第74話 釣りでのんびり

 朝食後、フロントで貸釣り竿と餌やルアーなんかを借り、四人は宿から出発する。

 一応、念の為、救命胴衣も借りた。


 四人中、三人は異能持ちだ。

 よっぽど大丈夫だとは思うが、万が一を考えると、やはり基本通り着用することにしたのだ。


 フロントで教えて貰った釣り場に着く。

 川の流れはそこまで早く無く、木陰もあり、景色も良い。


「こりゃ良いな。のんびり出来そうだ。」


 健流は深呼吸して場の空気を味わう。

 来てそうそうだが、それでも来てよかったと思わせるような状況であった。


「さて、やるか。」


 フロントに確認すると、この辺りではマスが釣れるらしい。

 持って変えれば、夕食の時に調理してくれるとの事だった。


「(どうせなら、自分達で釣った魚を食べて貰いたいしな。)」


 一応、ここは宿が管理している所らしく、諸々の法律なども問題無いとの事だ。

 健流は準備を始める。


「いいか?こうやって針に練り餌をつけて、魚がいそうな所に・・・よっと!針を飛ばす。後は食いついたら、あのウキが反応するから釣り上げるんだが・・・注意する点がある。すぐに上げると食いつく前に上げちまって釣れねぇ。だから、ある程度ぐっとウキが沈んだ瞬間に、一気に竿を上げるんだ。」


 健流は三人に説明し、それぞれ説明通り始めた。


 5分程するが、まだ反応は無い。


「ねぇ健流。これって本当に釣れるの?」


 灯里が退屈そうにそう呟く。


「まぁ、釣りってのはそういうもんだからな。のんびりと待つのも醍醐味って奴だ。暇なら、なんか話でもするか?」

「そうね・・・じゃあ、光さん。」


 姫乃がウキを見たまま、光に質問した。


「えっ何かな?」


 自分に話が来るとは思っておらず、目を丸くする光。

 姫乃はそのまま続けた。


「私に何か聞きたいことがあるんじゃ無いかしら?」

「!?」


 光は驚いた。

 実は、この旅行が始まってから光が気にしていた事は3つあった。


 一つは、三人の関係性の事。

 これは、道中にも考えたが結論が出ない。

 話してくれるのを待つしか無い。


 2つ目は、健流の言葉使いの事。

 昨日からの様子を見る限り、健流の言葉使いは、光が知っているものでは無かった。

 いつもは、もう少し丁寧に使おうとしている感じがしていたのだ。

 今のように荒々しくは無かった。 


 そして3つ目は・・・


「・・・うん。姫乃さん・・・あのね?姫乃さんのクラスでの態度と、今回の旅行中での態度がなんか違うって思うの。なんというか・・・」


 違和感。

 そう、ずっと感じていたのだ。

 いつものお嬢様然とした感じでは無い何か。

 たしかに言葉使いは丁寧ではあるけれど、どこかに違和感があった。


「・・・そうね。こうやって旅行に来るのも何かの縁、かしら。それに、光さんになら、本当の私を見せても良いかもしれないわね。」


 姫乃は目を閉じそう呟く。

 そして、目を開け光を見た。


「ごめんなさい。ホントはね?私は別にお嬢様でもなんでも無いのよ。あれはただの演技。処世術よ。」


 そう話し始める姫乃。

 その姿に光は違和感が薄れていくのを感じた。


「本当の私は、結構悪戯好きで、口も悪いわ。」

「ホントホント!ヒメノは口が悪いよね〜!!」

「あなたに言ってないわよ。」


 そんな姫乃に灯里がにししと笑いながらつっこむと、姫乃は苦苦しく顔を歪めながら灯里にそう言った。


「そっか・・・健流も知ってるの?」

「ええ、知ってるわ。」

「・・・だから三人とも距離感が・・・どうして教えてくれたの?」


 光は気になった。

 三人の中に何かがあるのは間違いない。

 だが、それを自分に教えてくれるのは何故なのかと。


「・・・そうね。私の中にあった、一番の問題事の優先順位が激下がりしたのもあるけれど・・・やっぱり、これが一番しっかり来るわね。ライバルだからよ。」

「・・・そう・・・」


 その意味は考えなくてもわかる。

 健流を巡るライバルという事だ。


「光さん。今回の旅行でもよくわかったわ。あなたは良い子よ。私は、今まで意図的に人を遠ざけていた。だから、友達の作り方もよくわからない。でも、あなたとは、仲良くしたいと思ったの。友達になってくれる?」


