第21話 学校での一幕

「でさ〜!今日は放課後暇なの?」


 今日も今日とて黒瀬が健流に詰め寄っている。

 今は昼食だ。

 

「あ〜・・・今日はだな・・・」


 健流はちらりと姫乃を見た。

 姫乃は健流にだけわかるよう2回ウィンクする。


「・・・バイトだ。すまん。」

「え〜!?今日も〜!?」

「・・・すまん。」


 健流はバツの悪い顔をした。

 昨日、ラーメンを食べ終えた後、帰宅するまでに姫乃と健流は二人で分かる合図を決めた。

 ウィンク1回で肯定、2回は否定だ。

 今回の様な場合、2回は、『断れ』という合図だ。


「いつになったら良いのよ〜!前はそんなバイト入れないって言ってなかった?」

「あ〜・・・バイト変えたんだよ、俺。」

「えっ!?もう!?」

「前のバイトは、あんまり高校生向けじゃなかったからな。(今もそうだが・・・)」


 実際に、健流はバーテンダーのバイトは既に辞めている。

 事情は、高校生としてふさわしく無いという事にして。


「だったらいつなら良いのよ〜!」


 黒瀬が唇を尖らせる。

 

「それはだな・・・」


 健流が、頭をガリガリ掻きながら、どう言い訳するか考えていると、嵐はやってきた。


「あっ!!いた〜!!健流!!」


 それは、健流を指差した、黒髪の小柄な美少女だった。


「「っ!?」」


 姫乃はそれを聞いて、口に食事を運ぼうとした状態で固まった。

 そして、それは黒瀬も同じだ。

 特に黒瀬は驚いていた。

 いきなり美少女が、健流を呼び捨てで呼んだのだ。


「おい!あれって・・・」

「E組の転校生の廻里さんじゃないの?天才剣道少女の!」

「たけるって・・・大和の事か!?どんな関係なんだ!?」


 周りがざわついている。

 

 その少女はズンズンと健流の所に歩いてくる。

 

「(うわっ・・・面倒くさい奴が来やがった・・・というか、あいつ他の学校の筈なのに、なんでここにいやがる!?)」


 健流が内心そう思ってため息をついていると、その少女はすぐ直近までやってきた。


「あんた、最近道場に顔出さないじゃない!それに、一緒の学校になったんなら挨拶ぐらい来なさいよ!」

「・・・相変わらずだなお前は。お前のクラスなんか知らないぞ。というかどうしてここにいるんだ?別の学校だったろ?」

「今年の春に転校して来たのよ!それに、そんなにすぐに性格が変わるわけないでしょ!それよりもなんで道場来ないのよ!」

「・・・色々忙しいんだよ。」

「ふん!そんな事言って、どうせ怒らせたんでしょ!あのをさ。」

「違う違う。あねさん怒らせるなんてとんでもない!」

「本当かしら・・・じゃあなんで来ないのよ。」

「ちょっとバイトが忙しくてな。」

「ふ〜ん・・・そう。まぁいいわ!あんたが来ないなら、私はあの人を一人締め出来るし!」

「・・・そりゃ無理だろ。そんな事したら、姐さんと喧嘩になるだけじゃないか。」

「うっさい!というかなんか知らないけど、異様に強くなってるのよね、あの娘!」

「姐さんが強いのはいつもの事だろう?」

「そういう次元じゃ無いのよ!勝機がまったく見えない位強いのよ!」

「ほ〜・・・(こいつがそう言うなんて・・・姐さん、異能でも目覚めたのか?)」

「・・・それよりも、何よその喋り方は。なんで変えてるのよ。」

「・・・色々事情があるんだよ。」

「何それ。」


 そんな事を話している時だった。

 黒瀬が硬直から解け、少女に噛み付いた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!あ、あなた大和とどういう関係!?」

「ん?あなた誰?」

「こっちのセリフだから!!どういう関係なの!?」


 このセリフはクラス全員が頷いた。 

 勿論、姫乃もだ。

 他のクラスメイトよりも聞き耳立てている位だ。


「私?私は廻里灯里めぐりあかりよ!よろしく!」

「私は、黒瀬光くろせひかり、よろしく・・・ってそうじゃない!だから関係は!?」

「関係・・・て言われてもなぁ・・・同じ剣術道場に通ってるとしか・・・あ!友達!」


 この灯里のセリフに、健流は苦々しい顔をする。


「(こいつ・・・なんて白々しい・・・下僕くらいにしか思ってない癖に!)」

 

 そう思っていると、一緒に昼食をとっていた瀬川が口を出す。


「あれ?でも、大和が剣道やってるなんて初めて聞いたぞ?」

「あんたは?健流の友達?」

「おう!大和の友達の瀬川充せがわみつるだ!よろしく!!」

「よろしく!健流は剣術じゃなくて、武術を習ってるのよ。教えているのは・・・」

「瀬川は引っ込んでて!それで、廻里さん!」

「灯里で良いわよ。」

「私も光で良いわ!じゃなくて灯里さん!その・・・なんで大和を健流呼びなの!?付き合ってる・・・とか!?」

「えっ?こいつと?あはは!無い無い!!」

「・・・じゃあなんで?」

「私の好きな人と従姉妹の、弟分だからよ。その人達がこいつを名前で呼ぶから、私もそう呼んでるだけ。」

「そうなんだ・・・」


 黒瀬はホッとして胸を押さえている。

 少し離れた所で、同じ様に姫乃も胸を押さえ・・・その後、首を傾げた。

 何故、自分がホッとしたのか分からずに。


「んで、お前、要件それだけか?」

「ん?そうだけど?」

「はぁ〜・・・痛て!」

「何よ!健流の癖に生意気だわ!」


 ため息をついて呆れた表情をしたら、何故か頭を小突かれる健流。

 

「いて〜な!」

「意味分かんない喋り方してるからよ。」

「ウソつけてめぇ!」

「そうそう、それよそれ。普通で良いのよ普通で。」

「普通だったじゃねーか!」

「おっ!いい感じじゃない!」

「だから何目線だっつーの!まったく・・・そりゃ兄貴もなびかねーわ。」

「なんだと!戦争だぞ!この野郎!」

「ああ!?やってやんよこの色気無し女!」

「よく言ったわ!このヤンキー崩れ!またけちょんけちょんにしてやるわ!」

「やれるもんならやってみやがれ!俺が前と同じと思ってんじゃねーぞ!」


 健流と灯里の言い争いを見て、目を丸くしている黒瀬と瀬川。

 そんな感じで睨み合っていると、


「いい加減にしなさいあなた達。ここは教室ですよ?」


 姫乃が割って入って来た。

 それを見て、健流はバツの悪そうな表情に戻った。


「・・・ひめ・・・如月・・・」

「誰?」

「私は如月姫乃って言います。よろしく廻里さん。」


 そんな姫乃を見て、ピクリと眉を動かす灯里。

 だが、すぐに、


「・・・灯里で良いわ姫乃さん。」


 と、灯里は姫乃に手を差し出した。


「・・・ええ、よろしく灯里さん。」


 そして、同じく手を差し出した姫乃と、握手をした瞬間、耳元に口を寄せた。


「ボソッ(あなた・・・強いわね。)」

「っ!?ボソッ(あなたもね。)」


 驚愕する姫乃。

 外見からは、姫乃の強さはわからない、わからないよう演技をしていた。

 見破られたのは初めてだった。


「おもしろそう。これからも遊びにくるわ!よろしくね!」


 こうして嵐は去っていった。

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