第87話 魔女と充

 時は遡る。


 光が魔女の手を取った後、魔女と光は、光の自宅の部屋に来ていた。

 理由は、携帯電話を置いていく事と、当面の服などを取りに来た為だ。

 それに、光は母親の顔を最後に見ておきたかったので、魔女にお願いしたのだ。


 そっと母親の仕事姿を見る光。

 その目には涙があった。


「(お母さん・・・ごめんなさい・・・)」


 光は部屋を後にする。

 

「あら?もう良いのかしら?」


 先に光の部屋を出て家の前で待つ魔女が、家から出てきた光にそう言った。


「・・・はい。これ以上居たら、決意が鈍ってしまいそうですし・・・」

「そうなの?わたくしにはわからない感覚ねぇ。まぁ良いわ。それでは行きま・・・」

「あれ?光?」


 そんな時に、男の声がした。

 光が振り向くと、そこには充がいた。


「・・・充。」

「・・・どうした?何があった?」


 充はすぐに光の異常に気がついた。

 ずっと光を見ていた充だ。

 気が付かないわけがない。


「何?この男の子は?」


 魔女が不思議そうに光に問いかける。


「・・・仲の良い、友達です・・・健流達とも・・・」

「ふ〜ん・・・そうなの。」


 興味の無さそうにする魔女。

 しかし、次の充の言葉にそれは覆された。


「・・・あんたはなんだ?光の知り合いか?」

「あら・・・このわたくしにそんな口が聞けるなんて・・・なるほど。」


 魔女は美しい。

 絶世の美女である。

 そんな魔女を見た世の男共の反応は、だいたい一緒だった。

 見惚れる。


 しかし、充は違った。

 魔女を放っておいて、すぐに光に駆け寄った。

 そこから考えられることは一つ。


 充が心の底から光に惚れている、これしかない。

 だから魔女は嘲笑わらった。

 使える・・・と。


「充・・・私、ちょっとの間学校行かないから・・・」

「光・・・一体何があったんだ?相談に乗るから考え直せ!」

「駄目なの・・・もう駄目。私はやること出来たから。その為に学校なんかに行っていられないの。・・・健流を助けなきゃ・・・あの二人から・・・」

「・・・光?」


 充の目の前の光はブツブツと何かを呟いている。

 明らかに異常であった。


「あんた!光に何したんだ!!」


 充は魔女を睨みながら怒鳴る。

 魔女はニヤリと嘲笑ってから、


「控えなさい。ニンゲン。」


 そう言って威圧する。


「う・・・あ・・・」


 充は膝をついて胸を押さえる。

 普通の者が魔女の威圧に耐えられるわけがない。

 だが、充は、魔女を顔だけでも睨みつけた。


「ふーん・・・良い覚悟ね。じゃあ教えてあげる。光ちゃんは、今からわたくしの弟子になるのよ。魔女であるこのわたくしのね?目的は、大和健流くんの心を手に入れるために、アルテミス・・・如月姫乃と廻里灯里を殺すこと。」

「!?」


 充は絶句した。

 まさか殺すなどと言う言葉が出てくると思わなかったのだ。

 だが、光の様子を見る限り、今、この状況でも充の方を見ずに、ブツブツと何かを呟いている状況を見ると、魔女と名乗るこの女の言うことには信憑性があった。

 明らかに光は普通の状態ではない。


「それで、今からわたくしの拠点・・・異界で修行するのよ。さて、それじゃあねニンゲン。行くわよ光ちゃん。これからはわたくしの事は師匠と呼びなさい。」

「はい、師匠。」


 そう言って歩みを進める二人。

 充は焦った。

 このままでは、光は取り返しのつかない状態になってしまうと。

 そして、手の届かない所に行ってしまうと!


「待ってくれ!!」


 充は叫んだ。


 光はその声に反応して振り向く。

 魔女はそのまま前を見たままだ。


「何かしら?」

「俺も・・・俺も連れて行ってくれ!!」

「あら・・・普通のニンゲンには興味は無いわ。」

「連れて行ってくれるなら、どうなっても構わない!!」


 魔女は嘲笑う。

 狙い通りだと。


「・・・ふーん・・・なら、ニンゲンをやめて貰うわよ?ちょっと改造しちゃうから。」

「・・・構わない。光の側に居られるなら・・・」

「・・・充・・・」


 この時、一瞬光の目から濁りが消えた。

 充の言葉に大きく反応したからだ。


「あらあら、そうなの。だったら良いわよ。一緒に来なさいな。お望み通り、光ちゃんの側には居させてあげるわ。」


 そして、そのまま充の側に近づき、耳元でぼそっと呟く。

 光に聞かれないように。


「但し、断言しておくわよ。あなたは、大和健流と殺し合う事になる。」


 充は瞑目した。

 そして口を開いた。


「・・・わかった。頼む。(健流・・・すまん。だが、光を放ってはおけないんだ・・・)」


 こうして、充も魔女と共に歩む事になる。

 その道の行き着く先が、友人との殺し合いになるとしても。

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