第22話 嵐の後

 今、健流は不機嫌な姫乃の相手をしていた。

 灯里が去った後、黒瀬の相手をして、なんとか宥め、放課後を迎えた。

 

 教室を出て、本部ビルに向かう。

 すると、途中に姫乃が待っていたのだ・・・不機嫌そうな顔をした。


「・・・随分と仲がよろしいのね。」

「・・・いや、だから、あいつとはそんな色っぽい仲じゃ無いんだって!」

「どうだか。」

「ホントだっての!お前も見てたろ!?」

「だから言ってるのよ。」

「なんでだよ!喧嘩しかしてねーじゃねーか!」

「喧嘩するほどって言うでしょ?」

「だから、違うっての!」


 そんな言い合いをしながら本社ビルに入る。

 すると、そんな二人を見つけた、エレン博士が近づいて来た。


「なんだい?痴話喧嘩かい?喧嘩するほどって奴かな?」

「「違う!!」」

「お〜こわっ。それよりお二人さん。周りを見てご覧?」


 その言葉に、周囲を見回す二人。

 すると、そこには、珍しいものを見た、という表情で、職員達が、姫乃達を見ていた。

 すぐに、二人はハッとなって距離を取る。


「と、言うわけで、言い争いはその辺にして、二人共、長の所に行ってくれるかな?」


 エレン博士に窘められた後、長の居る最上階に向かう二人。

 その表情は、気まずそうにだった。


「・・・すまん。ちょっと周りが見えて無かった。」


 その空気に耐えられず、健流が先に謝る。


「・・・私もちょっとムキになりすぎたわ。ごめん。」

「いいよ。俺が悪かった。でも、本当にあいつとは、そんな関係じゃないんだ。」


 そう言って、長の部屋の前で、足を止め、姫乃に向き直る健流。

 姫乃は上目使いで健流の顔色を伺う。


「・・・ホント?」


「(くっ!?あざとい!)・・・ああ、本当だ。」

「わかった・・・信じる。」


 そう言って、表情を穏やかにする姫乃。

 健流はそれを見てホッとする。


「・・・終わっちゃった?」

「「(ビクッ)」」


 声がする方を見ると、長の部屋のドアの隙間から、赤い瞳が見えている。

 

「・・・エレンから連絡が来て、2人が面白い事になってるって聞いたから、見てた。」

「(マジか!博士め!!)」

「(あの愉快犯!!)」


 健流達は憤慨した。

 しかし、ぶつけるべき相手はここにはいない。


 すごすごと部屋に入る。

 席に座り、アンジェリカの話しを聞く。


「・・・という訳で、今度の週末に、2人で任務について欲しいんだ。」

「わかりました。」

「(任務・・・か。ついに・・・って週末?)」

「一泊2日で、三重県まで行って貰う。手荷物は、着替えくらいで良い。」

「了解です。」

「対象は、四日市の、とある廃工場に隠れている。奴らがテロを起こす前に、始末をつけて欲しい。」

「(テロか・・・気合入れねぇとな。)」

「今回の標的は、『爆発』を使うみたいだ。テロにはうってつけの能力だね。」

「能力までわかってるのか・・・」

「まぁ、うちの諜報は優秀だからね。と言っても、戦闘能力は低いから、排除までは出来ないんだけどね。」

「一つ質問があるわ。」

「何かな?」

「その任務、何故私達なのでしょう?それなら、Bランクでも良さそうなのですが・・・」

「ん?そりゃ大和くんの箔付けに決まってるじゃないか。聞いたよ?前田と揉めたんだって?」

「・・・知ってたのか。」

「そりゃ、こう見えてもここの長だからね。情報は入ってくるよ。」

「・・・なるほど。」

「またそういう事があっても困るからね。手っ取り早く実績を積ませることにしたのさ。」


 アンジェリカはそう言ってため息をついた。


「そうか・・・俺のために・・・」

「ああ、勿論それだけじゃないさ。君が舐められない事は、私達のためにもなるのさ。」

「・・・そういうもんなのか?」

「そういうもんだよ。」

「・・・そういえば、俺のランクって今なんなんだ?」

「ああ、今はDランクにしてある。」

「そうか。」

「一気にあげても、コネだとか言われるのは目に見えてるからね。」

「それもそうか。」

「それじゃよろしく。今日は帰って良いよ。週末までに大和くんは、強化の異能をある程度自由に使えるようにしといてね。」

「おう。わかった。」

「それじゃ解散。」


 姫乃と2人で部屋を出る。

 

 緊張しているのか、無言になっている健流の背中を、姫乃がバンっと叩く。


「安心しなさい!私が一緒なんだから。」


 そう言ってウィンクをする姫乃。

 健流はそれを見ながらホッとした。


「・・・そうだな。お前が一緒なんだもんな。よし!頑張るとするか!」

「その粋よ!まずは強化をもう少しスムーズに発動出来るようにしましょう。」

「おう!ちょっと訓練室に行ってもいいか?」

「ええ。行きましょう!」


 そうして、任務がある週末まで、放課後に姫乃と特訓することになる。

 

 ・・・黒瀬や灯里に文句を言われながら。


 そして、当日を迎えた。

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