閑話 危機を乗り越えて side姫乃
健流が入院しているこの病院には、治癒の異能を持った者が何人か詰めている。
長の計らいで、健流は優先的に治癒を受けられているが、それでも完治にはもう少しかかるらしい。
一応、明日には退院して、健流の治療は通院となる。
エデンへの加入が本決まりになった健流は、現在書類に署名を一生懸命しているようだ。
私は、邪魔だと病室から追い出されてしまった。
健流は、そのまま明後日の月曜日も学校を休んで、エデンの保有するマンションに引っ越しをするようだ。
本当は、私も引っ越しを手伝いたい気もするけど、それは流石に健流に拒否された。
私は、自分でも何故これほど健流を気にしているのかわからない。
本来であれば、自分とは関係のない事なので、それほど気にする必要はないはずなのに・・・
モヤモヤしつつも、マンションの自宅に向かう。
自宅に着き、入浴しつつ、ぼんやりと昨日の事を思い出す。
・・・・・・・・・・・・・
ミハエル達を撃退してからは、目まぐるしく事態が動いていた。
大和くんは、組織のあるビルに運び込まれ、すぐに治療室送りとなった。
そこで、治癒の異能使いにより、意識の無い大和くんと共に、治療を受けている間、私は事の顛末を長に報告していた。
「・・・とすると、大和健流は、戦闘中に雷撃を食らい、その衝撃で異能に目覚めた可能性が高い、という事だね?」
「はい。おそらくは。」
「・・・なるほど。異能の開花は、遺伝、死にかける事、強い感情によって行われる事が多い。ならばその可能性が高そうだな・・・異能の種類はわかるかな?」
「・・・推測で良ければ。」
「頼む。」
「はい。おそらくですが、なんらかの強化の異能だと思われます。」
「根拠は?」
「戦闘中、大和くんは、最初に強化兵になんとか対応していましたが、それでも、一人を倒すので、精一杯でした。ですが、立ち上がってから、強化兵複数名を倒し、ミハエルとの戦闘中も、途中から力、速度が向上していたように思います。よって、段階的な強化が彼の異能では無いかと思慮されます。」
「ふむ・・・異能を無しで強化兵を倒したのにも驚きだが・・・ん?段階的だって?」
「・・・はい。」
長は考え込んでいる。
私も、そこは気にかかっている。
何故なら、強化の異能は、異能の中ではそれほど珍しい方では無いのだけれど、強化中にさらなる強化が出来るという能力者は、聞いたことが無いからだ。
どれだけの上がり幅があるかはわからないが、強化の上限次第では、かなりレア・・・下手したら、唯一無二な物かもしれない。
「・・・検証が必要だな。それで、彼はエデンに入ってくれそうかい?」
「っ!!」
その質問が来て、私は思わず動きを止めた。
・・・そうだ。
私は、元々彼の勧誘の任務も受けていたのだった。
でも・・・今は・・・
「・・・なるほど。」
私の様子を見て、長は得心がいったという表情をした。
見透かされている・・・
「姫乃くんに一つだけ言っておこう。彼はエースだ。それは『神託』が証明してくれている。彼が加入してくれなければ、おそらく我々は負け、結果この星は・・・」
「わかっています!わかっているのです!ですが!・・・すみません。」
そう、わかっていはいるのだ。
でも・・・私は出来れば、この殺伐とした世界に、彼を引きずり込みたく無いと、今は考えてしまっている。
・・・私の目的・・・両親の仇を討つためには、それが最善な筈なのに・・・どうして・・・
そんな私の様子を見て、長が語りかける。
「姫乃くんには悪いけれど、私は彼にはエデンに加入してもらう予定だ。それが全てにおいて必要な事だと思っている・・・勿論君のためにも、ね。」
「・・・はい。」
頭ではわかっている。
だけど、何故か感情が拒否していた。
「姫乃くん。一つだけアドバイスをしておこうか。今、君が何故拒否感を持っているのか、しっかりと自問自答して、答えを見つけなさい。上辺だけでは無い答えをね。それが、君がさらなる開花を迎え、復讐の呪縛から離れるたった一つの答えだ。君には彼が必要だ。私は君が答えに到れるのを祈っているよ。」
そう言って離れる長。
私は、ベッドで横たわる大和くんのベッド脇でずっと彼の寝顔を見ていた。
『如月を・・・泣かせてんじゃねぇよ!!』
『如月の事は少ししか知らねぇが、授業態度や、ふとした時の焦りを感じる表情なんかで、何かを抱えて、それでも頑張ってるのは分かってるんだ!それを、わけわかんねぇ事で傷つけやがって!絶対に許さねぇ!!』
『てめえらが何なのか俺は知らねぇ。だがな!如月にはこれ以上指一本触れさせねぇ!てめえらみてぇな薄汚ねぇ奴らが触れて良い奴じゃねぇ!!自分が傷ついてでも俺を逃がそうとした、こいつの気高さを汚すんじゃねぇ!!』
『馬鹿はてめぇらだ・・・こいつが、如月がさっき・・・涙を流して顔を伏せる姿を見た時、俺は綺麗だと思った・・・だから・・・今度は笑顔にしてやりてぇ・・・てめぇらみたいな奴の側じゃ、如月が安心して笑えねぇだろうが!!』
『良かっ・・・た。守ってやれ・・・た・・・』
彼がミハエルに言った言葉の一言一句を覚えている。
その全てが私に突き刺さり、胸の中に残っている。
彼はなんで、私なんかの為にあそこまで頑張ったのだろうか。
私にはまだ、わからない・・・わからないけど、わからなければいけないと、心からの叫びが聞こえる。
彼の寝顔をもう一度見る。
ぐっすりと眠っているようだ。
「・・・寝てる時は、結構可愛い顔してるじゃないの。」
私は彼の頬を指でつつく。
あの時の彼の顔・・・私の為に怒っている顔、ホッとしている顔、笑った顔・・・目を閉じれば浮かんでくる大和くん。
こんなに、人の中に入り込んでモヤモヤさせておいて、自分はすやすやと眠っている。
少し、腹が立った。
「私の事を呼び捨てで呼んじゃうし。」
こっちは『くん』付なのに自分だけズルい。
そうだ!私も心の中では大和と呼んでやろう!
私は、大和の事を考えながら、また頬を突くのだった。
・・・・・・・・・・・・・
そろそろお風呂から出なきゃ。
私は、お風呂から出ることにした。
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