第38話 敵の行方
二人が現場に駆けつけた時には、もぬけの殻だった。
「報告では、ここでエデンの研究員が攫われたらしいんだけど・・・その時に助けに入った一般の人も攫われたらしいの。」
姫乃がそんな事を言いながら、見分をしている。
健流が同じく辺りを確認していると、
「あら?これは何かしら?」
そこには、長い赤色の袋があった。
柄は、鳥のホトトギスが刺繍されている。
健流はそれを見て顔色を変えた。
「ちょっと貸してくれ!!」
「え、ええ。はい。」
受け取ってマジマジと見る健流。
その手は震え、そして・・・ぎゅっと握りしめる。
「灯里だ・・・」
「えっ!?」
「これは、刀袋だ!そして、ホトトギスが刺繍されているのは、廻里流の流派のもの・・・俺が知る限り、同じ高校で赤い刀袋はあいつしかいねぇ!」
「嘘っ!?」
「くそっ!早く助けねぇと!どこにいやがる!?無事ならいいんだが・・・くそぉ!!」
健流は歯を食いしばっている。
その表情は悔しげで、唇からは血が滴り落ちていた。
「・・・待って!灯里さんで間違いないのね!」
「ああ!」
「ちょっと待って・・・」
姫乃はすぐにどこかに電話をかけた。
「はい、私です。今から言う携帯番号の位置情報を調べて!至急よ!健流!灯里さんの番号教えて!」
「っ!!わかった!・・・番号は・・・」
そのまま少し待っていると、すぐに姫乃に反応があった。
「そこね!わかったわ!すぐにサポートスタッフに住所を送って!私達は現場に急行する!健流!行くわよ!」
「おう!許さねぇ!大暴れしてやる!!」
こうして、健流たちは、すぐに敵のアジトに向かう。
この判断は功を奏した。
もし、ここで、悠長に時間を浪費していたら、健流は一生自分を許せなかっただろう。
車は走る。
健流と姫乃を乗せて。
敵のアジトまで!
ここは、現場からそれほど離れていない、山中にある小屋の中だ。
「う・・・ん。」
「目が覚めたか。」
「ここは・・・って、あなた達!?あれ!?動けない!?」
「貴様のような凶暴な奴を、自由にさせるわけ無いだろう。既に、四肢は縛ってある。」
灯里は、周りを見ると、先程襲われていたスーツの女性も、縛られて、部屋の隅に転がされていた。
「・・・あたしをどうするつもり?」
「貴様は、一般人としては中々強いようだからな。洗脳して、兵士にしてやろうと思ってな。」
「洗脳ですって?そんな漫画やアニメみたいな事が出来るとでも思ってるの?」
「ああ、勿論だとも。機械を使っても良いし、能力を使っても良い。まぁ、今回は機械を使うんだがな。」
「・・・はぁ!?」
「世の中には、普通の人間が知り得ない物が
「何を言って・・・そうか!さっきの男たちね!?」
「そうだ。あれは強化兵と言ってな。機械や薬なんかを使って、人間の限界を超えさせているのだよ。」
「・・・虫唾が走るわね。」
忌々しそうに顔を歪める灯里。
しかし、そんな灯里を見て、男はニヤニヤと笑う。
「くくくく・・・」
「・・・何がおかしいのよ!」
「おかしいに決まっているだろ?お前もその仲間入りをするんだからな!」
「なんですって!?」
「喜べ!人を超えられるのだからな!」
「そんな事される位なら死んでやる!」
「ほう・・・出来るならして見ればいい。」
「冗談だと思っているようね!なら舌を噛んで・・・(あれ!?動けない!?)」
「動けぬだろう?俺のサイコキネシスで、体の自由を奪ったからな。」
その言葉に灯里は驚愕する。
「(サイコキネシス・・・って・・・SFみたいなので出てくる奴!?確か・・・念動力とかってのでしょ!?嘘!?そんな・・・本当に?・・・でも、体動かない・・・)」
「実感したか?世の中には普通では知らぬ事は沢山あるのだよ。さて、もう少ししたら、機械の準備も仕上がる。あと少し待て。もっとも、洗脳が完了したら、二度とお前の意識は浮上しないがな。」
灯里はその言葉に絶望する。
「(嘘でしょ・・・そんなのって無いよ・・・まだ、したい事沢山あるのに・・・まだ、好きな人に気持ちを受け取って貰ってないのに・・・あの娘にも勝ってないのに・・・健流とカラオケ・・・行ってないのに・・・)」
灯里の目からはポロポロと涙が溢れた。
男はそれを見て、顔を歪める。
「・・・ようやく絶望したか。正義感など持ち合わせるからそのような事になるのだ。くだらん。いいか?この世にヒーローなどおらん。正義など詭弁だ。全てが全て、己の言い分を正当化したに過ぎん。真の善人などこの世にはいないのだ。」
男の言葉が灯里の中に入ってくる。
しかし、それは灯里にとっては劇物だった。
「(・・・そんな事無い!少なくとも、あたしは一人知っている!ヒーローを知ってる!それに・・・あの人の弟分の健流だってそうだ!あいつ、弱かったのに頑張って強くなってた!腐ってたけど頑張ってまともになってたんだ!あいつが優しいのは私も知ってる!こそこそ人助けしてたのも知ってる!あの人や健流こそ善人でヒーローだ!だから・・・だからあたしも強くなろうって頑張ってるんだ!こんな奴に否定させない!)」
灯里の胸に火が灯る。
しかし、その火が燃え盛る前に、
「さて、準備が出来たようだ。これで君とはお別れだな。目を覚ました時には、洗脳が完了し、従順な戦士の出来上がりだ。・・・そうだな。まずは、従順になったかどうか試すために、貴様の身体を味わってみるか。なに、ここにいるのは30人程だ。一昼夜もあれば終わるだろう。」
そう言って、灯里の頭に何かを被せる。
「(やだ!嫌だ!そんなの嫌だ!!助けて!あたしそんなのイヤぁ!!」
身体が動かせず、涙が流れるまま固まっている灯里。
「それでは、良い夢を。」
「(助けて!健流!)」
ドゴーンッ!!!!
「っ!?なんだ!?」
突然の爆発音。
そして・・・
バーンッ!
ドアが蹴り飛ばされる!
そして・・・
「灯里!無事か!!」
健流が飛び込んで来た。
そして、健流は涙を流しながら、何か妙な物を頭に被せられて、何かをされようとしている灯里を見た。
健流の表情が鬼のように歪む。
そこには・・・
「てめぇら・・・ぶっ殺してやる!!」
怒りに燃える健流がいた。
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