第75話 混浴 第2夜

「・・・お願いですから一人で入らせて下さい。」


 現在、健流は三人に・・・主に二人に頭を下げていた。

 その表情は真剣なものだった。


「え〜・・・こんな機会でも無いと一緒に入れないじゃん!!」

「そうね・・・なんで一人にそこまで拘るの?・・・はっ!?そういう事!?まさか一人でスッキリするつもり!?」

「ちげぇ!!何言ってんだ!?そうじゃなくて、のんびり湯に浸かりたいんだよ!!」


 姫乃にあらぬ疑いをかけられた健流は、必死に否定し、一人で入りたい理由を説明する。


「ねぇ、姫乃も灯里も、健流がここまで言うなら許してあげようよ。」

「・・・光・・・お前が天使だったのか・・・」

「ふぇっ!?」

「「・・・」」


 光の言葉に健流は思わずそう呟くと、今の健流にとって悪魔である二人は、健流にジト目を向ける。

 そして・・・


「しゃ〜ないな〜・・・」

「仕方がないわね・・・」


 そうため息をつきながらそう言った。


 こうして、一人での入浴許可を貰い、意気揚々と男湯に向かう健流と、女湯に向かう三人。

 だが、健流は甘かった。

 その様子を伺っている者の存在に、気づいていなかったのだから。



 かけ湯をして、今度こそゆっくり出来ると、かけ湯をしてから浴槽に浸かる健流。

 

「(あ〜・・・一人でのんびり出来る・・・最高だ・・・)」


 健流は一人湯を満喫していた。

 そして、ある程度温まった後、浴槽から出て身体を洗う健流。

 ちなみにここは露天風呂だ。

 屋根があるので、雨天でも問題は無いようになっている。

 となりは女湯になっており、三人のかしましい声も時折聞こえて来る。


「(姫乃達も楽しんでるようだな・・・)」


 健流は、姫乃が復讐から開放されたのを嬉しく思っていた。

 思わず微笑んでしまう。

 そして、頭を洗っている時だった。


「背中流すわね。」

「あっこれはご丁寧に・・・って!?」


 突然後ろから聞こえて来た女性の声。

 普通に答えた後、疑問に思い振り向くと、そこには・・・


「れ、れ、レーアさん!?なんでここに!?」


 バスタオル一枚のレーアがいた。

 レーアは妖艶に微笑むと、


「あのね?姫乃ちゃんの心を救ってくれたでしょう?だから、お礼をしようと思って、ね?」


 そんな風に言われ、健流の顔は引きつる。


「い、いや、あれは、俺がしたいからした事であって・・・お礼を言われる事では・・・」


 しどろもどろに答えると、レーアは、


「良いのよ。私が勝手にお礼したいだけだから。じゃあ、洗うわね?」


 そう言って、手にボディソープを取ると、泡立ててから背中を撫でる。


「ひゃう!?」

「あら、いい声出たわね。」


 くすぐったいのか照れくさいのかわからなくなっている健流は、されるがままになってしまう。

 強引に脱出するか、と思っていた健流だったが、


「・・・ありがとね大和くん。」


 というレーアの言葉に動きを止める。


「あの子が小さな頃から知っているけど、本当に酷かったのよ。楽しいことも、面白いことも全て捨てて、ただひたすら復讐の為に生きていた。そんなあの子がこんなに楽しそうにしているなんて・・・あなたのおかげよ。」


 そんなレーアの言葉に、健流は落ち着きを取り戻した。


「・・・そんな事無いっすよ。多分、あいつは、レーアさん達にも感謝している筈だ。だってそうでしょう?あいつは、人の純粋な善意を無下にするような奴じゃねぇ。ただ、仇討ちって事に囚われすぎてて、それを表に見せられなかっただけだ。だから、俺だけじゃない。あいつを救っているのはレーアさん達もだ。」


 そう断言した。

 それを聞いてレーアは、感極まって健流の背中に抱きつく。


「ひっ!?れ、レーアさん!?」

「・・・ありがとう。あなたは良い男ね・・・」


 レーアは、健流の言葉で救われていた。

 元々心優しいレーアだ。

 幼い姫乃が戦う事、それ事態が嫌だったのだ。

 今や幼いとは言えないが、それでも復讐を理由に戦って欲しくは無かった。

 そんな想いが溢れ、思わず健流の背中に抱きついてしまった。


 しかし、健流はそれどころでは無かった。


「(あ、あ、当たってる・・・あのデカいのが・・・やわ・・・)」


 健流の知り得る限り、最高の大きさを誇る胸部装甲が背中に当たっている。

 押しつぶされていると言ってもいい。

 バスタオル越しなので、ダイレクトな柔らかさが分かる。

 敵は圧倒的だった。


 少しの間その状態でいた後、レーアはスッと離れる。

 健流はホッとした。

 だが、次の言葉に固まる。


「じゃあ、次は前ね。」

「いっ!?ま、前は大丈夫っす!もう洗ったんで!!」

「あらそう?」

「(今洗われたらとんでもない事になっちまう!逆にレーアさんを汚しちまう・・・って何考えてんだ俺は!?)」


 混乱する健流に、レーアは更に言葉を続けた。


「じゃ、入りましょうか。」

「へっ?」


 レーアは笑顔でそう言うと、健流の背中をお湯で洗い流し、健流の手をひっぱり上げる。

 

