第88話 絶望の中で(1)

「今日も健流は学校に来ていない・・・か・・・」


 光と充が行方不明になって二週間が過ぎた。

 発覚した翌日から、健流は学校に来なくなった。


 健流は、ほとんどの時間を、光と、巻き込まれたと思われる充の捜索に当てていた。

 昼夜を問わず、寝食を忘れた様に捜索しており、今の健流は目には隈があり、頬は痩け、それでも捜索を止めようとしない。


 任務については姫乃と灯里が組んで対応していた。

 もっとも、あれ以来任務自体は何故か減少しており、この二週間で二回ほど、それも小規模なものがあったのみだった。


 健流の状態は、とても普通の状態とは言えず、そんな健流の状態が見ていられず、姫乃や灯里をはじめ、アンジェリカ、クリミア、レーアといった面々が、健流を何度も止めようとしたが、健流は頑なに拒否して、捜索をやめようとしなかった。

 

「・・・ねぇ。このままにしておいていいと思う?」

「・・・」


 灯里が、不安そうに姫乃に問う。

 姫乃は、口を引き締めて言葉を発しない。 


 今の健流の状態には、姫乃にも覚えがあった。

 両親を殺され、復讐を誓った時、姫乃は寝食を忘れ訓練をしていた。

 目の前に見えることは、仇討ちのみ。

 その状態を見かねて、色々な人が声をかけてくれたが、聞く耳を持つことは無かった。


 今の健流はまさにそんな感じだった。


 光が連れ去られたのは自分のせいだと思い込み、責任に押しつぶされている。

 そして、おそらくそれに巻き込まれただろう充についても同じだ。

 命が尽きても探し出す、という鬼気迫るものを感じる。


「・・・もし。」


 灯里が、姫乃を見る。

 姫乃は無言で灯里を見た。


「もし、健流が修了式の日まで止めなければ、あたしはあいつを気絶させてでも止めようと思ってる。」

「っ!!」


 姫乃は驚きを見せた。

 しかし、それもすぐに落ち着く。


「・・・そうね。その時は、私も手伝うわ。」

「・・・うん。」


 修了式まで後2日。

 姫乃と灯里の顔は晴れなかった。



 2日後。

 やはり、健流は修了式にも出席せず、二人の捜索をしていた。


「(どこに・・・どこに居るんだ・・・光・・・充・・・)」


 昼食も取らずに探し回っている健流。

 睡眠不足と栄養不足の為、既に正常な判断は出来ていなかった。

 ふらふらとした足取りにも関わらず、目をギラギラとさせて歩く健流は、見るものを不安にさせるものだった。


「(どこだ・・・どこに・・・?)」


 この時、健流は、少し足を伸ばして、人通りの無い山中を捜索中だった。

 そんな健流の前に、2つの人影が立ち塞がる。

 

「・・・なんの用だ?姫乃・・・灯里・・・」


 二人は、厳しい顔で健流と向き合っている。


「悪いが道をあけてくれ。まだ、探している途中なんだ。」

「・・・それは出来ないわ。」


 健流の問に、姫乃が答える。


「健流・・・一度休もう?そんな状態じゃ、上手く行かないよ?」


 灯里もそれに合わせるようにそう言った。


「・・・それは出来ねぇ。あいつらは今どんな目に遭ってるのかわからねぇんだ。一秒でも早く助けてやらないと。」

「それで健流が憔悴していくのは見ていられないの!!私達だって気持ちは同じよ!光も瀬川くんも友達だもの!!でも、そんな状態じゃ、見つかる前に健流が駄目になる!!」

「そうだよ!あんたちょっと休みなさい!あたし達が代わりに探すから!!」


 姫乃と灯里の悲痛な叫び。

 お互い、憔悴しきった想い人の状態は、これ以上看過出来なかった。


 だが・・・


「・・・すまん。」


 健流は一歩踏み出した。

 そこで、二人の顔色が変わった。


「・・・これ以上先に進もうとするのなら・・・」

「あんたを気絶させてでも、無理やり休ませる!」


 姫乃と灯里は戦闘態勢に移った。

 それを見て、健流は眉をピクリと動かしたが、表情は一切変えず、


「・・・なら、踏み越えてでも探しに行くだけだ。」


 身体から赤いオーラを発しながら迎え撃とうとした。

 その事に、姫乃も灯里も泣きそうになるも、キッと表情を保ち、


「・・・あなたはまだ私に勝てない事、忘れたの?」

「・・・健流、ちょっと痛いかもだけど我慢してよね。」


 本気で倒す決意をした。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る