閑話 健流が目覚めて side姫乃

 私は入浴を終え、ベッドに入る。

 昨日は椅子で寝てしまい、今日はしっかりと寝たかった。

 ベッドに入ると、今日の事が浮かんでくる。

 

「あいつも、そろそろ寝てるかな・・・」


 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 大和が目を覚ました。

 大和の声が聞こえた気がして、目を覚ますと、起きてる彼がいた。

 私は、大和が心配で、思わず詰め寄ってしまった。


『あの・・・如月さん?ちょっと・・・距離が近い気が・・・それに、大和って・・・』

『っ!?』


 しまった!

 つい、心の中で呼んでいた『大和』って言うのが出てしまった。

 私は、勢いに任せ、よくわからない言い訳をしてしまった。

 すると、彼は、


『ぐっ・・・わかったよ。呼び捨てでも、君呼びでも、名前でも、好きに呼べ。』


と言ってくれた。

 名前で呼んでいいの!?

 何故かテンションが上がった私は、名前の呼び捨てを認めさせた。

 そして、私も名前を呼び捨てで呼ばせる事にした。

 じゃないと公平じゃないから!


 でも、まさか私の名前を覚えていなかったとは思わなかった。

 腹が立つ・・・こっちはこんなに気にしてるって言うのに!!

 

 でも、


『・・・わかったよ・・・姫乃。』


 そう呼ばれた瞬間、自分でもよくわからないくらい幸せな気分になった。

 何故、名前で呼ばれただけで、こんなに幸せな気分になるのか・・・私にはわからない。

 焦りと、照れ臭さなんかが入り混じった、よくわからない感情。

 しかし、それはその後、私の挙動不審を体調が悪いのと勘違いした彼が、本気で心配しているのを見て、落ちついた。

 なんて安心させる顔をするんだろう・・・


 それも、長が来た事によってまたかき乱された。

 長は、健流に異能組織エデンの説明を始めた。

 その説明の中で、健流は、


『・・・そんな危険な事を姫乃にやらせてるのか?もし、無理やりやらせてるんなら、例え治療してくれた恩人でも・・・』


 健流が私の為に怒ってくれた。

 気持ちは嬉しいが、私にも目的がある。

 それに、エデンは悪い組織では無い。

 怒れる気持ち半分、嬉しい気持ち半分で說明し、健流にわかってもらった。

 

 すると、健流は、しっかりと頭を下げて謝罪した。

 やっぱり彼は真っ直ぐだ。

 その真っ直ぐさに驚いてしまった。

 

 そしていよいよ彼の勧誘が始まった。

 私は、思わず長を止めようとしてしまった。

 ・・・やっぱり、まだ気持ちの整理はついていないみたい。


 長の説明と条件について聞き入る健流。

 しかし、即決はしなかった。

 

 彼と二人きりになった。

 私は、やっぱり優しい彼に、入って欲しくないと思い、止めようとした。

 しかし、健流は、私を手伝う為に入ると言ってくれた。

 正直、自分でも、訳が分から無くなるくらい嬉しかった。

 

 健流の、自分の戦う動機すら説明出来ない私を、手助けしてくれるという彼の優しさに、涙が出そうになるくらい嬉しかった。


 彼は、そんな雰囲気を誤魔化すように、軽口を叩いた。

 とても楽しかった。

 人生でこんなやり取りをしたの初めてだった。


 でも、それだけじゃなかった。

 短い期間なのに、彼は私の仇が取れなくて焦る気持ちを見抜いていた。

 そして、それを思いやってくれているのに、また嬉しすぎて泣きそうになった。

 私はこんなに涙脆かったのだろうか・・・

 敵組織に恐れられている『アルテミス』である私が・・・


 私は気になった。

 だから聞いてしまった。

 何故私を気にかけてくれるのかを。


 すると、彼は、明らかに誤魔化している言葉と態度を見せた。

 本心は、なんとなくわかる。

 だって、自分で言っていたから。


『如月を・・・泣かせてんじゃねぇよ!!』


 多分、彼は私を放っておけないんだ。

 とても嬉しい。

 でも、あの誤魔化し方は無いと思う。


 その後も、健流との会話は楽しかった。


・・・・・・・・・・・・・


 これからは、同じ職場だ。

 ずっと話せる。

 嬉しい、嬉しい、嬉しい


 眠くなってきた。

 あれ?なんで健流と話せるだけで、こんなに嬉しいの?


 よくわかんない・・・眠い・・・


 早く・・・早く健流に会いたいな・・・



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次話から第2章です

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