「うわっ!?ちょ!まっ!?」


 慌ててタオルで前を隠す健流。

 当然、戦闘態勢のままなので、タオルで押しつぶすようにする。

 しかし、レーアはお構い無しで、


「早く行きましょう?それとも・・・前も洗って欲しい?手で・・・ね?それとも・・・」

 そう言って胸を寄せるレーア。

 健流はごくりと生唾を飲み込んだ後、ぶんぶんと頭を振った。


「い、いや!いいっす!!入りましょう!!」

「そう?じゃあ行きましょうか。」


 健流の手を引っ張り湯船に向かうレーア。

 そして、湯船に足を沈めると、


「そういえば、湯船にタオルはつけちゃいけないんだったわね。」


 そう言ってタオルの結び目を緩めようとした。


「待った!待って下さい!!そのまま!そのままでいいっす!」

「そうなの?」

「そうして下さい!頼んます!!」

「大和くんがそう言うなら。」


 湯船に身体を沈めたレーアと健流。


「(・・・俺は何やってんだ?2日連チャンで女と混浴って・・・それも違う人と・・・)」


 これが、クラスメイトやエデンの男スタッフに知られたら、おそらく健流の命は無いだろう。

 姫乃はおのずとしれた男子人気ナンバーワンだし、灯里や光も同じく人気がある。

 レーアも、その美貌でエデンの男スタッフから絶大な人気を誇っていた。


「(・・・絶対知られないようにしねぇと・・・)」


 そんな決意を固めている時だった。


「ねぇ・・・大和くん・・・」

「なんすか?」

「折角だから・・・お互いに見せあいっこしない?」

「・・・は?」


 そう言って徐々に近寄ってくるレーア。

 健流は一瞬呆けて・・・


「な、何言ってんすか!?ダメっすよそんなの!!」


 しかし、レーアは止まらない。


「あら・・・私の身体に興味・・・ない?」


 ぐわっと健流に迫るレーア。


「そ、そういうわけじゃ・・・」

「じゃあ・・・」


 覆いかぶさるように健流の首に両手を絡ませるレーア。

 健流はパニックになった。


 当然、湯船に浸かって落ち着きを見せ始めた健流の健流も、起動完了だ。


「大和くん・・・」


 徐々に近寄ってくるレーアの顔。


「(ヤバいヤバいヤバい!ああ・・・綺麗な顔が・・・近寄って・・・何も・・・考えられない・・・)」


 健流が圧倒的な色気で陥落寸前!

 そんな時だった。

 

 ドタドタドタ!

 ガラガラ!!


「こら〜〜〜っ!!健流!あんた何やってんの!!」

「た〜け〜る〜!!!レーアさんも何やってるんですか!!離れて!健流から離れてー!!」

「あわわわわ・・・健流が・・・健流が食べられちゃう!!」


 三人がバスタオルのまま男湯の入口から入り、そのままバシャーンと湯船に飛び込んできた。

 

「あん。強引ねぇ。」


 姫乃と灯里によって健流から引き剥がされるレーア。

 その口元の口角が上がっている。

 最初から気づいていたのだ。


 隣の女湯で、レーア達の声が聞こえた三人が、急いでこちらに向かっている事を。

 最後の誘惑は、レーアの悪戯だったのだ。


「健流!あんた!あたしというものがありながら!おっぱいか!?やっぱりおっぱいか!!」

「健流!目を覚ましなさい!あんなのただの脂肪よ脂肪!!騙されないで!!」

「健流!年上が良いの!?同級生じゃダメなの!?」


 三方向からガクガクと揺らされる健流。


「お、お、おお?俺は一体何を・・・?お前ら何故ここに?」

 

 健流は混乱のあまり、直前の事が頭から消えていた。


「ほらっ!早く出るわよ!!」

「健流!早く!ここは危険よ!淫魔に食べられるわ!!」

「ちょっと!誰が淫魔よ!!」


 姫乃の言葉にレーアがつっこむ。


 しかし、そんなレーアに取り合わず、姫乃と灯里は健流の手を引っ張り湯船から出ようとした。

 健流は、まだ頭が回っておらず、そのまま引っ張られ立ち上がる。

 そう、立ち上がってしまったのだ。


「「「!?」」」

「あら、ご立派ねぇ。」


 先程のレーアの誘惑で、健流の身体は完全に夜の強化が発動されていた。

 

 三人の驚愕の視線と、レーアの興味津々な視線。

 健流はその視線を追い・・・


「うわあああああああ!?またかよ!!もう勘弁してくれ〜っ!!」


 脱兎の如く脱衣所に向かったのだった。

 男湯に残された女性陣は、衝撃から立ち戻る。

 姫乃はレーアをじろりと見た。


「・・・レーアさん!からかいにしてはやりすぎ!」

「てへっ!ごめんね姫乃ちゃん?」

「・・・可愛いけど歳を考えて下さい。」

「しくしく・・・酷いわ・・・」


 こうして、健流はまたしても、全力全開の所を見られてしまったのだった。

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