第7話 目覚め(5)
「大和くん・・・生きてたの?早く逃げて!」
如月は叫んだ。
しかし、大和は動かない。
「・・・呆れた丈夫さですね。だが、止めをさせばいいだけの事。」
ミハエルは再度手を大和に
「やめて!大和くん早く!!」
それを見て、如月は再度叫ぶ。
「・・・・・・よ。」
「えっ!?」
大和が何かを呟いた。
如月はよく聞き取れ無かった。
「命乞いですかね?まぁ、見逃しませんが。」
ミハエルが嫌らしく笑うと、雷撃を発動させようとする。
「・・・・・・ねぇよ。」
再度、大和が何か
ミハエルは、残忍な性格をしている。
だから、大和に命乞いをさせた上で無残に殺してやろうと思い直し、雷撃の発動をせず、帯電させた状態で、待機させていた。
「くくく・・・よく聞こえませよ?もう少し大きな声で言ってくれないと、止めを刺しちゃいますよ?ほら、そこのお嬢さんにも聞こえるように大きな声で、ね。」
「大和くん!聞く耳持たなくて良い!早く!お願い!逃げて!!」
更に、如月にも聞かせ、目の前で大和を殺して心を折ろうとした。
そこで、大和は顔を上げる。
その表情は憤怒の表情だった。
「如月を・・・泣かせてんじゃねぇよ!!」
大和の怒声が響き渡る。
呆気に取られるミハエル。
予想外の言葉に呆然とする如月。
その瞬間を、大和は見逃さなかった。
気を取り直し、雷撃を発動しようとするミハエルの目の前から、突然、消える大和。
「はっ・・・!?」
次の瞬間、拳を引いた状態の大和がミハエルの鼻先にいた。
「おらぁぁぁぁぁ!!!」
「ぶぅっ!?」
完全に顔面に入り、吹っ飛ぶミハエル。
「如月の事は少ししか知らねぇが、授業態度や、ふとした時の焦りを感じる表情なんかで、何かを抱えて、それでも頑張ってるのは分かってるんだ!それを、わけわかんねぇ事で傷つけやがって!絶対に許さねぇ!!」
怒髪天と言えるほどの怒りを、全身から発する大和。
「がっ・・・は・・・貴様・・・無能力者の分際でこの俺に!」
起き上がるミハエル。
しかし、そこに大和がまたしても飛び込んだ。
「うるせぇ!!」
今度は腹を蹴り飛ばす。
「ぐほっ!?」
倒れ込むミハエル。
「てめえらが何なのか俺は知らねぇ。だがな!如月にはこれ以上指一本触れさせねぇ!てめえらみてぇな薄汚ねぇ奴らが触れて良い奴じゃねぇ!!自分が傷ついてでも俺を逃がそうとした、こいつの気高さを汚すんじゃねぇ!!」
大和はマウントを取って顔面を殴りつける!
「・・・大和・・・くん・・・」
如月は、頬を流れる何かに気づいた。
手で触ってみて、初めて自分が、また涙を流しているのに気がついた。
先程まで流していた涙とは温度が違う。
温かい・・・胸にも何かが灯る気がした。
「いつ・・・までも・・・調子に乗るなぁ!!」
「があぁぁっ!?」
「大和くん!?」
ミハエルが手を大和の胴体に触れ、雷撃を発動させる。
大和の身体は感電し、痙攣した。
そこでミハエルは腕を振り、大和を身体の上から叩き落とした。
身体を起こすミハエル。
「はぁ・・・はぁ・・・ぺっ。クソッ!こんなゴミにこれほどやられるとは!ちっ!勢い余って殺しちまった!痛めつけて屈辱を返してやろうと思ってたのに!」
「お前!!」
「・・・予定が狂った。さっさとアルテミスを殺して休ませてもら・・・うおっ!?」
大和が倒れて、叫んだ如月の方に向かおうと、大和から視線を切ったミハエルの足首が、突然何かに掴まれる。
「・・・触れさせねぇって・・・言っただろうがぁ!!」
「こいつ!?先程よりも力が強っ・・・うがあぁ!?」
大和は、足首を掴んだまま立ち上がり、そのままミハエルの身体を振り回し、壁に叩きつけた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「き・・・さま・・・なん・・・で、生き・・・て・・・る?」
「ああっ?・・・はぁ・・・はぁ・・・如月を守るって・・・はぁ・・・はぁ・・・決めたんだよ・・・死んでられるか!」
「バカ・・・な」
「馬鹿はてめぇらだ・・・こいつが、如月がさっき・・・涙を流して顔を伏せる姿を見た時、俺は綺麗だと思った・・・だから・・・今度は笑顔にしてやりてぇ・・・てめぇらみたいな奴の側じゃ、如月が安心して笑えねぇだろうが!!」
倒れているミハエルをそのままにし、大和は囲んでいる強化兵の方を向く。
強化兵は、大和の発する怒気に尻込み、後ずさる。
「一人も逃さねぇ!!」
大和は強化兵に襲いかかる。
一人、また一人と強化兵が倒れ、最後は大和のみが立っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「嘘・・・大和くん・・・あなたまさか・・・異能が?」
大和の異常な力と速度、耐久力を見て、如月が呟く。
大和はそのままミハエルの方を向く。
「そんな・・・すぐに・・・組織に連絡をしないと・・・」
ミハエルは、そう呟きながら、這いずって逃げようとしていた。
大和はミハエルに近づき、胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「ま、待て・・・」
大和が、拳を固め、腕を引き絞る。
「二度と如月の周りを、うろちょろすんじゃ・・・ねぇ!!」
「ごっ・・・ふ」
渾身のストレート。
ミハエルの水月に突き刺さった。
ミハエルは白目を向いて倒れており、起き上がることは無かった。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
大和は残心を解き、如月の方を向く。
「無事か・・・如月・・・怪我は・・・大丈夫か?」
「大和くん!!あなたの方こそ怪我は!?」
身体を引きずり、大和の方に向かう如月。
その様子に、大和はホッとした表情を見せた。
「良かっ・・・た。守ってやれ・・・た・・・」
そこまでだった。
意識を無くした大和は、如月の方へ倒れ込む大和。
「大和くん!?ちょっと!大和くん!?」
そんな大和を抱きとめきれず、座り込みながらも抱きしめる如月。
「アルテミス!無事か!!」
そこに、一人の男が走り込んできた。
「猿投さん!?私より、早く大和くんを連れて医療施設に!!」
「大和?それにこれは・・・」
猿投と呼ばれた男は、倒れているミハエルや強化兵を見て眉を顰める。
「そんな事より早く!!」
「あ、ああ。わかった。医療班が表にいる!すぐに連れて行こう!!こいつらの後始末は後続の応援に頼むことにしよう。」
如月に促され、猿投は動き出した。
「大和くん・・・死なないで・・・」
如月は、自分の怪我の事も忘れ、大和にすがりつきながら無事を祈った。
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