第37話 暴漢撃退からのまさかの・・・ side灯里

 あたしはカラオケ店を出てから、一人で帰宅途中、人気の無い川べりを歩いていると、女性の叫び声が聞こえて来るのに気がついた。

 カラオケで会った健流達の事もあり、ちょっとモヤモヤしてたし、助けに入って相手をボコボコにするか、警察を呼ぶ位は出来るだろうと、颯爽と声がする方に近寄っていく。


 すると、黒ずくめの5人組が、スーツを着た女性を取り囲んでいるのを見つけた。


「何してるの!その人から離れなさい!警察を呼ぶわよ!」


 あたしがそう叫ぶと、黒ずくめの一人が、


「ちっガキか。面倒な事になった。おい!さっさと始末しろ。」


と、一人に指示を出した。


 舐められたものね・・・

 私は、部活用で持ち歩いていた、鍛錬用の木刀を、愛用の赤い刀袋から出し、構える。


「あたしをただの子供だと思った事、後悔させてあげる。」

「言ってろ。」


 そう言って、飛びかかって来る男。

 早い!?


 あたしは一足飛びで、間合いを外し、牽制で木刀を振る。

 当然、男は木刀を躱したけど、対して脅威に思っていないのか、すぐに利き手の逆方向に回り込むように接近してきた。


 こいつ・・・戦い慣れている!

 そして、急速に接近してくる男。

 

 でも、私だってその辺にいる剣術家では無い。

 ただ、早いだけなら対処できる。

 何せ・・・こいつはあの娘よりも弱い!


 私は脳裏に従姉妹の女の子を思い浮かべ、そのまま前に出る。


 急速に間合いが詰まり、すでに木刀では攻撃し辛い位、近い間合いとなっていた。

 

「馬鹿め!」


 男はそのまま木刀を掴もうと腕を伸ばしてきた。


「馬鹿はあんたよ!」


 私はその一瞬でバックステップし、男の伸ばした手に本気で小手を打つ。

 

「ぐっ!?」


 普通なら骨折していてもおかしくない威力なのに、男は一瞬動きを止めただけで、そのまま腕を伸ばしてきた。


 そう、それなら!

 

 私は、そのままもう一度突っ込み、男の腕を掻い潜りながら、胴抜きを放った。


「ぐふっ!ガキがぁ!」


 嘘!?まだ動けるの!?


 男が、そのまま反転して、腕を振るってきた。

 あたしは、その腕をギリギリで躱そうと・・・て、ナイフっ!?

 

「うわっ!?」


 あたしは、後ろに転ぶように後転してナイフを躱し、すぐに立ち上がる。


「ちょこまかと!」


 男はナイフで更に切りつけてくる。

 こいつ、普通じゃない!?

 まったく遠慮とか気後れとかが無い!?


 流石に、今までの人生で、真剣で切り合ったり、命の取り合いをした事は無い。

 若干、後ずさってしまうけど、気合を入れ直す。


 あたしは、廻里灯里!

 こんな所で、負けていられない!


「カァァァァァァァァ!!」


 大声を出して、丹田に力を溜める。

 

 そして、体を対応できるよう隅々まで気を張り巡らす。


虚仮威こけおどしを!」


 男がナイフを持ったまま突っ込んできた。

 落ち着け、相手は早いだけ。

 

「廻里流剣術 流転るてん!」


 男の突きを、木刀を縦にした状態でいなし、そのまま体を回転させ、遠心力を乗せた横薙ぎを、男の後頭部に食らわせる!


「がっ!?」


 直撃を受けている筈の男は、普通なら死んでいてもおかしくないのに、反撃しようとこちらを振り向く。

 

「まだよ!廻里流剣術 巌崩いわおくずし!」


 私は、木刀の峰に手を添え、押し上げるように男の顎を打ち、そのまま返す刀で頭に木刀を叩きつける。

 

「ぐっ・・・お・・・」


 男はようやく倒れた。

 しかし、その時には、仲間の男二人がこちらに向かって来ていた。


「くっ!?廻里流剣術 鎧通し!」


 男の一人に自ら突っ込み、カウンター気味に、突きを食らわせる。

 ベキベキッ!

 木刀を持つ手に、男の肋骨を砕く音が伝わってくる。

 次!

 あたしは、そのまま前方に転がるようにして、もう一人と距離を取り、すぐに体勢を立て直し、もう一度技を放った。


「廻里流剣術 旋風!」


 体を前に倒していき、顔が地面につきそうになった瞬間大きく一歩踏み出し、その勢いのまま、横薙ぎの一閃を放つ!


 男の胴に直撃・・・えっ!?木刀が折れた!?


 直撃を受けた男も倒れたけど、木刀が折れてしまった。

 そして・・・


「ぐぅ・・・」


 気づけば、後ろから首を絞められていた。


「・・・異能も持たず、恐ろしいガキだ。だが、これでお終いだな。・・・とはいえ、こいつは使えそうだ。攫って育てれば、良い強化兵になるかもしれん。・・・洗脳は必要かもしれんがな。さて・・・」


 ああ・・・駄目だ・・・苦しい・・・息が・・・吸えない・・・意識が・・・

 

 最後に、何か男が言っていたのは聞こえたけど・・・私は意識を失ってしまった・・・


 たす・・・け・・・て・・・

 ・・・馬・・・さ・・・ん  

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