第46話 不穏

 健流と姫乃、灯里の三人は待ち合わせをしてそれぞれ学校を出て、本部ビルに向かった。

 本部からの呼び出しがあったのだ。

 灯里も部活が休みだったので、同じく本部に向かっている。


「にしてもなんだろうね?急な呼び出しは、私初めてだな〜。」

「ああ、灯里はそうかもな。俺は数回あるからな。だが今回は・・・」

「ええ、ちょっとあまり良くない感じだったわね。クリミアさんの声が緊迫した感じだった。」


 姫乃がクリミアから電話を受けた時、明らかに焦りが感じられるものだった。

 その時に一緒にいた健流が違和感を感じる程のもの。


 本部に到着し、すぐにアンジェリカの執務室に向かう。


「やあ、三人とも来てくれたね。ちょっと困った事になってね。クリミア、説明を。」

「はい、実は、Aランクの前田さんが、敵組織と交戦中に、通信が途絶えました。」

「「!?」」

「!?(前田・・・ってあの姫乃にご執心だった先輩か・・・)」

「ですので、救援を向かわせたいのですが・・・相手はAランクの前田さんが手こずる程です。向かわせるとしたら、最高ランク・・・Sランクである姫乃さんレベルとなります。本来三人で向かって頂きたいところですが・・・このタイミングで他の任務も入りました。そちらはBランクの任務で、異能遺物の回収となります。」

「異能遺物・・・」


 異能遺物、それは、異能が付与された物や、オーパーツと呼ばれる物で、様々な事象を引き起こしたりする物である。


「どちらも戦闘が予想されます。そして、灯里さんは初任務となるため、一人では行動させられません。」

「となると・・・私が前田さんの救出、健流と灯里が遺物の回収となるわけですか?」

「その通りです。」

「他のSランクやAランクは?」

「現在、他の任務で遠方にいます。本来はもっと態勢を厚くして事に当たるべきですが、救出は一刻を争います。当初は、私が補助に就く予定でしたが・・・別のAランク任務も同時に発生してしまいました。私はそちらに行かなければ行けません。」

「・・・なるほど。仕方がありませんね。」


 クリミアと姫乃の話合いを聞いていると、灯里がくいくいと袖を引っ張ってきた。


「(なんだよ?)」

「(頼りにしてるからね)」

「(・・・ああ、任せとけ。っと言っても、俺も姫乃抜きでの任務は初めてなんだっけどな。」

「(あたしと健流ならきっと大丈夫。)」

「(・・・おう。そうだな。)」


 そんな風にこそこそと話す二人。

 しかし、そんな二人を目ざとく見つけた者がいた。

 アンジェリカだ。


「おやおや・・・仲が良いね二人共。今度二人で、泊りがけの任務に行ってみるかい?」

「え!?良いんですか!?」

「良いわけないでしょ!健流と一緒に泊まり任務をするのは私!!」


 堪らず叫びながら、健流と灯里の間に割って入る姫乃。

 勿論、物理的にだ。


「ちょっと!入って来ないでよ!」

「良いの!それより、長!健流の相棒は私なんですからね!私以外との二人で泊まり任務なんて絶対駄目ですからね!!許可しません!!」

「なんでヒメノの許可がいるのよ!」

「相棒だからよ!」

「おいおい・・・お前ら今から任務なんだぞ?もうちょっと緊張感をだな・・・」


 健流が苦笑しながらそう言うと、二人はキッと健流を見る。

 健流が思わずたじぐと、


「「健流はどっちと泊まるの!?」」


 と詰め寄った。


「(話が変わって来てるじゃねーか!)」


 そんな三人の様子を、にこやかに見ているアンジェリカと、苦笑しているクリミア。


「はいはい、三人とも青春してるのはわかったから、すぐに準備してくれるかな?残念ながら時間が無いんだよね。」

「「「誰のせいですか(だ)!!!」」」


 思わずつっこむ三人と、笑顔で見ているアンジェリカ。


「ほら、アンジェリカ様のからかいは、いつもの事でしょう?それよりも三人とも急いで下さい。時間がないのは本当ですから。」


 そうして、三人はすぐに準備を始めた。

 そんな三人が退出したのを見計らって、アンジェリカがクリミア呟く。


「・・・それにしてもタイミングが合いすぎてる・・・」

「アンジェリカ様?」

「もしかすると・・・いや、考えすぎか・・・私が出れれば良かったんだけど・・・」

「アンジェリカ様には、まもなく戻る『過去視』のレーアさんの対応をしていただかなければなりませんから。これで、スパイもわかるでしょうし。」

「・・・だね。すぐに対応が必要になるかもしれないし・・・場合によっては・・・」


 アンジェリカは危惧する。

 全て偶然で済ませて良いのかと。

 そして、それは的中する事になる。

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