?」

「行きましょう。ティアさん立てますか?」

「ああ、ありがとクリミア。クリミアもレーアも迷惑をかけた。」

「気にしないで下さい。良いもの見せて頂きましたから♡」

「・・・相変わらずレーアはいい性格してるなまったく。それより・・・」

「はい、お母さん。行きましょう。終わらせるために。」


 セルシアの言葉で全員が頷く。


 お互いに肩を貸し合ってドアに歩き出す5人。

 決戦はまもなく始まる・・・ 

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