閑話 闇に蠢く者side前田

 どうも俺が盗み出した短剣に、上層部が気づき、調査に乗り出しているらしい。


 幸い、馬鹿な管理責任者が、上層部に事実を隠蔽したらしく、発覚が遅れたようだ。

 そいつは、極秘裏に調査するよう女性研究員を割り当てていたので、別組織にさりげなく情報を流し、女を拉致させたのだが、それについては阻止されたらしい。

 忌々しい事に、あのガキも一枚噛んでいるようだ。


 今は、盗まれた当日・・・つまり、俺が停止させていた防犯カメラ映像の時間帯に、保管庫の担当をしていた奴を探しているようだ。


 くくく・・・もう遅い。

 そいつは、首になって放逐された後、俺が既に始末している。

 これで、俺が盗んだことは絶対にバレない。


 全ては、如月姫乃を手に入れるためだ。

 

 俺が初めて彼女を見た時の衝撃は、今でも忘れられない。


 当時、俺がこの組織に入り、慣れてきた頃の事だ。

 

 俺は、まだCランクだったが、俺の能力である『疾風』は強力な能力で、どんどん任務をこなし、順調に評価を上げていた。

 その当時、俺は増長していのだろう。


 とある任務で、下手を打ち、命の危機に陥った。

 

 ここで終わりかもしれない、そう考えた、そんな時だった。

 颯爽と現れた少女・・・アルテミス、そう呼ばれていた当時中学生だった彼女は、敵を圧倒し、またたく間に制圧してしまった。


 俺は高校生の歳だったが、彼女の存在感、中学生離れした容姿、戦慄を覚えるほどの実力、その全てに尊敬の念を覚えた。

 まさに女神のように思えたのだ。

 

 戦闘が終わった後、彼女に礼を言うと、


「任務ですから。それよりも、撤収しましょう。」


となんでも無いことのように言われた。


 俺は思ったのだ。

 彼女にとって、俺の窮地になるほどの状況は、大した事では無いのだと。


 俺は鮮烈に憧れた。

 隣に立ちたい、素直にそう思った。

 今はまだ、話しかけることすら烏滸おこがましい、そう考えた俺は、それ以降、努力を続け、任務をこなし、Aランクになる事が出来た。

 

 ここまで来れば、彼女と肩を並べて戦える。

 そう思っていた。

 Aランクになってからは、彼女に積極的に話しかけるようになった。

 

 だが、食事に誘うも、訓練に誘うも、色よい返事を貰えた事は無かった。

 まだ、信用が足りない、そう思って、いつかペアを組めるように努力した。


 彼女は基本無表情だが、時折辛そうな表情を見せることがあった。

 隣で助けてあげたい。

 公私ともに支えてあげたい。


 そんな風に考え、いつか心を開いてくれるだろうと考えていた。


 そんな時だった。

 あの、Dランク風情のガキが居たのは。


 あのガキの隣にいた彼女は、俺が今までに、見たことが無いような表情を浮かべ、楽しそうだった。

 信じられなかった。

 信じたくなかった。


 だから、彼女に思い直すよう言った。

 たかだかDランクの小僧はあなたにふさわしくないと。

 そんな奴を選ぶくらいなら、俺を選べと。


 しかし、返ってきた言葉は、痛烈な拒絶だった。

 何が彼女をあれほど怒らせたのかは今でもわからない。

 俺は正しかった筈だ・・・


 ショックだった。

 容姿も、ランクも明らかに俺が上なのに、俺には見せない表情を見せ、その上、相棒になっただと?


 許せない!

 許してはいけない!

 

 あのガキはいずれ始末するとして、まずは彼女を俺から離れられないようにしなければならない。

 おそらく、彼女はあのガキに騙されているはずだ。

 でなければ、全てにおいて勝っている俺が選ばれず、あのガキを選ぶ理由がない。

 あのガキは、もしかしたら、魅了などの能力者なのかもしれない。

 彼女を救わなければ・・・


 その為ならなんでもしよう。

 そう、組織を裏切ろうが、彼女を傷つけようが。


 いずれは俺が正しかったとわかってもらえる筈だから。


 仕込みはした。

 まもなく動き出すだろう。


 まずは・・・彼女を壊すことから始めよう。

 心より先に・・・その身体を頂く。


 最後は・・・全てを俺の物にしてやる。


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次回更新より、第4章です。

暴走する前田が何を引き起こすのか。

お楽しみ下さい。

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