閑話 目が覚めて

「・・・なんでこうなった?」


 健流が目を覚ますと、胸にすがりつくように姫乃が寝ていた。

 そんな状況に健流は固まってしまう。


「・・・起こした方が良い・・・よな?」


 いざ、起こそうとするも、姫乃の気持ち良さそうに寝ている状況を見ると、つい起こすのをためらってしまう。

 そんな事が続いていた。

 だからと言って、起こさずに抜け出すことも出来ない。

 何せ、健流の腕はまだ、

 この腕は姫乃に抱きしめられていた筈なのに、気づけば枕にされている・・・健流は混乱した。

 依然、体に感じる柔らかい感触や、匂いのせいで、悶々とする健流。

 

 どうすることも出来ずに、固まっていると、ついに姫乃が目を覚ます。

 目が合う二人。


「・・・なんで健流が一緒に寝てるの?」


 目を半眼にして健流に問いただす姫乃。

 

「い、いや・・・その・・・だな・・・」

「なんか抱きしめられてるし・・・襲った?」

「ち、違う!違うんだ!俺は何も・・・」


 焦って、オロオロしながらそれを否定する健流。


「・・・まだ離さないし。」

「はっ!?す、すまん!・・・ってうわっ!?」


 バッと離れて下がった健流。

 そのままベッドから落ちてひっくり返ってしまった。

 すぐに起き上がり、誤解を解こうと必死の表情で口を開きかけた所に、


「ぷっ!あはははははは!」


 姫乃の笑い声が響いた。


「・・・はっ?」


 健流は困惑する。


「あはははっ!良いわよ言い訳しなくても。私が間違えて潜り込んだんでしょ?気づいてたわ。」


 ネタバラシをすると、健流はからかわれていた事に気づき、ムスッとした。


「・・・んだよ。気づいてたんならからかうなよ。離れれば良かったのに・・・」

「だって、私が目を覚ました時に、健流が私を思いっきり抱きしめてたんだもの。離れる事が出来なくて、諦めてそのまま寝たわ。」

「起こせよ!」

「何か良い夢見ているみたいだったからね。可哀想だから起こさないであげたわ。」

「・・・俺、なんか寝言、言ってたか?」

「そうね。なんかはぁはぁ言いながら下半身をこすりつけてきたわ。女性の名前も言ってたわね。」

「起こせよ!?マジか!?嘘だろ!?」


 姫乃の言葉に絶望する健流。

 そんな健流を見て、姫乃は、


「あはははは!ウソウソ!本当は何も言ってないし、そんな事してないわよ。」

「・・・勘弁してくれよ・・・トラウマもんだぞそんなの・・・」

「ごめんごめん!許して!ね?」


 俯いてホッとしている健流の顔を、下から覗き込みながらそう言う姫乃。

 

「(・・・は〜・・・駄目だ。どうしても許しちまう・・・ホントなんでなんだか・・・)」


 健流は、怒りたいのに怒りが霧散してしまい、怒るに怒れない。

 おそらく、姫乃は、健流にとって天敵なのだ。


「・・・これからは勘弁してくれよ?その手の冗談は。」


 ため息と共にそう言う健流。

 しかし、姫乃は、笑顔で止めを刺す。


「それはできない相談ね。」

「なんでだよ!」

「私が楽しいかから!」

「・・・ホント勘弁してくれ・・・」


 そんな一幕を残し、二人は帰宅の準備をする。

 ホテルのフロントで、チェックアウトし、エントランスから出る二人。


 そして、エデンの迎えの車に乗り込み、出発するのだった。


 


 ・・・しかし、そんな二人をじっと見つめる者がいた。


「・・・なんでここにあの二人が…まさか・・・泊まったの!?嘘!?」


 これが後の騒動に繋がるのだが、それはまた別の話。



 二人を乗せた車は、本部ビルに到着する。

 そのまま、報告の為に、アンジェリカの執務室に移動する二人。


 ノックをした後、入室する。


「やあ、報告は受けている。ご苦労さま。」


 室内には、アンジェリカとクリミアが居た。


「長、聞きたいことがあります。」

「なんだい?」


 憤慨する姫乃に、普通に答えるアンジェリカ。


「何故、健流と私が同じ部屋だったのですか!」

「なんだ、そんな事か。決まってるじゃないか。初任務で緊張している大和くんへのねぎらいさ。」

「・・・正気か!?余計緊張するわ!!」


 まさかの答えに、思わず口出しする健流。


「ん?でも、ちゃんといい方向に進んでいるじゃないか。流石『神託』だね。」


 勿論、そんな神託は受けていない。

 面白がったアンジェリカの独断だ。

 だが、健流達にはそんな事はわからない。


「・・・う〜・・・神託なら・・・仕方がない・・・ですね。」

「ええっ!?お前それで納得しちゃうの!?」

「だってしょうがないじゃない!この組織は神託に沿って作られたのよ?それを否定したら、組織を否定するのと同義だもん!」

「・・・マジか・・・」


 渋々と鉾を収める姫乃と、驚愕する健流、そして、内心ニヤニヤしているアンジェリカ。

 クリミアはその事を知っており、長のイタズラにため息をついた。


「そうそう、これからも任務の時は同部屋だからね。」

「ええ!?」

「いやっ、それはどうなんだ!?」

「一応、出来れば避妊はしっかりとしといて。まだ子供作られたら困るから。」

「「そんな事しません!!(しねぇ!!)」」


 そうして、健流の初任務は、本当に終わりを迎えるのだった。

 めでたしめでだし。



*****************************

次話から第三章です。

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