第9話 異能組織『エデン』

「異能組織?異能って・・・超能力みたいな力の事か?」


 健流は首を傾げながら聞く。

 一般人である健流には、本やアニメなんかの世界でしか、異能については知らない。

 

「そう。その通りだよ大和健流くん。我々異能組織には、例えば何も無いのに火を起こせたり、水を発生さえたりできるんだ。勿論、各々の個性によって出来ることは違ってくるけどね。」

「・・・・・・」

「で、異能を操る者が所属する組織同士で敵対している事もあれば、協力関係を築いていたりもする。今回は敵対組織だったって事だね。」


 健流は考える。

 あまりにも荒唐無稽な事だ。

 自分の理解を越えている。

 それでも、あのいけ好かない奴が手から電撃を放ったのは間違いない。

 信じられないから信じない、は違う気がするのだ。

 厨二病ごっこにしては、実際に血を流していた姫乃の事を考えると生々しすぎる。

 となると・・・やはり本当なのではないか、と考えていた。


「自分たちの組織が善に属する、なんて一方的な事を言うつもりは無いけれど、それでも、異能テロを未然に防いだり、能力を持たない人を巻き込んだりしないようにしたり、助けたりしているのが私達だよ。」

「・・・そこに、如月・・・イテッ!?何しやがる!?」

「・・・名前!」

「・・・姫乃が所属してるってわけか?」


 途中、何故か脇腹を抓って来た姫乃を文句を言いつつ、おさと名乗る少女に問いかける健流。

 少女はそのやり取りを微笑ましそうにしながらも、しっかりと答えた。


「その通りだよ。彼女は私達『エデン』の中でも最上位の力を持っている。君が彼女を助けた時は、呪いで能力を封じられていて、更にその直前に戦った敵の幹部から重傷を負わされていたから、そうは見えなかっただろうけどね。」

「・・・そんな危険な事を姫乃にやらせてるのか?もし、無理やりやらせてるんなら、例え治療してくれた恩人でも・・・」

「待って健流!!」


 身体から怒気が漏れる健流に姫乃が叫ぶ。


 健流は姫乃を見た。


「私がエデンに所属しているのは、私の意思よ!だから、無理やり嫌なことをさせられてるなんて事は無いわ!エデンはそんな組織じゃない!!」


 少し怒り気味にそう健流に告げる姫乃。

 その表情を見て、健流は無言で姫乃を見つめた後、ため息を着きながら長の少女を見る。

 そして、頭を軽く下げながら、


「・・・恩人に向けて良い態度じゃ無かった。勘ぐった事も謝る。すみませんでした。」


 そう言った。

 姫乃はその健流の様子に少し唖然としていた。

 まさか頭まで下げると思っていなかったのだ。

 逆に長の少女は、クスクスと笑いながら、健流を見ている。

 側付きの群青色の髪の女性は、そんな長の様子を見て驚いていた。


「(・・・長が笑った?珍しい・・・)」


 笑いを終えた長の少女が健流に目を合わせた。


「君はとても面白いね。それに真っ直ぐだ。好感が持てるよ。」

「・・・まぁ、頭が悪い分、愚直にぶつかるしか取り柄が無いもんで。」

「フフフッ!そうかそうか。誇り給え。それは美点だよ。」

「ありがとうございます?」


 健流は少女が何が面白くて笑っているのか分からず、また首を傾げている。

 そんな健流を見て、長の少女は更に言葉を続けた。


「それで、君が今回アルテミス・・・姫乃くんを助けてくれた経緯は聞いている。どこか身体に不調は無いかな?」

「不調・・・そりゃ怪我だらけだから、不調だらけだけど・・・」

「いや、そうじゃないよ。変わった所は無いかと聞いている。」

「変わった所?」

「そうだ。良いかい?君は強化兵・・・人間を改造した兵士と、異能を持つ強力な個体を倒している。一般人の君が、だ。それは普通では無い。自分でも自覚は無いかな?」


 健流はそう言われて、初めてその事を考えた。

 それはそうだろう。

 状況的には九死に一生どころでは無い。

 まず、間違い無く死んでいたであろう状況を乗り越えたのだから。


「自分の身に起きた事が分かっていないようだね。だが、それも仕方がないだろう。今は身体を治すと良いよ。にしても、君は姫乃くんを大事に思っているんだね?」

「・・・はぁ!?」

「っ!?」


 長の少女の言葉に健流と姫乃は狼狽する。


「だってそうだろう?明らかに人を越える力を持つ者を相手に、一歩も引かなかったそうだし、得体のしれない私達を前にしても、まず、姫乃くんの事を考えようとした。それが、大事に思っていない以外、何を言えば良いのかね?」

「・・・いやっ・・・その・・・ちが・・・わない、かもしれないけど・・・」

「・・・・・・」


 そして、続く言葉に、更に狼狽しながらも、否定はしない健流に、真っ赤になる姫乃。

 初々しいモノを見るかのように少女は笑い、こう切り出した。


「大和健流くん。君、『エデン』に入らないかい?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る