第66話 長い一日を終え

 戦いの現場は応援の部隊と、サポートスタッフに任せ、三人はその場を離れた。

 帰る途中、桜花と会った場所を確認したが、そこには一太刀に切られた敵の死体があるのみで、桜花はいなかった。


「姐さん・・・これは一体・・・」

「健流、それはまた今度聞きに行こう。」


 健流と灯里はそう結論付ける。

 本人がいないのでは、ここで結論付ける事は出来ない。


「・・・健流や灯里を動けなくする程の殺気・・・か。そして、一個小隊を単独でこんな短時間に壊滅させるほどの力・・・助ける手助けをして貰っていてなんだけど、得体がしれないわね・・・そんな人の事は聞いたことが無いわ。少なくとも、エデンにはいないわね。」


 姫乃もまた、詳細を聞いてそんな感想を述べる。

 三人は、一足早くヘリで本部に向かった。


 

 本部に着き、アンジェリカの執務室に通される。


 そこには、既に、任務を終えて帰って来ていたクリミアと、健流と灯里が見知らぬ女性が立っていた。

 それは、『過去視』の能力を持つレーアだった。


「姫乃くん。すまなかった。今回は完全にエデンのミスだ。申し訳ない。大和くんも廻里くんも、姫乃くんを助けてくれてありがとう。」


 アンジェリカは頭を下げた。

 

「長、頭を上げて下さい。結果として私は無事です。だから、そこまで気にしないで下さい。」


 姫乃はアンジェリカにそう言う。


「俺も気にして無いよ。」

「あたしもです。」


 アンジェリカはホッとして頭を上げる。

 その顔は、凄まじく疲れて見えた。


「長?そこまで気に病まれていたのですか?疲れが隠しきれていませんが・・・」


 そう姫乃が問うと、アンジェリカは苦笑した。


「いや、これはまったく別事だよ。今回の件で関係ゼロかと言われるとそうでは無いが・・・ちょっとね。」


 そう言ってなんとも言い辛そうにするアンジェリカ。

 そして、いたわしそうにするクリミアと、難しそうな顔をしているレーア。

 三人は首を傾げる。


 そんなアンジェリカを見かねてか、


「姫乃ちゃんお久しぶり。それとあなた達が新人さんね?はじめまして。私はレーア、Aランクよ。みんな私を『過去視』のレーアって呼ぶわ。よろしくね。」


 レーアが間に入った。

 

「レーアさん。お久しぶりです!」


 姫乃が嬉しそうに挨拶をする。


「姫乃ちゃん、可愛くなったわね?恋でも知ったのかな?」

「そ、それは・・・」


 言葉を濁す姫乃。

 するとにっこり笑って、すぐに灯里に振り向くレーア。


「廻里灯里ちゃんだったね?よろしく。」

「あっはい!よろしくお願いします!・・・それにしても、レーアさんお綺麗ですね!憧れちゃいます!・・・あたしちんちくりんだから・・・」


 そう言って落ち込む灯里に、レーアはにっこり笑った。


「何言ってるのよ。灯里ちゃんも凄く可愛いわよ?食べちゃいたいぐらい。」

「え〜?本当ですか?そう言って貰えると嬉しいです!」


 そんなやり取りをした後、最後に健流を向くレーア。


「あなたが大和健流くんね?姫乃ちゃんを助けてくれてありがとう。」


 そう言って、健流の両手を包み込むレーア。

 健流は、美女からいきなり手を握られてドギマギしながら、


「い、いや、俺が助けたかったから、助けただけです。大事な仲間・・・相棒ですから。」


 そう言った。

  姫乃と灯里はそんな健流をジト目で見ていたが、レーアは目を輝かせて、


「あら!?イイ男じゃないの!これは頑張ったご褒美あげないと、ね。」

「ご褒美?いやそんなのいらな・・・!?」


 健流の言葉が止まる。

 なぜなら・・・レーアが健流の頬にキスをしたからだ。

 

 固まる健流。


「イテテテテテっ!?」


 そして・・・両耳を引っ張られる痛み。

 姫乃と灯里が健流の両耳をおもいっきり引っ張っていた。

 レーアはちゃっかり離れている。


「何しやがる!?」

「あなたこそ何されてるのよ!隙ありすぎでしょ!馬鹿!アホ!変態!レーアさんが綺麗だからってデレデレしちゃって!!」

「そうよ健流!あんたにそういう事して良いのはあたしだけなんだから!!」

「はぁ〜!?ちょっと聞き捨てならないんですけど!?健流にしても良いのは相棒の私だけなんですけど!?」

「何言ってんのよ!長い付き合いのあたしだけなんですけど!!」

「お、お前ら何を言って・・・」


 健流への暴力せいさいから突然の言い合いに健流は目を白黒させている。


「何よ〜!」

「う〜っ!」


 姫乃と灯里はぐりぐりと額を突き合わせて、睨み合っている。

 おろおろする健流。

 そんな3人を見て、


「アハハハハハハハハハ!」


レーアがお腹を抱えて笑い始めた。


「レーアさん?」「「?」」


 姫乃達がレーアを見ると、レーアは目に涙を浮かべながら、


「・・・あの仇討ちが人生の全てです!って言ってた姫乃ちゃんのこんな様子が見られるだなんて・・・健流くん、灯里ちゃん、本当にありがとうね。」


 そう言って、3人まとめて抱きしめた。


「レーアさん・・・」


 姫乃は目を閉じた。


 レーアは常々心配していたのだ。

 姫乃のその精神のあり方が。

 だが、そんな心配も今回の事で消し飛んだ。


 もう心配はいらない、そんな風に思えたのだ。


 そして、それはアンジェリカとクリミアも同じだった。


「・・・本当に彼はエースだよ・・・姫乃くんの心も救ってくれたんだな。」

「そうですね・・・。」


 こうして、姫乃と灯里はまた、レーアに抱きしめられて真っ赤になっている健流に気づき、制裁と口論が始まる。

 そんな様子を微笑ましげに見守るアンジェリカ達。


 また一つ結束が深まるのだった。

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