閑話 戸惑いと心地よいまどろみの朝 side姫乃

 陽の光が差し込み、明るさに目を覚ます。

 私の目覚めは快調とは言わないまでも、比較的良いほうだと思う。

 まどろみの中で、とても暖かいぬくもりに包まれている。

 凄く安心して寝られた気がする・・・何故かしら?


 目を開けて見ると・・・目の前に健流の寝顔があった。

 健流の寝顔!?

 なんで!?


 よく見てみると、私は健流に抱きかかえられて寝ていた。

 どういう事!?

 まさか私のベッドに侵入したの!?


 しかし、ふと気づく。

 ・・・このベッド、窓際だ。

 という事は・・・私が健流のベッドに侵入したってこと!?

 それに、明らかに私は健流の腕を抱え込んでいる。

 

 パニックになっていると、段々と昨夜の事を思い出してきた。

 夜中にトイレに起きて、それから・・・ふと見ると、寝ている健流が目に入った。

 それで・・・抱き枕がいる、と思って・・・ベッドに入っちゃったんだ!


 なんてはしたない・・・付き合ってるわけでもないのに・・・

 もう一度健流の寝顔を見る。

 落ち着く・・・なんでだろう?

 ・・・服の乱れは無い、か。

 てことは、何も無かったわね。

 

 昨夜は色々やらかした。

 健流をからかおうと思って、バスタオルでイタズラしてみると、転んで下着を見られたり、今まさにこの状況もそうだ。

 でも・・・今まで生きてきて、人をからかおうと思った事は無かった。

 なんでだろう?

 健流の近くにいるとかまってしまう。

 私は仇討かたきうちに生きてきたはずなのに・・・健流がいると、それが薄れてしまう。

 

 本当は、わかっているのだ。

 多分、私の両親は、私が仇討ちをするのなんて望んでいない。

 でも、私にはそれしか無かった。

 だから、その為に生きてきた。


 今まで私に言い寄ってくる人間は沢山いた。

 目的は、能力だったり、私の容姿だったりしたけれど、何も心に響かなかった。

 私を心配して、仇討ちに生きようとする私を諭したり、忠告してくれる人も何人もいた。

 でも、生き方を変えようなんて思わなかった。


 もう一度健流を見る。


 何も聞かずに、寄り添おうとしてくれる人。

 命をかけて助けようとしてくれる人。

 ・・・私に笑顔でいて欲しいと言う人。


 そんな人は初めてだった。


 私は、健流の事をどう思っているのだろうか・・・

 

 恋愛をした事がない私には、人を好きになるという気持ちが、よくわからない。

 だから、健流に抱くこの気持ちが、それに結びついているどうかもわからない。


 でも、私は健流に、私の側から居なくなって欲しくない。

 一緒に居て欲しい。

 そんな思いから、当初に取り決めた、学校での付き合い方も、私から変更してしまった・・・

 健流は悩みながらも笑って受け入れてくれたけど。

 やっぱり、健流は優しいと思う。


「ふふふ・・・私があんたの事で悩んでるなんて、あんたは知らないんだろうなぁ。」


 健流の頬をツンツンとついてみる。


「・・・ん〜・・・」


 健流は、むにゃむにゃとしながら眉を寄せた。

 ・・・可愛い。


 ま、いっか。

 自分の気持ちがよくわからなくても、健流は、今は一緒にいてくれるんだし。

 そのうちわかるでしょ。


 でも・・・もし、この気持ちが恋愛のそれだったとしたら・・・私はどうしたらいいんだろう?

 神託にあったとはいえ、殺伐とした世界に引きずり込んでしまった。

 こんな私が、そんな気持ちを持っていいのだろうか?

 

 わからない・・・

 少し落ち込んでしまう。

 

 そんな時だった。

 

 ぎゅっ


「ふぁっ・・・」


 突然の事に思わず声が出る。

 健流の抱きしめる力が強くなった。

 まさか起きてる!?


 そろそろと健流の顔を伺うと、健流はまだ寝息を立てて寝ていた。

 なんだ・・・

 そんな風にホッとしていると、


「・・・お前は・・・俺が・・・守る・・・姫乃・・・笑って・・・いろ。」


 健流のそんな寝言が聞こえてきた。

 ・・・ずるい。

 でも、とても嬉しい。


 良いや!

 悩んでも仕方がない!

 成るように成る!


 今は、この暖かい心に包まれていよう。

 私は、抱えていた腕を離して、持ち上げて枕にして、健流の胸に顔を擦り寄せる。

 

 もうちょっと寝ようかな。

 うふふ・・・起きたら健流は私に気づいて、どんな顔するんだろう?

 焦るかな?それとも平然としてる?

 今から楽しみだ。

 思いっきりからかってやろうっと!

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