 姫乃が光を見てそう言う。

 その目は真剣なものだった。


「・・・うん。よろしくね。私も姫乃さんと仲良くしたかったんだ。勿論灯里ちゃんともね。」


 そう笑顔で言う光に姫乃も笑顔になる。

 その笑顔は、教室で見せるような冷たい笑顔ではなく、年相応の笑顔であった。


「は〜・・・これだからボッチは。友達なんて、わざわざ口に出して言う必要も無いわよ。あんた達はとっくに友達だってのに。」


 灯里がそんな二人に茶々を入れる。

 しかし、口調とは裏腹に、その表情は笑顔だ。

 なんだかんだといって、姫乃の事を気にしていた灯里なのだった。


 姫乃は、そんな灯里の言葉に、暖かさを感じて一瞬微笑むと、すぐに表情を戻し、


「あ、灯里は友達じゃないから。あなたはペットよペット。ちびっこいし。」


と言った。


 そして、噛みつく灯里。


「なんだと?あんただってちっぱいじゃない!」

「・・・どうやら決着をつける時が来たようね。」

「望む所だ!!この女狐め!!」

「ちょ、ちょっと!灯里ちゃんも姫乃さんも止めなよ!」


 そうオロオロして止めに入る光に、姫乃と灯里は顔を見合わせ、プッと笑う。


「・・・姫乃、でいいわよ光。」

「あたしも!灯里で良いよ!」

「・・・うん!姫乃!灯里!」


 こうして女性陣は親睦を深めた。

 そして、我らが主人公は思った。


「(仲良くなるのは良いことなんだが・・・俺空気じゃねぇ?)」





 こうして、30分程経過した頃だった。

 ピクッピクッとウキが反応するのを見た健流。


「(っ!来た!!)」


 健流は三人に手を上げ、ウキに注目するように促す。

 そして・・・グッとウキが沈み込んだ瞬間に、竿を一気に引き上げる。

 すると・・・


「よしっ!」


 そこにはマスが掛かっていた。


「釣れてる!」

「ホントだ!」

「なるほど・・・ああやってウキが沈んだ瞬間なのね・・・」


 三人がそれぞれそう感想を言い合う。

 健流は、マスを針から外しながら、


「こんな感じだ。後はやってみて、だな。」

「よし!今度はあたしが釣るわよ!」

「いいえ、私が釣ってやるわ。」

「私だって負けないもん!」


 三人とも、実際に釣り上げる所を見て、どうやら気合が入ったようだ。

 そうして、更に10分頃たった時、光のウキに反応があった。


「あっ!?来たのかなコレ!?」

「・・・お!光、焦るなよ?」

「う、うん・・・」


 ドキドキしながら光がウキを見ていると、ウキがぐっと沈んだ。


「今だ!」

「えいっ!!」


 光が竿を上げる。

 すると、そこにはマスが掛かっていた。


「やったぁ!」

「お〜!!光おめでとう!」

「光に先を越されちゃったわね。でも、おめでとう。」 

「ありがとう!!」


 こうして釣りの楽しさを知った女性陣。

 釣果は、光が3匹、灯里と姫乃が2匹、健流は4匹で釣りを終えたのだった。


 このマスは夕食の時に食卓にのぼり、三人は自分が釣った魚に大喜びだった。

 ちなみに、一人二匹ずつで、余ったものはレーアの分にしてもらった。

 

 レーアからもお礼を言われる四人。

 レーアは、楽しそうな姫乃を見て微笑む。


「(・・・良かったわね、姫乃ちゃん。)」


 幸せな気分もおすそわけされたのだった。

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