第6話 目覚め(4)side如月姫乃

 先ほどの幹部と同じ『ギガンテス』所属、『雷撃』のミハエル。

 最近勢いを増しており、幹部昇格間近との情報を得ていた男だ。

 その性格は冷酷で残忍。

 雷撃を操るため戦闘能力は高く、危険な男だ。


「仕留めた?まだ仕留めて無いんじゃない?」


 私は、回復するために会話を続けようとした。

 しかし、ミハエルはニヤリと笑って、


「くくくっ。いえいえ、あなたはもう詰んでいますよ。何故なら、あなたは今、異能が使えない。」

「なんですって?」


 私は、『月光げっこう』を発動しようとした。

 しかし、妙な感じが邪魔をして、上手く発動出来なかった。


「・・・何をしたの!」

「ふむ。実は、先程の短剣には、ある異能者が呪いをほどこしていたのです。その呪いは・・・異能の封印。」

「っ!!」

「もっとも、長時間とは行きませんけどね。ですが、手負いの状態で、異能も使えない今のあなたであれば、狩るのは造作も無いでしょう?」


 ミハエルがそう言った瞬間、背後から、彼の部下と思しき強化兵が10名位現れた。


 まずい・・・

 このままじゃ・・・

 

 私はなんとか時間を稼ごうと、会話を続ける。

 しかし、男は付き合うつもりは無いようで、


「くくく・・・あなたを仕留められるなら、どうだって良い。あの、『アルテミス』と呼ばれるあなたをな!!」


 そう言葉にした。

 殺される!?

 こんな所で!?

 まだ、両親の仇も取れていないのに!!


 激情が心を支配する。

 しかし、うまく異能が発動しない。

 なんでよ!!

 お父さんとお母さんの仇を取るのが、私の使命なのに!!


 悔しくて涙があふれそうになった。

 そんな時だった。


 物陰から、誰かが飛び出して来た。

 それは、ここの所ずっと観察してきた、大和健流だった。


「あなた・・・なんで・・・」


 思わずこぼれる言葉。

 彼はいつもの飄々とした表情では無く、憤怒の表情だった。


「てめぇら!女の子に寄ってたかって、何考えていやがる!」


 彼は私を助けに来たらしい。

 でも、駄目!

 彼はまだ異能が目覚めていない!

 そんな状態では、殺される!!


 強化兵が彼に襲いかかる。


「邪魔よ!逃げて!!」


 今、彼を殺されるわけにはいかない!

 彼はエデンのエース・・・救世主の筈なのだから!


「うるせぇ!女の子置いて逃げられっか!!」


 しかし、彼は聞いてくれなかった。

 迎え撃とうとしたのだ。

 

 次々と殴り掛かる男達。

 彼は何発か殴られたようだったけど、立っていた。

 見た目とは裏腹に、喧嘩慣れしているようだった。

 しかし、私にはそれ以上の驚きがあった。


 嘘!?

 相手は強化兵よ!?

 その辺のチンピラとはわけが違うのに!

 それだけ動けるなら逃げ切れるかもしれない。

 私の失態のせいで、彼が殺される事態だけは防がなければ!!


「早く逃げなさい!私は良いから!!」

「うるせぇ!お前の方こそさっさと逃げやがれ!」

「くっ・・・」


 彼に逃げるようにうながすも、言うことを聞いてくれない。

 大声を出したせいで、腹部の傷が痛み、声が漏れ出る。


 逃げずに戦う大和健流。

 強化兵も、彼を倒せない事に冷静さを欠き、大ぶりの攻撃になった。


「うらぁっ!!」


 彼はカウンターと追い打ちで、強化兵を倒してしまった。

 その事実に驚くも、それどころでは無かった。

 そのせいで、ミハエルを本気にさせてしまったのだ。


「・・・ほぅ。雑兵とは言え、それを倒すとは・・・ね。なら、私が相手をしてやろう。」

「まずい!お願い大和君!お願いだから逃げてよ!あいつはまずいの!!・・・くっ!」


 逃げて欲しい、早く逃げて!

 あなたはエデンに必要になるのよ!?


「・・・馬鹿・・・言うなよ。怪我してる・・・女の・・・子・・・残して・・・逃げられっか・・・よ。」

「・・・なんでよ!お願いだから逃げてよ!」

 

 動き続けて息も絶え絶えの癖に、一向に逃げようとしない。

 私は、逃げてくれない彼にどうして良いかわからず、涙を零してしまった。

 彼が、私を必死に助けようとしてくれているのはわかる。

 それが嬉しいとも感じる。

 彼はとても優しいのだろう。

 でも、そんな彼が、自分の失敗のせいで死んでしまう。

 私は、後悔した。

 慢心せず、憎悪に突き動かされず、応援を呼んでいたらこんな事には・・・少なくとも、殺されるかもしれない強者を相手に必死で戦っている、心優しい彼は助かった筈なのに!


 しかし、そんな私を見て、彼は苦しそうに、でも満足そうな笑顔で言った。


「・・・はっ。いいもん・・・見れたぜ。心は・・・決まった。絶対、逃げねぇ。」

「・・・どうして・・・」

「どうしても・・・だ。」


 私は呆然としてしまった。

 彼が作る不器用な笑顔が、とても格好良く・・・頼りがいがあるように見えた。

 こんな事は人生で初めてだった。


「青春はその辺りで良いかね?呪いで異能が使えないお姫さまに、普通よりちょっと頑丈な少年。こんなものに時間をかける訳にはいかんのだよ。」


 ミハエルの声が、私を現実に引き戻した。

 掌を彼に向ける。


「駄目っ!!」


 焦って叫んだけど、ミハエルはそのまま雷撃を放った。


「さよならだ。ナイト君。」


 雷撃が彼を包む。

 彼は体中から煙を上げ、その皮膚は焼け爛れていた。

 そして、そのまま地面に倒れ伏す。


 私はその姿を見た瞬間、言いようの無い悲しみが全身を包んだ。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


 最初、その声が自分の声だと思わなかった。

 命を賭して、私を守ろうとした彼の姿を見たら、自然と出てきたようだった。


 私は、両親を殺されて以来、初めて心が折れそうになってしまった。

 気づけば涙まで流れていた。

 

 ミハエルが近寄って来る。


 どうやら、私もすぐに跡を追うようだ。

 長、すみません。

 エデンのみんな、ごめん。

 そして・・・ごめんなさい、大和君。

 あなたの事、もっと知りたかったな・・・


「それでは死にな・・・何!?」


 ミハエルが動きを止める。

 私もそちらを見る。

 すると、そこには・・・


 その身をボロボロにして立ち上がる、彼の姿があった。

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