第65話 決着
「クソッ!クソッ!こんな所で俺は死ねない!!」
片足で立ち上がるベンジャミン。
そんなベンジャミンに近寄り、腕を引いてパンチを打つ姿勢を取った。
「今からパンチをお前の胸に打つ。しっかりガードしとけ。」
「なめるな!!そんな大ぶりな攻撃が当たると・・・ゴホッ!?」
ベンジャミンの胸に健流のパンチが直撃した。
速さ、衝撃が先程とは雲泥の差だった。
それは、圧倒的に『硬化』の力を越えており、ベンジャミンの胸骨を折り、陥没させる。
そして、崩れ落ちそうなベンジャミンを、今度は、
「次は顎だ。」
アッパーカット。
ゴキゴキッ!!
顎の骨を砕きながら、上体を起こすベンジャミン。
そこからは、倒れそうになるベンジャミンを起こす要領で、健流はひたすら殴り続ける。
既に、ベンジャミンの意識は無い。
ただ、健流に立たされているだけであった。
そんな様子を見ている二人。
灯里は、姫乃に目を向けて真剣に、
「ねぇ・・・ヒメノ、良いの?」
そう問いかけた。
「・・・何が?」
姫乃は問いかけの意味がわからず、そう問い返す。
「あんたの仇は、このままなら多分もうすぐ死ぬよ。で、良いわけ?健流に手を汚させて。」
「・・・・・・」
姫乃の顔がこわばる。
「あんたの親の事はさっき少し聞いてた。正直、わかってやれるとは言えない。でもさ、健流が手を汚す意味があるの?確かにさっきまでも健流は人を殺してた。でも、それは、多分あいつの意思じゃない。だけど、これは違う。あいつは、あんたの為に自分の意思で殺そうとしてる。そして、その罪も背負おうとしてる。ヒメノ、あんたはそれで良いの?」
姫乃は、灯里の言葉で歯を食いしばった。
わかっていた事だ。
両親が望まないであろう仇討ち、これは完全に姫乃の八つ当たりだった。
端的に言って、正しいとは言えない。
おそらく健流もそれは気づいている。
だけど、それでも姫乃の為にと、自らの主義を曲げてまで、姫乃の為に仇を取ろうとしていた。
自らの意思でする殺人。
おそらく一生健流の脳裏にこびりつくだろう。
そして、健流の性格上、それを一生背負おうとする。
だから・・・
「・・・良くないわ。良くないわよ。これは私の我儘だったんだから。その為に・・・後から健流が傷つくのは、私が私を許せない。」
そう呟いた。
そして、それを聞いて灯里は嬉しそうに笑った。
「そう!それでこそ私のライバルね!じゃあ、一緒に健流を止めましょう!手遅れになる前に!」
「・・・そうね。ライバルってのは気に食わないけどその通りだわ。私の健流を止めるわよ!」
「まだあんたのじゃないでしょ!」
「もう私のだもん!!」
そんな風に言い合いながら健流に近づく二人。
そして、健流の腕にしがみつく。
「健流!もう良いの。もう良いのよ。私の我儘にこれ以上付き合う必要はないわ。ごめんなさい。」
健流にそう言う姫乃。
健流は姫乃の目を見る。
「・・・だが、多分こいつを殺せるのはこのタイミングだけだぞ?仇は・・・」
そう尋ねる健流に、姫乃は首を振った。
そして、笑顔で、
「良いの!多分お父さんやお母さんは、私が仇をとっても喜ばないもの!二人が喜ぶのは、私が幸せになって人生を終える時だけだわ!だからもう良いのよ!」
そう言った。
そこに暗い感情はもう無かった。
本心からそう言っているのがわかった。
ベンジャミンは倒れ伏し、虫の息だった。
人相はもうわからなくなるほど、ボコボコになっていた。
健流の身体からはオーラは既に消え去っていた。
瞳の色も、もとの黒い瞳に戻っている。
「・・・ふぅ。おっと!?」
健流の膝がガクンと落ちる。
実は健流も既に限界だったのだ。
「「健流!!」」
二人が健流を支える。
「悪い・・・」
健流がしょんぼりそう言うと、二人は笑った。
「何がおかしいんだよ・・・」
「だって、私は貞操や命を助けて貰ってるのに、なんで支えられただけの健流が謝るのよ。」
姫乃はそう笑顔で言う、そして灯里も、
「あたしだってそうよ。助けてくれたでしょ?支えるだけでお礼言われるなんて、じゃあ、命を助けられたあたしは、どうお礼をすれば良いのかってのよ。・・・エッチな事でもすればいいの?」
そう言って、にひひと笑った。
健流は、そんな二人に苦笑して、
「いらねーよ。そんなつもりで助けたんじゃねーからな。助けたいから助けたんだ。」
それは、奇しくも、健流が尊敬する兄貴と同じ言葉だった。
そんな健流に、姫乃がすっきりした顔で、
「さて、仇討ちも人生の目標から外れたし、これからはお父さん達の願いが私の目標かな。もっともエデンは辞めないけどさ。私みたいのを出さない為にも辞められないわ。」
と言う。
健流は微笑んだ。
「幸せになるってのか?それは良い目標だな。」
「本当?じゃあ、健流にも手伝って貰わないとね。私が幸せになる為に。」
「俺が?まぁ良いけど、俺なんかが、なんか手伝えるのか?」
「何言ってるのよ。一番大事なのはあなたに掛かってるのよ?」
「一番大事なのは?なんだそれ?」
「それは・・・「ちょっと!ヒメノ!それはズルいでしょ!!だったらあたしだってそうよ!!健流!あたしと・・・」灯里!邪魔しないでよ!健流は私のなの!」
そう言って、また二人は口論を始めた。
そのタイミングで、応援の部隊が到着する。
しかし応援の部隊は、中の惨状と、言い合う二人を見て呆然としていた。
ギャーギャー言い合う二人の声を聞きながら、健流は、
「(は〜・・・やれやれ。この二人は仲が良いのか悪いのか・・・しかし、なんとか無事に終わって良かったぜ・・・にしても、応援の人がいるって事は、姐さんはどうなったんだ?)」
そんな風に思った。
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