第101話 剣豪 対 怨造魔獣

 渋谷の能力は単純なものだった。

 力場を刀に乗せる。

 それだけだ。


 単純なものである。

 だが、だからこそ強力だった。

 

 渋谷が振るう刀を避ける充。

 しかし、その度に後ろにある、木が伐採されていく。


 渋谷の異名である『剣豪』。

 それは、渋谷に切れないものは無いという事から来ていた。

 彼の力場は、超常の力ですら引き裂けるのだ。


「ふっ!!」


 渋谷が刀を振るう度に、充にも切り傷が増えて行く。

 渋谷の刀を使う技量は、熟練のもので、まともに刀だけで戦っても灯里すら倒しうるものだった。


「くっ・・・」


 そんな渋谷に、充は防戦一方だった。

 それもその筈、避けきれなければ切り落とされるのだ。

 牽制の反撃など出来るわけが無い。


「どうした!逃げる一方ではどうにもならんぞ!?」


 渋谷は攻め続ける。

 それは、心に感じる僅かな感じ。

 何か違和感を感じていたからだ。


「(なんだこの嫌な感じは・・・こちらが攻めているのに、不安が消えねぇ・・・こんな事は初めてだ。)」


 渋谷は、充に危険を感じて一切手を抜かなかった。

 それでも、充を殺せない。

 それは異常な事だった。


「(一気に決めなきゃまずい気がする・・・新人の小僧達には悪いが、ここでこいつは消えて貰う。)」


 渋谷は気を高める。

 そして、


「絶刀連刃」


 一瞬にして充の手足を切り飛ばした。

 体中の力を、自らの動きに合わせて増幅し、人を越える動きを可能にした技。

 今、灯里が桜花の指導を受けてものにしようとしている技だった。


「がぁぁぁぁぁ!?」


 手足を失った充は地面に倒れる。


「悪いな・・・お前みたいな奴は嫌いじゃないんだが・・・」


 そう行って、充にとどめを刺そうと近づく渋谷が、ふと足を止める。

 

「・・・何?」


 充の切り離された腕や足が転がる地面を見る。

 切り飛ばされた手足ははそのままだ。

 にも関わらず・・・

 

「・・・幻術では無い、な。お前・・・」


 充は平然と立ち上がった。

 その手足は健在だ。

 しかし、切り飛ばされた名残か、手足に服は無い。

 だからこそ異常性が際立った。

 

 なぜなら、充の手足は普通にあったからだ。

 切り傷すら見当たらない。


「・・・驚きますよね。俺の身体はもう普通じゃないんです。魔女にいじくり回されて、斬られようが刺されようが、すぐに回復してしまう。それも、より強固になって。魔女は僕の事を『怨造魔獣』なんて呼んでますよ。・・・もう・・・人間じゃないんです・・・」


 充が自嘲気味にそう呟き、そして、また渋谷に飛び込んできた。

 その速度は先程よりも速い。

 だが、


「・・・さっきよりは確かに速いが、それでは俺には勝てん。すまんな。死んでもらう。恨むなとは言わん。」


 渋谷の手が動いたと思った瞬間、充の首が切り飛ばされた。


「・・・胸糞悪いにも程がある。クソ魔女め!」

「・・・ええ、それには俺も同感です。」

「なっ!?」


 渋谷が振り返ると、充の首は戻っていた。

 しかし、地面には充の首は転がっている。


「・・・首も一緒なんですよ・・・ははは・・・」


 力なく充が笑う。

 しかし、その目からは涙が落ちていた。

 改めて、自分が人間では無いと突きつけられた形になった充の心は、もう壊れそうになっていた。


「・・・酷い事をしやがる・・・人間をなんだと思ってやがるんだ!!あの馬鹿女は!!」


 渋谷が、そんな様子の充になんとも言えない気持ちが押し寄せた。

 

「良いんです・・・あなたのように、怒ってくれる人がまだいるのは、嬉しいですから・・・行きます!!」


 その後も、顔を串刺しにされようが、心臓を突かれようが、縦に両断されようがお構いなしに渋谷に襲いかかる充。

 

 余裕があった渋谷も、段々と速度も、力も、反応も向上していく充に冷や汗が流れ始めた。


「(まずい・・・負けはしないが、勝てもしない。・・・いや、このまま行けば俺が負ける。どうする?)」


 渋谷の手が止まった。

 逃走が頭をよぎったからだ。

 もう少し早く逃走していれば、充からは逃げおおせる事が出来たかもしれない。

 

 だが、それは敵わなかった。


「いつまでやっている。」


 そんな声が渋谷の背後から聞こえた。

 振り返る渋谷。

 すると、そこには、


「お前!?どうしてここに!?」


 予想外の人物がいたからだ。


「ティア!!」

「あなたもこちらに来て貰います。『バインド』」

「くっ!?」


 渋谷がティアの魔法が発動する直前に飛びすさろうとした。


 しかし、


「おおおおおおおお!!」

「何!?ぐあっ!?」

勿論

 側面から、充が飛びつき、ティアの魔法に渋谷の体ごと飛び込んだ。

 自らの身体も拘束される。


 拘束魔術で身体の動きを止められた渋谷。

 

「くっ!だが!!」


 そこは、ティアと共に過ごしていた過去を持つ渋谷だ。

 自分の異能の力を高め、腕を動かし刀で拘束を切り裂いて脱出しようとする。


「甘いよ。」


 更にもう一人の声。

 それは、


「黒瀬光だと!?があああああ!?」


 光から電撃の魔法を受けて悶絶する渋谷。

 その横では、同じ様に充も電撃を受けて悶ている。


「ぐ・・・う・・・」

「少し眠っていなさい。」

「ティ・・・ア・・・」


 渋谷はティアからの魔法で意識を刈り取られてしまった。

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