閑話 気苦労 sideアンジェリカ
はぁ・・・。
廻里くんの異能の発芽、紛失した武器の行方、盗んだであろう犯人の特定、色々ある中で・・・今回は本当にひどい目にあった。
「アンジェリカ様。大丈夫ですか?」
「ああ、そう言うクリミアこそ。」
「・・・私も今は大丈夫でございます。ですが・・・正直生きた心地がしませんでした。」
「・・・それは私も同じだよ。」
あれほどの思いを味わったのは、初めてだったかもしれない。
感覚的には、異能力も格闘経験も無い者が、猛獣のいる小屋に入ってしまったという感じなのかもしれないね。
まさに、生きた心地がしない、だったよ。
「私も、組織の中では、姫乃さんに次ぐ実力を有していると思っておりましたが・・・はっきり言って、あの方々は桁違いでした。つくづく、最初に会って、敵対しそうになった時に、アンジェリカ様が止めてくれて良かったと思いましたよ。」
「それは、私も同じことだよ。数百年生きてきて、死の危険は何度も感じた事があったけれど、今回はとびきりだった。それに、彼の婚約者だという廻里くんの従姉妹も、あれほどの力を持っているとは思いもよらなかった。」
私は、廻里くんの組織参入に際して、ある人に会って、廻里くんを危険に晒した事を謝罪した。
その流れで、廻里くんの従姉妹とも会ったのだが・・・二人共に規格外だという事を思い知らされた。
あの二人だけでも、世界を滅ぼせるだろうなと思う程に、有している力は巨大なものだった。
何もかも放り出し、許しを請いたい、そんな思いにさせられたのは初めてだ。
つくづく、彼らが善良な者で良かったと思う。
「しかし、なんとか協力を得られる事が出来た。それも、最善の形でだ。正直ホッとしているよ。」
「ええ、そうですね。」
二人に、どう切り出そうかと思っていた、いざという時に助けて欲しいという願いは、向こうから大和くんと廻里くんの窮地の時には教えて欲しいという希望で、こちらからはお願いせずにすんだ。あれほどの力を持った存在に、図々しくお願いするのは気が引けるというものだ。
しかし、これでこちらはそんなに心配ない。
後は廻里くんの両親を説得するだけだ。
方針としては、大和くんと同じ様に、警備員という事にしておこうかな。
女子高生のするアルバイトでは無いかもしれないが、調べでは本人のやりたい事をやらせてあげるというスタンスらしいから、押し切ればなんとかなるだろう。
後は、盗まれた武器の行方と、盗んだ犯人の特定だけだ。
あの時、研究側の管理責任者である堺から聞いた所によると、無くなった武器は異能が封印される短剣・・・姫乃くんを傷つけた物だった。
そんな危険なものが無くなった、これだけでも腹が立つのに、あろうことか境は、押収品を含む保管庫に、自分がコネで入れた人間を割当て、対してチェックをしていなかったそうだ。
その上、そのコネで入れた人間は、聞き取り調査すらろくにせず、発覚後すぐに首にし、今は行方知れずになっているとの事であった。
これは、人の心を読み取る能力者に尋問させたから間違いがない。
今は、境は更迭し、牢に入れている。
この問題が解決するまでは、出す気は無い。
本当ならば、八つ裂きにしてやりたい気もするけど、それをして解決するものでは無い。
だから・・・するとすれば全てが解決した後だ。
・・・勿論しないが、責任は取って貰う必要がある。
そして、最後はここの記憶を抜き取り放逐する事になるだろう。
堺の話では、極秘裏に進める為に、記憶処理すらせずにコネ入社の人間を首にしたらしい。
幸いと言っていいのか・・・
しかしどうしたものか・・・
今、防犯カメラの映像を洗わせているが、気になるのは一日・・・防犯カメラの映像が途切れている時間がある日がある事だ。
その日は・・大和くんが初めて本部で訓練をした日。
一体誰が、なんの目的でやったのか・・・
とにかく、そのコネで入れたという人物を探し出し、聞き取りしなければいけない。
内通者が誰なのか・・・そこをはっきりさせ、対処しなければ。
こうなって来ると、サイコメトリー能力を持つ者が入ればいいけれど、今は長期任務で出払っている。
・・・神託で教えてくれないものか・・・いつも一方的だからなぁ・・・
ため息しか出て来ない・・・
サイコメトリー能力者が戻って来るまで後一ヶ月・・・それまでに何事も起きなければ良いが・・・
「なんだって?」
この日の夜、クリミアから連絡が来た。
なんでも、『牙』が消滅したらしい。
構成員はほぼ全滅で、再起不能。
建物は全壊。
死者も多数。
それを引き起こしたのは、考えなくてもわかる。
あの二人だろう。
・・・本当に敵にまわらなくて良かった・・・
prrrrrrrrr
携帯電話が鳴る。
・・・おそらくあの人だ。
律儀に結果を報告してくれるんだな・・・お礼を言うべきか、恐れるべきか・・・それが問題だ・・・
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アンジェリカ達に何があったのか、出逢いはどのようなものだったのか、は旧作である「勇者ではありませんただの迷子です」にあります。未読の方はよろしければどうぞ。
何があったのか、は後日の更新になるかもしれませんが。
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