第36話 放課後の息抜き、そして乱入者(3)

「灯里?」


 そこにいたのは、廻里灯里だった。

 

「あんたがこんな所に来てるなんて思わなかったわ。ヒカリと二人で来たの?」

「いや、違う。俺と黒瀬、それから瀬川と姫乃の4人だ。」


 そう答えた健流。

 しかし、灯里はそれを聞くと、眉毛をピクリと動かした。


「ふ〜ん・・・ヒメノがいるんだ・・・じゃあ、あたしもそっちに行く!」


 そして、健流の予想外の返答をする。


「待て待て!なんでお前がこっちに来るんだよ!お前も連れと来てるんじゃねーのか!?」

「部活の付き合いで来ただけよ。練習試合の打ち上げね。でも、もうすぐ終わりだから関係ないわ。」

「いや、あるだろ!大体、料金を4人で払ってるんだから、入れねーぞ!」

「何よ!みみっちいわね!」

「そういう問題じゃねぇ!」

「ちょ、ちょっと!大和も灯里ちゃんも声が大きいよ!お店の迷惑になっちゃう!」


 黒瀬が、そんな二人に泡を食って止めると、二人はバツが悪そうにして言い争いを止めた。


「・・・仕方がないわね。ヒカリに免じて今日は引いてやるわ。」

「何目線だよそれは・・・」

「今度、私にもカラオケ付き合いなさいよ!私の美声を披露してやるわ!」

「なんで付き合う前提になってんだ?俺誘うくらいなら、兄貴か姐さんを誘えっての・・・まぁそのうち機会があったらな。」

「よし!ヒカリもそのうち行こうね!」

「あ、うん・・・」


 そうして、灯里は自分たちの部屋に帰って行った。


「・・・なんか、灯里ちゃん凄いね・・・」

「あいつは、勢いと反射で生きてるからな。」

「・・・よく知ってるんだね。」

「まぁ・・・付き合いはそこそこ長いからなぁ・・・こっちは迷惑なんだが。」


 ぼりぼりと頭をかく健流。

 

「(やっぱり、こんなんじゃ駄目だ!もっと積極的に行かないと!)ねぇ!大和!私達もそこそこ長く一緒にいるじゃない?」

「ん?おお、まあそうだな。高校入ってからの仲だからな。もう一年越えか・・・」

「だからね、如月さんや、灯里ちゃんが名前呼びなら、私も名前呼びで良いと思うんだ!」

「ん?なんでそうなるんだ?」

「だって、なんか私だけ名字呼びだから、疎外感を感じるんだもん!良いでしょ!」

「・・・まぁ・・・そうか・・・そうかもな。うん、良いぞ。」

「よし!じゃあ、呼んでみて!」

「・・・光。これで良いか?」

「うん!あたしも健流って呼ぶね!」

「まぁ・・・好きにしたらいいさ。」

「よろしくね!健流!」

「ああ、よろしくな光。」


 そう言って笑顔で名前を呼ぶ光。

 健流は、そんな光に笑顔で答えた後、


「(黒瀬を名前呼びするんなら、瀬川も名前で呼ぶかな・・・)」


 と、イマイチ女心がわかっていないことを考えるのだった。

 

 二人が部屋に戻ると、笑顔の姫乃と、難しい顔をした瀬川がいた。


「(ん?なんで姫乃はあんなに冷たい笑顔をしてるんだ?それに瀬川の顔も硬い・・・何かあったのか?)」


 健流はすぐに二人の異変に気づいたが、瀬川は二人を見て顔を笑顔に戻す。


「お!戻ったか二人共!喉乾いてたから早く飲み物くれよ!」

「あ、ああ。はいよ。」

「サンキュー!」

「そうだ、瀬川ちょっと良いか?」

「ん?なんだ?」

「さっき光にな、」


 ピクッ

 健流がそう言った瞬間に、姫乃の眉が動く。

 しかし、健流は気づかない。


「付き合い長いんだし、そろそろ名前呼びでどうかって言われたんだ。お前の事も、名前で呼んでいいいか?」


 瀬川は、光の顔を一瞬見て、苦笑しながら、もう一度健流を見た。


「・・・ああ、いいぞ!じゃあ俺も健流って呼ぶよ。」

「それだけじゃないだろ?光の事も名前で呼んでやれよ。」

「・・・あ〜・・・光。」


 そう言って、ちらりと光を見る瀬川改め、みつる


「うん・・・よろしく・・・充。」


 こうして、光が一歩踏み出した事は、思わぬところで充にも利益が出たのだった。


「(姫乃は乗って来ないか・・・徹底してんなぁ・・・)」


 健流はちらりと姫乃を見たが、何食わぬ顔して、”関係ありません”とばかりに飲み物を飲んでいる姫乃。

 しかし、その内心まではわかっていなかった。


「(何よ健流!付き合いが長ければ良いってもんじゃないのに!いつの間にか名前呼びなんて嫌らしい!)」


 完全に自分は棚上げだった。

 このとばっちりは、二人になった時に健流に訪れる、筈だった。



 その後は普通にカラオケを終え、帰宅する4人。

 家の方向が同じであるとして、光と充と別れ帰路に着く健流と姫乃。

 どことなくピリピリした姫乃に、ビクビクしている健流は、どうやって機嫌を取るのか考えていた。


 そんな時、突然姫乃の携帯電話が鳴る。

 

「はい。・・・えっ!?・・・場所は!?・・・わかりました!すぐに向かいます!」


 そして、携帯を切る。

 すぐに、健流に振り向く姫乃。

 その表情は硬い。


「健流、任務よ!近くで一般人が能力者に攫われたみたい!私達と同じ制服を来た女の子だって!」

「なんだと!?助けに行かねーと!」

「ええ、今から、すぐに向かうわ!途中で、サポートスタッフが戦闘用スーツを持って車で待機してるから、そこで着替えて直行するわよ!」

「ああ、わかった!」


 健流達は走り出す。

 これが、新たな状況の幕開けになるとは気づかずに・・・

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